
好きなものに囲まれて暮らすことの、幸せ。細かな日用品でさえ、自分はなにが好きなのだろうと気にかけて選んだものは、驚くほどに暮らしを心地よくしてくれます。
一方でなんとなくモヤモヤを感じながらも、そのままになっているものも。本当はどうにかしたくても、なかなか立ち止まることはできない切実さがあるのが、わたしたちの暮らしです。
そのなかでも必死で自分と向き合い、「具体的に」「ひそかに」生活を改善していった日々のエッセイ『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』。
今回はその著者である作家・文筆家の安達茉莉子さんに、インテリアという目線を通して、生活のことをお聞きしています。
後編のテーマは、収納や積読など、部屋のなかで「遠ざかってしまいがちなもの」のこと。安達さんの向き合い方と、そこからつくられるお部屋についてお聞きしました。
前編から読む片付けや収納、ずっと苦手なんです

前編で伺ったお話のなかに出てきた、「目に見えるところには、見ていて嬉しいとか、かわいいって思えるものだけを置いてみたらどうかな」という友人の言葉。
お邪魔したお部屋はまさに、どこを見回しても、安達さんの嬉しい、かわいいの感覚でつくられているように感じます。
けれど「片付けや収納に対しては、昔から苦手意識があるままで」と安達さん。
安達さん:
「きっちり同じ大きさの箱に分けて収納する、みたいなことがずっと苦手で。でもできるようにならなきゃ、と思っていました。変わらない自分に対してプレッシャーをかけて、なんでできるようにならないんだろう、と。
でも自分なりに生活改善運動をしていくなかで、少しずつ、他にもやり方はあるのかもと気づくことがあって。友人や周りの人からの影響もあり、ストレスにならない、自分でもできるやり方を整えていこうと思っています」
そう話してまず見せてくださったのが、キッチンの収納でした。

安達さん:
「収納は変わらず苦手なのですが、そんな自分に合わせて、モノはスタメン以外はなるべく持たない、という意識を強く持つようになりました。
今は収納の工夫をするよりも、収納しなくて済む方法を考えた方が心地いいなと感じて。器はこの引き出しと、リビングの棚にあるだけで十分なんです」
△『iwaki』の保存容器は、大きさ違いで3つを愛用中。「食事一回分のごはんや、作り置きのおかずにぴったりです」
これすごく気に入っているんです、と冷蔵庫から出てきたのは、ガラスの保存容器。
安達さん:
「耐熱ガラスなので、電子レンジやオーブンでも使えます。スタメンだけを持ちたいわたしには、使い道が多いことがありがたくて。
そして使いやすさももちろんなのですが、見た目がとても好きです。ガラスの薄い緑色が、この部屋に似合うなと思って……かわいいんです」

冷蔵庫とシンクの間のスペースには、ぴったりフィットな椅子が一脚。
その様子がなんだか愛らしくて安達さんに聞くと、買ってきた食材を冷蔵庫に入れるとき、一時的に置いておく場所にちょうどよいのだとか。回収頻度が低めのごみの目隠しにもなっています。

コスメ類は、洗面所の壁に取り付けた棚のなかに。ちなみに洗濯機の水栓にかかっている黄色のネットは洗濯ネット入れとして使っているもの。
安達さん:
「わたしは収納の何が苦手なんだろうと考えたときに、中身が見えない状態になることなんだなと気づいて。
だから棚の中のコスメは、パッとみたときに何が入っているか見えるように。ネットの収納も、さりげなく隠せるけれど中身が見える、その塩梅がちょうどよく感じています」
△「山善」のウォールシェルフ。賃貸でも取り付け可能のものを
日々のメイクで手に取るコスメ類も、厳選したものたち。もちろん物欲がないわけでないけれど、「余白を大切にしたい」気持ちが大きいのだそう。
安達さん:
「とはいえ買いものは好きで、どうしても増えちゃうんですけどね。心地いいと思える状態で自然にものが増えて、余白がなくなるのなら、それはまた何かを見直す時期なのかもしれません」
暮らしへの気持ちは強いけれど頑なではない、安達さんの自然な姿勢もまた、このお部屋の空気をつくっていそうです。
デスクから見える景色も好きなものにしたくて

2階にあるお仕事部屋も見せていただきました。
窓からは、1階のリビングと同じ一面の緑。けれどより景色が広く見える印象があって、この部屋にはカーテンがないことに気づきました。
安達さん:
「窓から見える自然を目一杯楽しみたくて、つけていないんです。思えば過去に留学していたイギリスの、カーテンのない景色がとても好きでした。
そのかわり窓の近くには、たいてい素敵なオブジェやライトが飾られていて。インテリアも含めて街の風景になっている、その感じが印象に残っています」

窓から見える緑色の自然を楽しみたい、本棚も見えるといい……。作業しているときに目に入る景色も好きなものにしたくて、デスクはしばらくの試行錯誤の末、今の位置に落ち着きました。
安達さん:
「壁を向く配置も試しつつ、やっぱりせっかくの景色が視界に入るようにしたい、でも目の前に何もないのもそわそわしてしまう。
ならばゆるやかな仕切りがあれば集中できるかもと、モニターや照明、ボードをデスクの前につけてみたら、これがぴったりでした」
デスクは、横幅のある『LOWYA』のダイニングテーブルを仕事用に。頭の中も広々使えるように、広い作業スペースは必須なのだそうです。
自分を変えようとしなくても、いいのかも?
△デスクから正面に見える木の本棚は、安達さんがDIYをしたもの
仕事が煮詰まってきたら、本を読むという安達さん。
何かを読むとまた頭がいっぱいになってしまわないのかなと思っていると、「自分が途中にいるとき、完成された文章を読むと癒されることに気づいて。それで、また頑張れるんです」と読書スペースを見せてくれました。
△読書スペースにぴったりのスツールは『無印良品』
ふかふかのソファーにオットマン、本とマグカップが置ける小さなスツール。この読書スペースをつくってから、本を手に取る機会がぐんと増えたのだそう。
安達さん:
「ちょうど最近本を読めていないな、と思っていたころで。それまで本を読めない自分に焦点が当たりがちだったのですが、環境を変えるだけでこんなに捗るものかと驚きました。
自分を変えようとするのではなくて、動きやすいように環境を変えてみるのも一つの方法なんだと思います」

安達さん:
「以前聞いた話で、大学のキャンパス内に芝生を植えて、その芝生がよく踏まれた場所に道を作ればいい、というものがあって。その場所に道があったら過ごしやすい、ってことですよね。
部屋の中にも、そういう場所ってあるなあと思います。気づいたらいつもここに座っているな、とか。
実は居心地のいい場所は自分がよく知っていて、自分の動きを観察してみると、部屋の動線が見えてくるのかもしれませんね」
部屋は、安心して幸せな気持ちになる場所

部屋のなかは「安心して幸せな気持ちになる場所であるべき」だと、安達さんは『生活改善運動』のなかに書いています。
部屋づくりで一番大切にしていることは何ですか、と最後にお聞きして安達さんが答えてくださったのも、このことでした。
安達さん:
「部屋のことで迷ったときには『安心して、幸せな場所に』と、いつもそこに立ち返っています。
自分の部屋だからこそ、きれいな状態を保たなくちゃとか、無意識に気を張っていることもあると思うんです。だけど外に出たら、もっと緊張する場面はたくさんあって。
自分の部屋くらい、安らげる場所だといいなあと。ただ、そう思っています」
***
部屋を心地よい場所にしていくと、自分が満たされていく。
私が生活改善運動を行ってきた結果、一番変わったのは実は生活そのものではなくて、自分自身だった。幸せを受け取っていいと、思えるようになった。
私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE 安達茉莉子
すぐには変わらないし、いろんなことがある日々だけれど、それでも、少しずつ。生活を通してご自身と向き合ってきた安達さんのお部屋は、そんな希望を感じる場所でした。
(おわり)
【写真】ニシウラエイコ
もくじ


安達茉莉子
東京外国語大学英語専攻卒業、防衛省勤務、篠山の限界集落での生活、イギリスの大学院留学などを経て、言葉と絵を用いた作品の制作・発表を始める。『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)、『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)、『世界に放りこまれた』(ignition gallery)、『らせんの日々 ― 作家、福祉に出会う』(ぼくみん出版会)などの著書がある。2025年10月に新刊『とりあえず話そう、お悩み相談の森 解決しようとしないで対話をひらく』(エムディエヌコーポレーション)を出版。