
2025年も残りわずか。忙しない日々にもひと呼吸置いて、年末年始は少しだけ、新しい世界に浸りませんか。当店のスタッフがこの一年で触れてきたおすすめの本と映画を、今日と明日、2日間で紹介します。
前編は本。読書好きスタッフに聞いた「今年の1冊」です。

『僕には鳥の言葉がわかる』(鈴木俊貴著 / 小学館)
「科学エッセイが好きでいくつか読んできたのですが、それが論文になる手前の仮説の段階から描かれ、実験されていく様子を丁寧に、面白く説いてくれる本に、初めて出合いました。何かを不思議に思い、その不思議を解き明かしていく楽しさが科学にはあると思っています。そんな科学の魅力を改めて実感するような、読みながらワクワクする一冊でした。
読後、小6の息子にも貸したのですが、彼にもすごく響いたよう。夏休みの読書感想文にはこの本のことを書いていました。子どもが理科に親しむきっかけにもなりそうな一冊です」(スタッフ高尾)
『それがやさしさじゃ困る』(鳥羽和久著・植本一子写真 / 赤々舎)
「まもなく4歳を迎える娘。子育てに迷い戸惑う場面も多々ありますが、同時に人としてますます面白く、もっと知りたいと思う気持ちも増していて、親子ではない立場から見た子どもの姿に興味があり、手に取りました。
子どもが描いた絵を見て『なんてみずみずしいんだ!』と驚くことがあるのですが、この本にはそれに似た、子どもが放つ繊細なきらめきが詰まっています。同時に、それに対して親ができることの圧倒的な少なさ、大人がつい、してしまうことがいかに余計で無駄であるかに気付かされました。
『大人が子どもの清らかな心を濁らせないようにしよう』と思うのではなく、『そもそも濁っていたっていいじゃん! 』と思える。考えを大きくシフトできるところにぐっときました。自分の子どもはまだ幼稚園生ですが、ゆくゆく学校に通い始め、何かの壁にぶつかったとき、きっとまた読み直すのだろうと思います」(スタッフ白方)
『カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記』(古舘佑太郎著 / 幻冬舎)
「著者がThe SALOVERSというバンドをやっている頃からのファンで、カトマンズまでの旅もインスタグラムで見ていたので、書籍化されてすぐ手に取りました。悩み立ち止まっている姿、都会育ちで潔癖症なところ、青臭さ。そういう著者の人柄が読みながらありありと伝わってきて、それも含めて彼の魅力だなと改めて思いました。
アジアの旅は珍道中で、自分も昔カトマンズを訪れたことがあるので、当時を思い出しながら夢中で読み進めました。今、自分が旅をするなら、もう少し穏やかな旅を選んでしまうかもしれないなと。大人になってしまった今だからこそ、非日常なアジア旅が面白く、一気読みしました」(スタッフ市原)

『中年に飽きた夜は』(益田ミリ著 / ミシマ社)
「私自身も40代。まさに『中年』で、深夜のファミレスで繰り広げられる50歳の女性たちの会話に、分かる分かる!とクスッと笑いながら読み進めました。登場人物たちが『人生に飽きた』と言いながらも、自分たちの歩みを肯定し、新しい発見や小さな楽しみを大事にしようとしているところにも共感しました。年齢とともに感じる様々な変化に戸惑うこともありますが、あれこれ全部ひっくるめて自分の人生を愛おしく大事に味わっていきたいなと、温かい気持ちになれる1冊です」(スタッフ金)
『じゃあ、あんたが作ってみろよ(1)』(谷口菜津子著 / ぶんか社)
「以前から気になっていたこの作品。この秋ドラマ化したのをきっかけに、やっぱり原作も読もうと思い、手に取りました。自分らしさを考えて葛藤する登場人物たちに共感するのはもちろん、自分も気づかないうちに誰かのことを決めつけていないか、自分の言動を省みるきっかけにもなりました。食事を軸に物語が展開していくので、料理が美味しそうだなあとライトな視点で楽しめるところと、内省したくなる深いテーマとのバランスも秀逸でした」(スタッフ波々伯部)

『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(ファン・ボルム著 / 牧野美加訳 / 集英社)
「同世代くらいの女性が、ヒュナム洞という街ではじめた本屋を舞台にした物語。海外文学好きの友人から教えてもらいました。1年近く積ん読していたのですが、今年の秋、気持ちが疲れてしまったときに、直感でこの本を手にしました。本屋を閉めたあと、常連である妙齢の女性たちが店主の部屋にあつまり、夜な夜なビールを飲んだり、おつまみを食べたりしながら、家族のことや世間のこと、仕事のこと、恋人のこと、あーでもないこーでもないと話すシーンがあって、そこが好きでした。
本の中で主人公が、いつか大切な人を理解したいと思ったとき、本棚にある本を取り出すことがあるもしれない、という話をしていて。確かに本とはそういうもので、誰かのことを、よくわからないと感じたとき、その人を理解したくて小説を読むことがあるなと。それってすごくやさしい世界だなと思ったら、通勤電車の中にもかかわらず、ほろりときてしまいました」(スタッフ津田)
『メインテーマは殺人』(アンソニー・ホロヴィッツ著 / 山田蘭訳 / 創元推理文庫)
「ここ最近全然読書ができていなかったので、夢中になって活字を読む体験をしたくて、元々好きだったミステリー小説の中から、興味のあるものを探しました。
ストーリー自体はフィクションなのですが、作者のホロヴィッツ自身が語り手として、実際に起きた出来事を絡めながら物語を展開していくので、現実と虚構を行ったり来たりしながら進んで行く感覚が新鮮で、飽きずにどんどん読み進められました。著者のホロヴィッツ自身がコナン・ドイルやアガサ・クリスティを始めとする古き良きミステリー小説のファンなので、それらの世界観が好きな人は、きっと楽しめると思います」(スタッフ野村)

『めの まど あけろ』(谷川俊太郎著 / 長新太絵 / 福音館書店)
「夫が息子用に買ってきました。毎晩、子どもに2冊絵本を読んでから寝るのがルーティンなのですが、 この絵本は、大人も『声に出して読む』ことの心地よさを味わえる本。ひらがなだけなのに読みやすく、言葉のリズムがいいんです。
仕事で文章を書くことのある自分にとっては、声に出して読みやすい言葉の連なりは頭にも入ってきやすいということが実感でき、新鮮な気づきでした。子どももフレーズをすぐに覚え、『めのまど、あけろ♩』と口ずさんでいます」(スタッフ田中)
『世界をもっとうつくしく(絵本作家バーバラ・クーニーがのこしたもの)』
(アンジェラ・バーク・クンケル著 / ベッカ・スタッドランダー絵 / ほるぷ出版)
「娘の絵本を探しに、本屋さんに行ったときに出合った一冊。小学生の頃図書室で読んだ「ルピナスさん」という絵本のことをいまだに覚えていて、その著者の人生を綴っていると知って購入しました。
絵本ですが、年齢を問わずおすすめしたい一冊。バーバラ・クーニーさん自身の生い立ちや色彩、価値観を描いた伝記本で、大人になったいまだからこそより深く彼女の生き様や信念が伝わってくるように感じました。これから年齢を重ねる自分に寄り添ってほしい物語であり、いつか娘にも譲り渡せたらいいなと思っている絵本です」(スタッフ斉木)
子どもと読みたいエッセイから、大人も楽しめる絵本まで。年齢も性別も超えて、幅広く共有できるのが本の魅力。自分のため、あるいは大切な誰かのための一冊に。この中のどれかが、年末年始の時間を彩る存在になったなら幸いです。
【写真】上原朋也
もくじ
第1話(12月25日)
年末年始にゆっくり読みたい。読書好きスタッフが選んだ「今年の1冊」
第2話(12月26日)
心の栄養補給に。スリルも感動も詰まった「スタッフのおすすめ映画7選」