
あたらしい一年のはじまりに、今年はどう過ごそう?と考えた方も多いでしょうか。わが家では毎年、初詣のときに家族で抱負をシェアすることにしています。
「去年より、もっと素敵になりたい」
そう思わない人っていない気がしますと話すのは、埼玉県越谷市でセレクトショップ「cour des ciel」(クールデシエル)を営む 西谷恵子 さん(62歳)。

西谷さんのお店には、もっと自由に、自分らしくおしゃれを楽しみたいと、さまざまな年代の女性が訪れます。Instagramに西谷さんやスタッフさん他、お客さまの試着コーデが日々アップされていて、なんだか皆さん、とっても楽しそう。

当店の商品ページや読み物に動画でお世話になっている、おしゃれなカメラマンの方に「気になる人がいるんですよね」と教えてもらったのがきっかけで訪れた西谷さんのお店。そのカメラマンさんも、好きなブランドのデザイナーさんから教えてもらったのだとか。
今回の特集では、あこがれの人の、あこがれの人。西谷恵子さんのお店を訪ねて、お仕事のこと、おしゃれのことや子育てのことなど全2話でお話を伺います。
夫婦ではじめたセレクトショップ

去年ちょうど30周年を迎えた「cour des ciel」は、もともと長年インポートのアパレルバイヤーをしていたご主人が、独立して開いたお店。当時、百貨店でもなかなか見ないインポートの服がずらりと揃っていることが評判を呼び、感度の高いお客さまがついてくださるように。
開店から3年ほどして軌道に乗り始めたころ、ご主人が大病を患い他界されました。
西谷さん:
「長男は5歳で長女がまだ0歳だったので、なんとかして生きていかなくちゃって、ただただ無我夢中でした。私は出産するまではニットのデザイナーをしていて、お店の経営については知識もゼロで、どうやって展示会をまわって服を仕入れたのか、当時の記憶はほとんどないんです。
彼が亡くなってすぐの展示会では『とにかく力になるから、何でもいいから言ってよ』と取引先の方々が言ってくださったことだけは覚えています。展示会でも泣いてしまって、取引先の方も一緒に泣いてくださって。お店でも家でも泣いて、お客さまが『恵子さん、聞いたわよ』って来てくださって、また泣いて......そうやって皆さんが悲しみを受け取ってくださったから、なんとか立っていられたし、続けてこられたような気がします」
いまは、お客さまの心の声に耳を傾けたい
それから気がつけば27年間、1人でお店を続けてこられた西谷さん。一度もやめようと思わずに続けることができたのは、お客さまのおかげだと言います。
西谷さん:
「たとえば東日本大震災の時、下着を仕入れて被災地に送るなど出来ることをやりつつも『この仕事は何の役にも立たない』と無力感に襲われたことがあって。そんな矢先、計画停電が終わって店の灯りをつけた直後にお客さまが訪ねてきて『すごく安心した。お店が開いててよかったわ』と言ってくださったんです。
その一言があったから、すごく役に立つわけじゃないけれど、なくなったらダメなのかなと思えました。コロナ禍のときも、とにかくお客さまに助けられながらここまで続けられたという思いが強いんです。
だから今は、私がお客さまの話を聞きたい。どんなことを考えているのか、悩んでいるのか、感じているのか教えてもらって、どんな風に毎日を過ごしたいのか一緒にイメージを膨らませながら、お洋服でできることを提案したいと思っています」
西谷さん:
「前の店舗があった建物が建て壊されることになって、この場所に移転したとき、2Fにカフェスペースをつくりました。
もともと厨房だった場所で、店舗スペースにするのが難しくて。それだったらお客さまがゆっくりおしゃべりして、子ども連れの方だったら子どもを遊ばせておけるようなスペースになれば素敵かなと」
店内にカフェスペースができてからは、自然とお客さまがここでコーヒーを飲んで、仕事のことや暮らしのこと、ありとあらゆることをお喋りして「さあ、そろそろ行ってくるね」と、上のフロアにある店舗スペースでお買い物を楽しむという流れができたのだとか。
西谷さん:
「場所があることで、たとえばメイクアップアーティストの方に来てもらって、お客さまがメイクの悩みを相談したり、自分に合う口紅の選び方を教えてもらったり。実際にメイクしてもらって、かわいくなって、うれしくなって、お買い物を楽しんで、また明日からがんばろうと帰っていく。
そんな女性がよろこぶイベントを考えることも増えてきました。いまは大人の社交場というか、サロンみたいな存在になれたらと企画を考えています。
去年は、HAVERSACKというブランドのジャケットの受注会をやったんですね。別注というほどのことでもないのですが、ボタンと裏地だけ選ばせてもらって、そのジャケットをオーダーしてくださったお客さまと食事会をしたんです」

西谷さん:
「そもそも『せっかく好きな服を買っても、着ていくところが少ないのよね』というお客さまの声がきっかけ。好きな服が同じ、という共通項以外、年齢も生活環境もバラバラな初対面の女性20人がひとつのテーブルを囲んで。賑やかにおしゃべりを楽しんで、皆さん笑顔がキラキラしていて、とっても綺麗でした。
それぞれの20通りの着こなしも見れるから、おしゃれの刺激にもなるし、また機会があればやりたいです」
服ぐらいは、自分にぜんぶの矢印を向けて

西谷さん:
「お客さまの話を聞いていると、おうちの外に出たら100%矢印を外に向けてがんばっていらっしゃるんだなと感じます。たとえば開店当初からのお客さまの中には、保育士さんだった方が園長先生になっていたり、看護師だった方が看護師長になっていたり。社会的な責任が大きくなれば、仕事の悩みも増えますし、お話を聞いていると本当にいろいろなことを抱えていらっしゃいます。
だから自分が着るものぐらいは、矢印をぜんぶ自分に向けて、思いっきり楽しんでほしいなと思っているんです。
ファッションに正解はないですし、流行だけ追うより、去年はこういう服装をしたから、今年はこんな服に挑戦してみたいという自分の気分を優先して。とにかく矢印をぜんぶ自分に向けて、おしゃれを自由に楽しんで、日常に向き合うパワーにしてもらえたらいいなって」
西谷さんとお話するうちに、なんだかこの方には何でも話してしまいたいという、不思議な気持ちになりました。きっとお客さまも、西谷さんとお話するのが楽しくて、お洋服のこともなんでも相談できるから足を運びつづけていらっしゃるのでしょうか。
つづく後編では、60代のおしゃれの話や、西谷さんが仕事と育児にどう向き合ってきたかなど、詳しく伺います。
photo:濱津和貴(3,10枚目以外)
西谷恵子
埼玉県越谷市でセレクトショップ「cour des ciel」(クールデシエル)を営む。店舗2Fのカフェスペースでは、フラワーアレンジメントやメイクアップ講座、懇意のブランドの受注会を行うなど、サロンのような場を目指した楽しい企画を開催している。
Instagram: @cour__des__ciel
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