【暮らしのみずうみ – 松本便り】第19話:夫婦間の、前向きな「あきらめ」
ライター 桒原さやか
えーー! まだ子どもの歯磨きしてないの?
寝かしつけ、また私じゃん……。
「自分ばっかり」が、夫との間で積もりに積もっていたこの頃。でも、夫だって何もしていない訳じゃないのも、わかっているんです。子どもとも遊んでくれていますし、家の掃除や料理だってしてくれます。それに、仕事が忙しいのもわかっているんです。
まぁ、しょうがないよね。
そう思う気持ちはありつつも、そろそろ頑張りの限界が近づいていました。その日は、朝ごはんの準備をしながら、「よし、今日は、溜まっているあれこれを夫と話そう!」と心の中で誓ったのでした。
子どもたちを幼稚園に送ったあと、コーヒーを淹れている夫に近づき、こう言いました。
「私ばっかり子どものお世話していて、もう疲れた!」
冷静に話し合うつもりが、気持ちが溢れてしまい、ついつい怒り全開モードに。でも、いったんイライラモードに入ったら、もう元には戻れません。そこからは、目を三角にしながら、最近思っていることを夫にドドドッとぶつけたのでした。夫の方をちらっと見ると、静かに話を聞いている様子。
ずっと黙っていた彼の第一声はこんな感じでした。
「僕だって疲れたよ!
子どもたちはあっちこっちモノを散らばしているし、ママだって片付けないであちこちモノを置いたままにしてるでしょ? 1日中、家の中片付けてるんだからね」
え……!
予想もしていない夫の言葉に、その場で立ち尽くしてしまう私。いつもは冷静な夫がこんなに怒るのも珍しく、びっくりして返す言葉もありません。
怒っているのは自分だけで、夫がそんなことを感じていたなんて、恥ずかしながら微塵も知りませんでした。
だって、私たちはほぼ24時間一緒にいるんです。私も夫も家で仕事をしていることもあり、3度の食事だって一緒。それに、結婚して10年以上も経ち、夫のことは手に取るようにわかると思っていました。
察してくれない夫にイライラするばかりだと思っていたけれど、それって、お互い様なのかもしれない。
あたりまえでしょうと言われてしまいそうですが、夫婦とはいえ違う人間なんだから、ぜんぶ分かり合えるなんてことはないんだと、改めて気づかされたのでした。
よく、実家の母があっけらかんと、こんなことを言うんです。
「もう、パパ(私の父)には期待してないの。そのほうが楽ちんよ!」
母の言葉を聞くたびに、ちょっとした寂しさと、あんな風にはなるまいという気持ちの両方がありました。でも、もしかしたら、こういうことなのかもしれません。
気づいてくれると、期待しない。
わかってくれると、期待しない。
お互いにぜんぶわかり合えると、期待しない。
そう思ったら、この「あきらめ」も悪くないような気がしてきます。
あの出来事以来、我が家では定期的に「夫婦会議」をするようになりました。とはいっても、子どもが寝たあとに、最近思っていることをふたりで向き合って話すくらい。なにも特別なことはしていません。
それでも、毎回話し合ったあとは、よし、これからもお互いに協力し合おうじゃないか!と、夫とがっちり肩を組んだ気持ちになるのです。
落ち込んだり、イライラしたり、ぶつかったり。これからもいろんなことが起こるんだろうな。それでも、この夫婦会議が続く限り、だいたいのことはなんとか乗り切れそうな気がしています。
桒原さやか
ライター・エッセイスト。岐阜県出身。『北欧、暮らしの道具店』で、お客さま係として6年間働いていたスタッフ。退職後、ノルウェーにある北極圏の街、トロムソに住んでいた。現在は長野県松本市でスウェーデン人の夫と2歳と4歳の子どもの4人暮らし。
著書は2023年4月に発売の「北欧の日常、自分の暮らし- 居心地のいい場所は自分でつくる -」(ワニブックス)。その他、「北欧で見つけた気持ちが軽くなる暮らし」(ワニブックス)、「家族が笑顔になる北欧流の暮らし方」(オレンジページ)がある。
instagram:@kuwabarasayaka
撮影:清水美由紀
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