みなさんこんにちは。安達茉莉子と申します。自他ともに認めるお買い物好きの私ですが、このたび買い物にまつわるエッセイの連載が始まることになりました。私は買い物とは、「出合うこと」だと思っています。みなさんの日々に、良き出合いがありますように。

第十一回 「私」を変化させる魔法
「外面は内面よりも変化させるのが難しい」
—— パウロ・コエーリョ『ブリーダ』(角川文庫)
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今年の冬、いつになく化粧品を買っている。
リップティント、口紅、ハイライト、ビューラー、アイシャドウパレット、アイブロウマスカラ。顔まわりのコスメに始まり、美容液、ヘアオイルも新調した。
お買い物好きの私だが、実は化粧品はそんなに買わない。結局あまり使わないまま使用期限を迎える化粧品が増えるのをもったいないと感じるし、整理の意味でも増えすぎると煩わしくなる。
何かひとつを買ったらそれを使い切りたい。魚の身を残さず綺麗に食べるように。だけど化粧品はそうはいかない。アイシャドウパレットなどはどうしても、手付かずのままの色が残るが、そのたびにごめんねと切ない気持ちになる。
それは全然悪いことではないし、否定するつもりもない。ものを大事にしたいし、人生の中で使い続けている「私の一品」みたいなコスメがある人にも憧れる。だけど、そんな定番コスメもまた、ある日「なんか違う」と感じられて、更新するタイミングが来る。
この冬はどうやらその時がきた。化粧は、私は気分を上げるためにするが、いつものアイメイクをしてもリップを塗っても、心が砂のようにしんと動かない。色や質感自体が似合わなくなったわけではない。だけど、鏡に映る自分の目が、わかりやすく虚無になっている。飽きている。このメイクパターンに飽きてしまった。気分が上がらないのに、なんでメイクなんてするんだ?
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ちょうど時はブラックフライデー。感謝祭の伝統がない日本でも近年定着してきた大セール期間に、きらめいたホリデー気分なコスメを導入したくなった。
そこで久しぶりに新しく買ったのが、Typology.というフランスのリップオイルとグロウドロップス。SNSで広告やPRがよくでているので、見たことがある人も多いのではないかと思う。グロウドロップスの方は、クリームや下地に混ぜて使うので、顔全体に自然でさりげないツヤが出る。
メイクは本当に面白い。魔法のようだなと思う。顔にツヤが乗るだけで、自分の放っているオーラそのものが全然変わる。手のひらに収まる小さなハイライトが、自分の持つ生気を物質面から表現してくれる。リップオイルも薄づきだがそれがよい。やりすぎない潔さが、洗練されていて色っぽいなあと思う。
わあい、素敵なコスメが来てくれた。もうこれで良いかな、と思っていたら、そうはいかなかった。閉じていた門が開くみたいに、どんどん新しく試してみたくなった。冒頭で書いていた、化粧品をあまり増やさないという心の制限も、一時的に解禁された。
店頭のサンプルを試したり、お店でタッチアップをしたり。いわゆるデパコス、プチプラ関係なく情報を集め、気になるものは試してみる。
もしかしたら、コスメが欲しかったわけじゃなくて、自分の定番パターンや、いつの間にか作っていた枠を崩したくなったのかもしれない。似合うと思っている色じゃない、また別の色。新しいメイクの方法。そもそものスキンケア。これが自分だと思っていた姿が、みるみる更新されていくのは面白い。
気づけば、ヨガマットやストレッチゴムバンドなども購入して、外をたくさん歩くようになった。食事や入浴、睡眠など生活全般にもアップデートの波は及んでいて、我ながら目に見えて肌艶や、目の輝きが増してきた。外側が変わると、引っ張られて自分の深い部分で変化が起こる。
痛快だった。自分ってこんな人、自分にはこれが似合う、これが似合わないというセルフイメージなんて、何年か前の思い込みだ。今の自分をちゃんとみてあげよう。月日とともに自分の顔や肌の感じも移りゆくものだし、生きているんだから、同じ状態なんてない。一番合うものは、今の瞬間にある。



東京外国語大学英語専攻卒業、防衛省勤務、篠山の限界集落での生活、イギリスの大学院留学などを経て、言葉と絵を用いた作品の制作・発表を始める。『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)、『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)、『世界に放りこまれた』(ignition gallery)、『らせんの日々 ― 作家、福祉に出会う』(ぼくみん出版会)などの著書がある。10月21日、新刊『とりあえず話そう、お悩み相談の森 解決しようとしないで対話をひらく』(エムディエヌコーポレーション)発売。
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