【変わっていく自分を支える、くらしの相棒】第2話:住まいに取り入れた、わたしをちょっと快適にする道具

ライター渡辺尚子

料理家のこてらみやさんは、生活環境が変化しても、新しく取り入れた道具を上手に使って、居心地のよい暮らしを続けています。第1話では、大切な植物との暮らしを支える「相棒」について教えていただきました。

第2話では、お家の中で活躍している意外な「助手」のことからご紹介したいと思います。

 

リフォームしたキッチンには、たよれる「助手」が

料理家にとって、台所は仕事場です。こてらさんは4年前、マンションの大規模改修が終わったタイミングで、キッチンのリフォームにとりかかりました。これには、夫のノブさんが背中を押してくれたそう。

こてらさん:
「もとは義父母の暮らしていた部屋なのですが、キッチンのシンクが小さいし、収納が使いにくいしで、合っていなかったんです。リフォームはお金もかかるし……と思っていたけれど、夫が『今度はあなたの仕事の場にもなるから、やったほうがいい』と言ったんです」

こてらさんは心を決めて、「私たちにとって人生最後のリフォームになるだろうから」と、設計士にまかせきりにせず、使用する部材選びから参加しました。

キッチンのベースはIKEAで廃盤直前のリーズナブルなものを。その分、天板にはお金をかけて、熱々の鍋も直置きできるセラミック製に。L字型のキッチンにアイランドキッチンを配したら、ダイニングを見わたせるし、人の多いときもゆったりと料理できるようになりました。

「夜眠れなくなるぐらい考えましたが、思い切って直してよかったです」とこてらさん。

そんなことをわたしたちに話しながら、「あ、ちょっと部屋が暗かったですね」とこてらさんが言いました。

こてらさんは熱々の棒茶を淹れている最中。代わりに灯りをつけようと、壁のスイッチを探していると、こてらさんが「大丈夫です」と応えて「アレクサ、ダイニングをつけて!」と声をあげました。途端にパッと部屋が明るくなります。

わあ、アレクサだ!

こてらさん:
「便利なんですよ。洗い物などで手が汚れているときなどに、助かります。

ここの照明は光の色や強さも調節できるようにしてあるから、材料を切るときは『灯りを白くして』、食卓を囲むときは『灯りを電球色にして』とか。『暗くして』とか『明るくして』なんていうのもできるんです」

 

忘れがちなタイマーも、アレクサにおまかせ

照明だけでなく、タイマーもアレクサを使っているそうです。なんと優秀な助手!

こてらさん:
「パンを発酵させるときなんて、3〜4時間後だから忘れちゃうでしょ。一度に複数のタイマーをセットすることもできるから、いくつかの作業を同時にするときも便利なんです」

へええ、へえええー、と驚きの声をあげるわたしたち。

アレクサが珍しかったというのもあるのですが、こてらさんは保存食や漬物の本など、手をかけた伝統的な文化を見直している料理家、というイメージがありました。それに、家の中にもアンティークが多いし、落ち着いた雰囲気。そのこてらさんがAIを取り入れていることが、意外だったのです。

こてらさん:
「はい、よく驚かれます。私はパソコンの設置なども苦にならないほうだし、工夫するのが好きなんですよね。買い物には慎重になるほうですが、『もうちょっとこうだったらいいな』と思ったときには、とことん調べて、良いものがあれば導入するんです。

アレクサは、姉が先に使っていたんです。最初は『電気のスイッチぐらい、自分の手でつけたほうがいいんじゃない? 身体を動かさなくなるんじゃないの?』なんて言っていたのですが、使ってみたら意外と便利で。夫も、体調が悪くて動けないときに活用していました」

 

後半生を朗らかに生きるレッスン

京都でアンティークショップを営むお姉様は、新しいものが好きで、電気製品も次々と試すほう。良いものがあると、妹のこてらさんにも教えてくれるそうです。
小型の布団乾燥機も、お姉様が教えてくれたもの。

こてらさん:
「場所をとらないし、寝付きがよくなるし。もともと湯たんぽを使っているのですが、それだけだと寒いんですよね。寝る前に布団乾燥機で布団全体をあたためておくと、毎晩『あー、あったかくて幸せー』と思いながら眠りにつけて、夜中に起きなくなりました」

こてらさんは「これまで自分にお金をかけてこなかったけれど、今は一人だし、時間的に余裕もできたし。宝石もブランドバッグもいらないから、暮らしに快適なものは取り入れようと思うようになりました」と、言います。

五十代なかばは、生活のリズムも、心身も少しずつ変わってくる年頃。

だからこそ、家族や周りの人を大切にするように、自分のことも少しだけ大切に扱ってみる。それは、後半生を朗らかに生きていくための大事なレッスンなのかもしれない、と思いました。

 

小さなお鍋が運んでくれる、「今日もおいしくて幸せ」

こてらさんは、心地よく毎日を暮らしていくことが、どれほど幸せで大切なのかを知っているんだな、と思いました。家族の介護や看病を経て実感したのかもしれません。

あったかくて幸せ。おいしくて幸せ。こうした幸せは、思い返したら記憶に残らないぐらい、ささやかで瞬間的かもしれません。けれどもそういう一瞬一瞬がちりばめられた毎日は、ドラマチックな出来事が何もなくても、豊かで幸福な生き方なのかもしれない。

小さなお鍋を見せていただいたことで、その思いはいっそう強くなりました。アルミ製の軽い鍋と、ストウブの小さな鍋。どちらも最近の買い物だそう。

アルミ鍋は、一人分の麺を茹でたり煮物を作ったりするときに。そのまま冷蔵庫にも入るサイズなのが気に入っているそうです。

ストウブのほうは一人用の炊飯鍋ですが、野菜のオイル蒸し煮や、ちょっとした揚げ物にも。「大は小を兼ねるというけれど、小は小なりの活躍があるんですよね。こないだはえびせんがちょっとだけ食べたくなって、ストウブに油を入れて一枚ずつ揚げながら、10枚ぐらいいただきました」と、こてらさん。

こてらさん:
「夫が炊きたてのごはんを食べたい人だったので、ごはんは毎日土鍋で炊いていました。いまはこのストウブで毎日1合炊いて食べきります。

炊きたてのごはんとお漬物があれば、贅沢をしなくても十分幸せ。よかったら一緒に食べていきませんか」

こてらさんにそう言っていただいて、私達はダイニングでお昼をいただきました。

湯気のあがる香ばしいごはんと、お吸い物、ふわふわのだし巻き玉子に、ぬか漬けの野菜を数種類。
おいしくて、あたたかくて、お腹も心も満たされました。

このときに皆で囲んだ、どっしりとしたダイニングテーブルのことをぜひお話したいのですが、つづきは第3話で。

 

【写真】井手勇貴

 

こてらみや

料理家・フードコーディネーター。シンプルな調理法で素材のおいしさを引き出す料理を得意とする。ライフワークは、旬の食材でびん詰めを作ること。著書に、『料理がたのしくなる料理』(アノニマスタジオ)、『生姜屋さんとつくった まいにち生姜レシピ』(池田書店)、『365日、おいしい手作り!「魔法のびん詰め」』(王様文庫)、『レモンの料理とお菓子』(山と渓谷社)、『まいにち お漬けもの』(世界文化社)など。Instagram:@osarumonkey


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