住み慣れた暮らしをがらりと変えるとき、どんな迷いや試行錯誤、選択が待っているのでしょう。
お子さんが生まれ、賃貸から持ち家へと暮らしを変えた、「ヒゲとわたし」のAYAKOさんとSHOさんの新居を訪ねお話を伺っています。
前編では家探しのきっかけや空間づくりのテーマについて聞きました。後編では、おふたりの変わらないモノ選びの軸やキッズスペースについて詳しく教えていただきます。
前編からよむ大人と子どもの好きは両立できる?
△奥のオブジェ棚は那須のお店で偶然見つけた木のブロックを組み合わせたもの
そんなおふたりのリビングの一角には、ひときわカラフルで可愛らしいキッズコーナーがあります。
それでいて家のトーンにはすんなり馴染んでいるのが印象的ですが、何か意識していることはあるのでしょうか。
AYAKOさん:
「根っこにあるのは、娘には小さいうちからなるべく心がときめくような『美しいもの』『素敵なもの』に触れて育ってほしいという思いです。
そのうえで、いま何が好きでどんなものに反応するのかな?という発達の時期に合わせたアイテムを選ぶようにしています」
AYAKOさん:
「子どもがいるから部屋はおしゃれにできないとか、大人の好きなインテリアにしたいからキャラクターは絶対ダメ、みたいな極端な二択では考えたくなくて。
大人の好みだけで固めるのも、逆に子ども中心にしすぎるのも少し違うかなと思うんです。子どもがこんなに嬉しそうなら、謎のカラフルなクマが転がっていたっていい。
ただ、この部屋は家族みんなが過ごす場所だからこそ、私たちふたりも一緒に『可愛いね』と思える要素を残すことを大切にしています」
△ゆるい表情が可愛いスタッキングトイは「Ferm Living」
SHOさん:
「子どもの目を引くキャラクター物やカラフルなプラスチックのおもちゃばかりを優先すると、自分たちが大切にしたいモノ選びから離れてしまう。かといって大人のこだわりを押しつけすぎるのも違う気がする。
だからこそ、大人も純粋に良いなと思えて、子どもも楽しそうに遊べるおもちゃを選ぶようにしてます。そのちょうどいい塩梅を探すのが意外と楽しいです。
……とかあれこれ考えてはいますが、結局子どもは鬼ごっこや隠れんぼをしているときが一番嬉しそうだったりするんですけどね(笑)」
大人も惹かれる、美しく楽しいおもちゃたち
△ 真ん中の机とおもちゃ棚はSHOさんのお父さんの手づくり / 本棚は通販サイトで探して購入
おふたりの言う「ちょうどいい塩梅」を体現するかのように、キッズコーナーには夫婦のセンスとお子さんの好きを受け止めるアイテムが集まっています。
AYAKOさん:
「滑り台は使う時期が限られている遊び道具ですが、木製の本格的なものは高価ですし、収納も大変です。
そこで選んだのがこの段ボール製。軽くて移動しやすく、不要になったらリサイクルできるだけでなく、子供がクレヨンでお絵描きしたりシールを貼っても大らかに見守れます。むしろ、どんどんやっちゃいな!という気持ちです」
SHOさん:
「洋書のアート絵本は、個人的にいろいろと探して見つけたもので、ぜひおすすめしたいです。
ピカソやマティス、カルダーの作品を通して色や形などの概念を学べる絵本は、ウィットに富んだ文も添えられていて親子で楽しめます。リビングのインテリアとして飾っていても違和感がありません」
△益子陶器市で出合った「きこり工房」のおもちゃ
AYAKOさん:
「選んでいるおもちゃに特定のルールや縛りはありません。いわゆる教育メソッドも情報として取り入れはするけれど、それが全てになると自分が疲れてしまう気がして。
それ以上に心惹かれるプロダクトであることや、いま目の前にいる娘が楽しそうであることを大切にしたいと思っています」
SHOさんが小さかった頃に使っていた思い出のそろばんや、有名な現代アートのプロダクト、ガチャガチャの小さな熊のフィギュア、陶器市で偶然見つけた木製の犬の輪投げ……。
時代もテイストもバラバラなモノたちが調和しているのは、そのどれもにおふたりならではの視点とお子さんへの思いが行き渡っているからなのでしょう。
再現性よりも惹かれる「強い個」
△壁にかかっている洗いカゴはタイ製、銅やかんは金工作家・中村友美さんの作品
家づくりは未完成のまま、これだというアイテムに出合うまでは不便もいとわずに生活されているおふたり。
「シンプルな箱」という土台の上で、お気に入りの道具たちがひときわ存在感を放っています。
AYAKOさん:
「旅先で買ったものは、見るたびにその土地の空気感を思い出せるのが嬉しくて。昨年家族で行った沖縄ではやちむんの力強さに魅了され、たくさん買って帰りました。
キッチンのペンダントライトは長らくしっくりくるものに出合えませんでしたが、最近訪れた金沢のお店で一目惚れしたんです。石のような土のような質感で、左右でデザインの全く異なるものを使っていて、どちらもお気に入りです」
△キッチンのペンダントライトは、櫻井美奈子さんの作品
SHOさん:
「会社で働いていると『再現性』を求められることが多いですし、世の中もそういう仕組みで便利に回っていますよね。ただ、人が本当に心を動かされる瞬間って、その再現性の先にあるのかな?とはずっと考えていて。
大量生産されたものは価格面を含めて生活を支えてくれるありがたい存在ですが、自分としてはやっぱり手仕事ならではの揺らぎやその人にしか作れない強い個に触れたとき、ハッとするような衝撃があります」
△中央の4枚がムーニーともみさんの作品
AYAKOさん:
「私も同じ気持ちです。そのうえで、せっかく作家さんの作品を迎えるなら、手仕事ならではの味わいや、一点ものとしての佇まいを強く感じられるものを選びたいと思っていて。
最近だと、笠間の陶器市でムーニーともみさんの豆皿を見つけたときは、良い意味で大きなインパクトがありました。
骨董品の絵柄や文様をモチーフに、古いものの持つ独特の味わいをゆるく表現しているのがとても可愛くて、見れば見るほど魅力的で。これからもこういう出合いを焦らず気長に待ちたいですね」
光に満ちた家に住んだから分かった、影の魅力
AYAKOさん:
「ものを飾ることが好きなので、場所を見つけては、子どもが拾ってきた石などもひとつの思い出として飾っています。
成長とともに手の届く場所がどんどん高くなって、それに合わせて飾る場所もどんどん上がっていくので、これからも日々試行錯誤が必要だなと。
そういった変化を、困りごとではなく成長の証としてのアップデートとして捉えて楽しんでいきたいです」
最後に、これから思い描いているという二拠点生活についても聞いてみました。
AYAKOさん:
「もう一つの拠点についてはまだまだこれからという段階ですが、もしも次に住まいを建てる機会があったら、日本家屋のように光と影がやわらかく溶け合うような空間を作ってみたいです。
三面窓で光と風が巡る明るい家に住んだからこそ、影の持つ静けさや美しさに惹かれるようになりました」
SHOさん:
「東京のこの家も未完成で、これからもじっくり手を入れていく必要があります。
終わりがないから暮らしは面白いのかもしれませんね」
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大人の「好き」を諦めるのでもなく、理想のインテリアのために子どもの自由を奪うわけでもない。
おふたりが探している「ちょうどいい塩梅」は、完璧な答えを出すことではなく、変わりゆく日々を大らかに楽しむことそのものなのかもしれません。
今回見せてもらった未完成な暮らしの現在地は、慌ただしい日常の中で家族にとっての心地いい暮らしを見つめ直すための、優しい道標になってくれそうです。
【写真】井手勇貴
もくじ


ヒゲとわたし(AYAKO・SHO)
デザイナー夫婦のライフスタイルをSNSで発信。YouTubeは@hige_to_watashi、Instagramは@hige_and_meから。