気持ちのいい部屋
【気持ちのいい部屋】前編:未完成もたのしむ、シンプルな箱。「ヒゲとわたし」さんの新居を訪ねました

【気持ちのいい部屋】前編:未完成もたのしむ、シンプルな箱。「ヒゲとわたし」さんの新居を訪ねました

住み慣れた暮らしをがらりと変えることは、時間も労力もたくさん伴うものです。

家族が増え、日に日にエリアを拡大している子どものグッズを横目に、「自分の好きなインテリアってどんなふうだっけ?」「そもそもこのまま賃貸に住み続けるの?」という疑問が浮かんでは、忙しない日々に消えていました。

そんなとき、以前もお住まいを取材させてもらった「ヒゲとわたし」のAYAKOさんとSHOさんにお子さんが生まれ、都内のマンションにお引越しされていることを知りました。

子どもの誕生、そして賃貸から持ち家へ。おふたりがどのように暮らしの変化と向き合っているのか聞いてみたくて新居を訪ねました。前編では、家探しのきっかけやリノベーションについてAYAKOさんに伺います。



二拠点という目標ができて、決めた引越し

都心からほどよく離れた、緑の多い低層地域。

最寄り駅からすぐのマンションにお邪魔すると、光が柔らかく広がる気持ちのいい空間が広がっていました。

以前の賃貸物件から、物件購入とリノベーションを施したこの家に越してきたのは1年半前のことです。

AYAKOさん:
「賃貸のまま行くか、購入するか……ずっと考えてはいましたが、夫婦ともに40代を迎え、もし家を買うなら今しかないのでは?と思ったのがきっかけのひとつでした」

いずれは自然豊かな地域に住みたいという展望を以前伺っていましたが、今もその思いは変わらないのでしょうか。

AYAKOさん:
「二人とも自然豊かな地域の出身なので、ずっと東京に住み続けるのは違う気がしていて。かといって今すぐの移住は現実的ではないため、まずは『都内と地方の二拠点生活』を目指そうとライフプランを固めました。

そうと決まったら、働きながらでも探しやすく、拠点となる東京の家を先に買おうという流れに自然になったんです」

そうして始まった、都内での家探し。驚くことに、住むエリアや最寄り駅からの距離にはあまりこだわらずに探したのだそうです。

AYAKOさん:
「夫婦ともに『住めば都』タイプ。海外生活が長く都内に住むのも初めてだったのでこだわりが本当になくて。

それでも一番に大切にしたかったのは、家に帰ってきたときに、わーっと伸びをしたくなるような開放感を感じられること。窓からの景色や、自分たちにとっての『抜け感』を何より重視しました。

人混みに揉まれて帰ってきて、家でもキュッと縮こまるのは悲しいなと思ったんですよね」



目指したのは、「癖のないシンプルな箱」

AYAKOさん:
「半年近くほぼ毎週末見に行きましたが、これだと思う物件にはなかなか出合えませんでした。そんな中、三面採光で部屋の隅々まで光が入るこの物件に出合って、足を踏み入れた瞬間に即決するくらいの開放感を感じたんです。

その場で申し込んだものの、実は先約があったことが後から分かりその場で泣き崩れるくらいには一度ショックを受けたのですが……紆余曲折あり無事購入できることになったので、喜びもひとしおでした」

せっかく家を買うなら自分たち好みにリノベーションをしようと初めから決めていたおふたり。

赤い螺旋階段や黄色いキッチンなどビビッドなポイントカラーが印象的だった以前のお住まいとは対照的に、木目と光が際立つ柔らかでクリーンな雰囲気に仕上がっています。

AYAKOさん:
「あえて、癖のない空間を作ることを意識していました。これまでコツコツ集めてきた雑貨や家具で自分たちらしさは出てくると思ったので、何を置いても受け止められる『シンプルな箱』にしようと。

リビングとワークスペースの間も壁ではなくガラス引き戸とカーテンでゆるやかに区切り、光と風を感じられる空間にしました。59㎡と3人家族にしては特別広くはないですが、開放感を楽しめています」

SHOさん:
「床は、ワークスペースや廊下・キッチン部分にはコンクリート風のフレキシブルボード、リビング側には無垢材を採用し、素材を切り替えることで空間のゾーンを切り分けました」

AYAKOさん:
「妊娠・出産と、物件探しから引越しまでの期間が重なったので、今振り返ると怒涛の日々でした。

リノベーションは解体してみないと分からない部分も多いため、大枠を決めて工事に入ってからも、細かな決断の連続で。

産後の外出できない期間はテレビ電話で現場と繋いでもらいながら、部屋づくりを進めていきました」



大らかな包容力のキッチンだけは、造作で。

△薄さにこだわったキッチンの天板

シンプルな箱を目指したお部屋の中で、キッチンだけは全て造作で作ってもらったそうです。

AYAKOさん:
「リビングダイニングの真ん中にありどこからも目に入る場所だからこそ、雰囲気を壊さないすっきりとした存在感にしたかったんです。

とにかくこだわったのがステンレスの天板の薄さ。できる範囲で一番薄くして欲しいと施工店にリクエストして、木材に薄いステンレスのシートを貼り付けるという手法を採用してもらいました」

AYAKOさん:
「収納棚の取手は丸くくりぬき、奥に色味の異なる木材を重ねることでさりげないアクセントになっています。

飾り棚や上部の収納は自分たちが持っているものや使い勝手に合わせて設計士さんと相談しながら形にしていきましたが、あくまで大まかに。細かな寸法などは決めずにざっくりと収納しています」

AYAKOさん:
「よく使う乾物、缶詰などは、タイの水草(カチュー)のかごにガサっと入れています。蓋がゆるいので高さを変えられてすごく便利なんですよ。生活感も隠してくれるので助かっています」




引越しから1年半。まだまだ「未完成」だらけです

聞けば聞くほど出てくる、一目惚れしたこの空間を活かすための選択の数々。

けれど、引っ越しの後には燃え尽きてしまった時期があったと教えてくれました。

AYAKOさん:
「実はこの家の壁、全部自分たちで塗ったんです。ローラーではなく刷毛でのブラッシング塗りが必要な塗料を選んだのですが、下地を含めて家全体を3回塗り重ねる作業が想像以上に大変で。

壁を塗り終わった時点ですべての気力が抜け落ち、塗装予定だった窓枠などは未完のまま。荷解きや片付けは半年から1年近くかけて少しずつ進めることになりました」

△SHOさんのワークスペースの壁に飾られているのは、お子さんが初めて書いたお絵描き

AYAKOさん:
「玄関入ってすぐの収納スペースの一部はアートを飾る場所として設計してもらったのですが、今はまだ開けていない段ボールが押し込められています。

ちなみに、カーテンが来たのも引っ越して8ヶ月後。その間は、生活を世間にまるっと見せていました(笑)」

思わず「8ヶ月も!」と驚いてしまった私に、ぽんっと返してくれた言葉が心に残りました。

AYAKOさん:
「不便に思えるかもしれないけれど、意外となんとかなりますよ。

その場しのぎの適当なものを選ぶことは、やっぱりしたくなくて。一気には作り込まず、『住みながらちょっとずつやっていく』スタイルで暮らすのが私たちには合っているのかもしれません」

***

完璧に作り込んでから暮らしはじめるのではなく、納得できる選択を重ねながら時間をかけて家を育てていく。

「未完成のまま」を大らかに楽しむおふたりの姿に、暮らしと向き合うときの肩の力がふっと抜けていくような気がしました。

後編では、そんな「シンプルな箱」を彩るお気に入りの道具や、子どもとの暮らしの中で見つけたモノ選びの「ちょうどいい塩梅」について詳しく話を伺います。



【写真】井手勇貴


もくじ

第1話(8月24日)
未完成もたのしむ、シンプルな箱。「ヒゲとわたし」さんの新居を訪ねました

第2話(8月25日)
個性を愛でるモノ選び。子どもと暮らす「ちょうどいい塩梅」のインテリア

ヒゲとわたし(AYAKO・SHO)

デザイナー夫婦のライフスタイルをSNSで発信。YouTubeは@hige_to_watashi、Instagramは@hige_and_meから。

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