
「去年より、もっと素敵になりたい」
そう思わない人っていない気がしますと話すのは、埼玉県越谷市でセレクトショップ「cour des ciel」(クールデシエル)を営む 西谷恵子 さん(62歳)。
当店の商品ページや読み物に動画でお世話になっている、おしゃれなカメラマンの方に「気になる人がいるんですよね」と教えてもらってお店を訪ねたのが、西谷さんとの出会いでした。そのカメラマンさんも、好きなブランドのデザイナーさんから教えてもらったそう。
今回の特集では、あこがれの人の、あこがれの人。西谷恵子さんのお店を訪ねて、お仕事のこと、おしゃれのこと、子育てのことなど全2話でお話を伺っています。
前編をよむ60代は、おしゃれの幅が広がるとき
まもなく63歳のお誕生日を迎える西谷さん。同世代のお客さまから「歳を重ねて、着られるものが少なくなってきた」という趣旨の悩みを相談されることも少なくないそう。
西谷さん:
「今まで着てきたものを見るから、着るものが少なくなったように感じるのかもしれません。でも60代って、これまで着てこなかった服も視野に入れると、すごくおしゃれの幅が広がる年代なんです。
たとえば若い人が着てるカーブパンツのシルエットが気になるのであれば、60代が着るなら、こういう素材でこのくらいのシルエットのものだといい感じになりそう、などと提案してみたり。着たことがないテイストの服でも、60代ならではの着こなしを探すのが、また楽しいんです。
髪型を変えるのもいいアプローチで、私は本来ベリーショートが大好きなのですが、今はあえてロングヘアを試している最中。髪型を変えると、選ぶアクセサリーや服の傾向も少しずつ変化してきて、また飽きずにおしゃれを楽しめたりしますから」
西谷さん:
「こんなこと言ったら少し大袈裟かもしれないけれど、ファッションって人生を豊かにしてくれるものだなって思っているんです。
好きな服を着ることで、たとえば大事な会議の日にいつもより少し自信が持てたり、勇気が出たり。街を歩いているときに窓ガラスに映る自分を見て『いい感じ』と、前向きな気持ちになれたり。日々の小さな彩りだと思うから。
今より素敵になる『小さな一歩』は無限にあって、おしゃれはいくつになっても楽しいものだなと思います」
人生は儚いと、夫に教えてもらって

36歳のときにご主人を亡くされた西谷さん。そのとき、命についていろいろなことを感じたそう。
西谷さん:
「余命宣告から他界するまで、本当にあっという間でした。手術もできない状態だったので、ただ日に日に衰弱していくのを見守ることしかできなくて。命はなんて儚いんだろうとはじめて感じた瞬間で。だから私は、これまでもこれからも、人生を生き切ろうと思っているんです。いつ終わっても後悔がないように。
それに人生悪いことばかりではないと、今になって思えます。夫が亡くなったときはどん底だったけれど、手を差し伸べてくれる人がいて、ちゃんといいこともあって、今がある。どんな悲しみや困難がふりかかっても、最後には帳尻が合うんだなって、最近は思えるようになりました」
好きを追求する、西谷家の子どもたち
お話が終わった後、お店の一角にある娘さんの制作スペースを見せてくださいました。
西谷さん:
「長男と長女とそれぞれ好きなことをやっています。私がお店に立つ間、祖父母と過ごす時間も多かったですし、親戚一同みんなに助けてもらって、愛されて育ちました。
娘は岡本太郎を敬愛していて、愛をテーマにアート作品を作りつづけています。息子は、一度は介護の仕事に就いたんですけど、どうしても好きなゲームがあるから頼むから一度チャレンジさせてくれと言われて。プレーヤーの大会に出たら、日本一になったんですよ。それをきっかけにゲームの仕事をするようになって、今はゲームを作る側になりました」
好きなことをさせる。言葉にしたらシンプルですが、どう子どもに寄り添うか、同じ親として戸惑う場面も私はあります。西谷さんは、お子さんたちとどう接してこられたのでしょうか?
西谷さん:
「そんな難しいことをしたわけではなくて、たとえば子どもの選択を邪魔してしまったら、いつか子どもたちが人生につまづいたときに『お母さんのせいだ』って思うかもしれない。誰かのせいだなんて思ってほしくないし、ちゃんと自分で選んだことだったら、後悔も少ないと思うから。
もちろんその時々で悩んだり迷ったりしたこともあったと思うんですけど、最終的には子どもが好きなことをやればいいと、親の意向を手放してきたんだと思います」
1日1ミリでも、1年で36.5センチ進める?

すでにお孫さんもいる西谷さん。最近は、出産を機にキャリアがストップしたママ世代から相談を受けることも多くなったのだとか。
西谷さん:
「私も出産して一度仕事を手放したので、揺れる気持ちはすごくわかるんです。辞める辞めないを選ぶことも難しいですし、物理的に続けられない状況だってありますし、妙な焦りも感じますよね。
仕事をストップしたとしても、たとえばデザイナーだったら、SNSで来年のコレクションを見たり雑誌を見たり、子どもとお散歩しながら街ゆく人のファッションを見るとか。1日1ミリだったとしても、10日たてば1センチ、1年たてば36.5センチ進みますから。
そんな風に自分のできる範囲で社会と繋がる意識を持っておくだけでも、いつか機会がきたときに、必ず自分の助けになる気がします。人生は長く続いていきますから」

どんなときも、目の前にいる人のことを思って、愛情たっぷりに寄り添っていらっしゃる西谷さん。お客さまとのエピソードを聞いていたら、装うことと心は密接に繋がっていて、おしゃれを楽しむことは、自分を愛することなのかもしれないと感じました。
去年より、もっと素敵に。そして何より、自分がうれしくなるおしゃれを模索しながら楽しめたなら……
新しい年はまだ始まったばかり。皆さまにとっても、素晴らしい一年となりますように!
photo:濱津和貴(3枚目以外)
西谷恵子
埼玉県越谷市でセレクトショップ「cour des ciel」(クールデシエル)を営む。店舗2Fのカフェスペースでは、フラワーアレンジメントやメイクアップ講座、懇意のブランドの受注会を行うなど、サロンのような場を目指した楽しい企画を開催している。
Instagram: @cour__des__ciel
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