第15回 カフェの状況が一転!!
デザイナー 村田
■◇◇■ 第15回 「カフェの状況が一転!!」 ■◇◇■
今週は、いよいよオーナーの登場です。
今まで一人で自由奔放にやっていたのが夢のよう。
彼が帰ってきた途端、どんどん彼のペースに引きずり込まれ、最終的にはカフェ終焉に
行き着いてしまった。
今まで築き上げてきたものがガタガタと音を立てて崩れてしまったのだ。
オーナーの名前はダニエル。30代後半。
DIYが趣味で、長い髪を後ろに束ね、いつも何かを作ったり修理したりしている。
長身でがっしりした体は、カフェのオーナーというよりも電気工事にやって来た
電気屋の兄ちゃんといった感じ。
スウェーデンの北部出身で独特な訛りの持ち主。
当時まだスウェーデン語が侭ならなかった私にとって彼の話すスウェーデン語は
他の誰よりも難しかった。
「一ヶ月間、ちょっと旅行に行ってくるから」と言って私とカフェをおいて
出て行ったが、結局予定は変更され、更にもう一ヶ月帰って来なかった。
何のためらいも無くメールで一言、「もう一ヶ月居させて。」
そんな所からも彼が普通ではないのはお分かりかと思うが、本当に誰もが認める
変わり者だった。
真っ赤に染まったトマトやパプリカを眺めるのが大好きで、大量に買って来てはそれを眺めて
「美しひっ。。。」
とため息まじりに呟く。
特に赤い艶やかな野菜が好みらしく、瑞々しく輝いた野菜達を見とれる眼差しは
モネの絵でも見ているかのようであった。
又、日本の事を何も知らない彼は、日本人なら誰もが空手を得意としている思っていたし、
日本にはまだ忍者がいると信じ込んでいた。
日本人の私を見て、本気でカンフーとも空手とも忍法とも言えない訳の分からない
ポーズをしてみせたりする。
外国の4、5才の子供に有りがちだが、彼は40前の立派な大人。かなり寒い。
更に、彼は日本人なら誰もが魚を簡単に捌けると思っていた。
しかも鯵や鰯のような小さな魚ではなく、サーモンやマグロのような大きな魚を。
ある日突然大きなサーモンを一尾丸ごと買ってきて、得意げに私の前に
差し出してきたことがある。
「えっ?私にどうしろって?」
確かに小さな切り身を買うよりもずっと経済的だが、出刃包丁も持ってなかった私は
一尾を丸ごと買って下ろすなんて考えもしなかったし、やりたくもなかった。
「日本人でしょ、日本人なら出来るんじゃないの。
てっきり佳乃が喜ぶと思って買ってきたのに。」
そんなアホな。いきなりサーモンを目の前に出されて喜ぶ女の人なんていないっつうの。
どうすれば良いのか分からず暫くサーモンとにらめっこ。
触ってみると大きくて堅い鱗まで付いている。
最悪。
しかし、プンプン腹を立てていたって何も始まらない。
取り敢えず包丁の側面でピタピタ上から叩いてみる。
すると身がしっかりと締まっていて実に美味しそう。
すっかり覚悟を決めたサーモンは、ここまで来たらもうやられるがままだ。
「よしっ」
気合いを入れて、まずは包丁の背で鱗を剥がす。
果てしなく続くサーモンの体一面にびっしりと張り付いている鱗。
勢い良く剥がさないと取れないが、勢い良く剥がした鱗はキッチン中で飛び散り放題。
気づいたらあちこちに鱗が張り付き、真昼の日光を浴びてキラキラしていた。
やっと鱗を取り終え、三枚下ろしに取りかかる。
どこから攻めよう。
普段魚なんて下ろした事も無かった私が、いきなりサーモンなんて出来る訳が無い。
しかも普通の包丁で。
大きくてヌルヌルしてて骨は硬くて。
サーモンの身がぼろぼろになるのはともかく包丁の方が駄目になってしまうのでは
ないかと気になって、結局半分もしないうちにダニエルにバトンタッチ。
自分で買ってきたのだから責任を取る意味でも「No」とは言えず、
渋々彼の自前の包丁で奮闘開始。
最初は慣れないサーモンを相手に四苦八苦していたが、
そのうち無気になってきたのか、頭を手前、尻尾を向こう側に置き、
左手を腕ごと上からサーモンの首に回し、がっちり押さえたところで、
中腰のまま向こう側の尾の部分から包丁を入れ、刃を手前の自分へ向けて、
バイオリンを弾くようにギコギコ切り始めた。
その時の彼の体勢と言ったら、涙が出てくるほどおかしくてお腹を抱えて笑い転げた。
彼は必死でやっていたが、あれだけ魚と触れ合うのは気持ちが悪かっただろうと思う。
ぴったり肌と肌が触れ合っていたし、顔もかなり接近していた。
意外にも上手いこと切り身になっていったが、大きいだけに切っても切っても
なかなか終わらない。
2時間ほど戦い続けただろうか、最後の一切れが片付いた頃には身も心も包丁も
相当ボロボロになっていた。
「日本の寿司職人だったらこんなのあっという間に捌いてしまうんだろうな。」
と思いつつ、すっかり魚臭くなってしまった彼に拍手。
おかげで3ヶ月はサーモンを買わなくて良いだろう。
彼の日本人に対するとんだ偏見のお陰で、思いがけず大掛かりな一日になってしまった。
やれやれ。
他にも、人気だったカレーに水を入れて薄めてお客へ出したり、
汚いランチョンマットを「このくらいならまだ使えるだろう」と何度も使い回したり。
あげくの果てには、売上金を全て彼が管理するようになり、
「お給料を払うほどの売り上げは無い」と、お給料を一切払わなかったのだ。
このように、彼が旅行から帰ってきてからというもの、段々私のペースが乱れ始め、
私が少しずつ築き上げてきた顧客の層だって、彼の登場とぶっ飛んだ彼のやり方に
次第に崩れていった。
その後、彼の狂いようは勢いを増し、さすがの私もついて行くのがしんどくなってしまったのだ。
丁度その頃、日本は春真っ盛り。
のんきにも私は彼にカフェを任せて、日本へお花見をしに帰ってしまった。
私が桜の木の下で飲んだくれていた間、カフェで何が起こっていたのかも知らず
一ヶ月後戻ってみると、時既に遅し。
常連さんは跡形も無く離れ、カフェはすっかりスッカラカン。
もう一度ゼロから始める気力も無く、私はそれをきっかけにおにぎりカフェに
終止符を打ったのだった。
辞めるのは寂しかったけど、無我夢中でやっていた半年間、色々な人と出会い、
色々な人に助けられた。
お金にはならなかったけど、それ以上の見えない何かをきっと手にしたに違いない。
来週はカフェを運営していた当時のことを振り返って、現在の私の気持ちを色々と綴って
みようと思います。
どうぞお楽しみに!
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