【変わっていく自分を支える、くらしの相棒】第3話:人生の節目を見守ってくれる、大切なもの

ライター渡辺尚子

料理家のこてらみやさんは、生活環境が変化しても、新しく取り入れた道具を上手に使って、居心地のよい暮らしを続けています。第1回では、ベランダガーデニングを助けるたのもしい道具を、第2回では 家事を助けてくれる意外な「助手」について教えていただきました。

第3話では、ダイニングルームの中心にある、長年の「相棒」のことをお話ししたいと思います。

 

オーバル型で、仲良く、丸く、円満に

「いつものごはんですけれど、よかったらご一緒しませんか」と、こてらさんがお昼を用意してくださいました。

テーブルは、どっしりとしたオーバル型。

こてらさん:
「丸いテーブルは『角が立たない』といって、縁起がよいそうですね。仲良く、丸く、円満に。なにより、丸いほうが人数を気にせず囲めるので良いなと思うんです」

天板に角がないから、大人数でも囲みやすい。集まった人たちと仲良く輪になれば、自然と語らいが生まれます。

また、中板(エクステンション)を抜けば、コンパクトな丸テーブルにもなります。少人数で使うにはこれで十分。

 

捨てられそうだった実家のテーブルを引き取って

ダイニングテーブルは、もともとご実家で使っていたものだとか。

こてらさん:
「私が小学生の頃、父親が買ってきたんです。デンマーク製のようですが、父は日本で見つけていました。姉は新しいもののほうが好きで、実家にあるものもすぐ捨てたがるんですよ。これも『茶色い家具はいらない』と言うので、実家をリフォームするタイミングでもらってきました。

ムク材だから、何度でも削ってメンテナンスできます。この家に持ってきてからすでに二度、夫と一緒にサンダーをかけて、ステインを塗ってきれいにしたんですよ」

天板を削るなんて、もしも失敗したらどうしよう。ひるんでしまいますが、こてらさんは「家具屋にお願いすると、日を合わせて取りに来てもらったり、運び出したりするのも面倒だし、できることは自分でやろうと思って」と、ニコニコしています。夫婦二人で汗をかきながら、手入れしていく。仕上がったテーブルでお茶を飲み、「うまくできたね」と喜びあう。そうした時間がまた、思い出になっていきます。

 

不要なものは捨てる、と割り切れなくても

こてらさん:
「古くても良いものを手に入れて、メンテナンスしながら長く使い続けていくのは、父の影響かもしれません。この家で使っている家具や器は、骨董商だった父が自分の店に置いていたものも多いんです」

そう言われて見回してみると、飴色に光るキャビネットなど、今どきなかなか見かけないような調度品がそこここに。ソファの脇にある大きな猫の陶磁器も、お父様が「ランプシェードをつけて、西洋のお客様向けに売り出そう」と中国で買い付けてきたものだそう。

こてらさん:
「いまは、不要なものを捨ててすっきりと暮らす方向にいっていますよね。でも、なかなかそうもいかないんですよね」

家族から受け継いだものには、思い出があるからです。

こてらさん:
「子どもの頃から、家族でこのテーブルを囲んでいました。

お正月に親戚が集まると、いとこと卓球をするんです。テーブルの真ん中に、ネットの代わりにティッシュボックスを並べて。父が『勝ったほうに1000円あげる』というので、張り切って試合をしました。あとは、いとこたちとグレープフルーツの早食い競争をしたりとか」

楽しげな様子が浮かんできます。子どもたちの歓声や大人たちの和やかな表情、その中心にいつもあった、このダイニングテーブル。

「もう何十年も使っていますが、とっても丈夫なんですよ。時々、天井のライトの高さを調整するのに登るんですけれど、びくともしません」と、こてらさんが笑います。

揺らがないものが住まいの中心にあるということ。それが、この家の居心地のよさにもつながっているように感じました。

 

揺れる自分も包み込む、暮らしの相棒たち

楽しい思い出は、懐かしさだけでなく、人生の節目が訪れたときに、揺れる心をつなぎとめてくれることがあります。

夫のギター、コーヒーのセット、本棚に並ぶたくさんの本。

お姉様が「妹の分も」ともらってきてくれた、祇園祭の厄除けちまき。

そして、こてらさんが小さかった頃から今までを知っている、ダイニングテーブル。

身近な人との思い出が染み込んでいるものや道具は、目にとまるたびに心をあたためてくれます。だから、一人暮らしになった今も、こてらさんの家はなんだか賑やか。ひとりぼっちじゃないのです。

10年前の日々と今が違うように、これから10年先もまた違う日常が続いています。それでも、案ずることなかれ。長いつきあいとなった暮らしの「相棒」は、手を入れるほどにますますたのもしさが増していくでしょう。歳を重ねてできないことが増えてきたら、新しい「助手」の力を借りていけばいい。

さあ、私の暮らしの相棒は、なんだろう。どんなものと一緒に、これからを暮らしていこう。自分の日常が愛おしくなって、身の回りを見つめ直したくなりました。

 

【写真】井手勇貴

 

こてらみや

料理家・フードコーディネーター。シンプルな調理法で素材のおいしさを引き出す料理を得意とする。ライフワークは、旬の食材でびん詰めを作ること。著書に、『料理がたのしくなる料理』(アノニマスタジオ)、『生姜屋さんとつくった まいにち生姜レシピ』(池田書店)、『365日、おいしい手作り!「魔法のびん詰め」』(王様文庫)、『レモンの料理とお菓子』(山と渓谷社)、『まいにち お漬けもの』(世界文化社)など。Instagram:@osarumonkey


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