【ふたりのチームワーク】「アトリエ・フォーク」前編:夫婦だって、以心伝心はむずかしいから。
ライター 藤沢あかり
職場で、学校や友人との間で、そして家庭で。 暮らしのさまざまな場面で、わたしたちは 「人」 と関わり合い、時間を紡いでいます。
誰かと一緒に過ごすとき、そこには自分とは違う相手への気遣いや思いやりが生まれたり、ときには衝突したり。 そんな経験を重ねながら 「チームワーク」 を学んでいくのかもしれません。
「ふたり」 は、いわば「チーム」の最小単位。 連載 「ふたりのチームワーク」 では、いろいろなタイプの 「ふたり」 に、暮らしや仕事を営んでいく中でのお話を伺い、ヒントを探ります。
今回は、東京・中野の閑静な住宅街にアートと食の拠点 「アトリエ・フォーク」 を立ち上げた、切り絵作家・デザイナーのYUYAさんと、料理研究家のスパロウ圭子さん(食のアトリエ・スパロウ主宰)ご夫妻にお会いしました。
「ふたり」 の中でも夫婦は、家族でありながら他人、そして異性です。
家族として、さらには仕事のパートナーとしても寄り添うふたりは、日々どのように暮らしているのでしょうか。
40代で会社員生活にピリオド。「ふたり」 の道を選んだ夫婦を訪ねて
「アトリエ・フォーク」 は、アートと食、それぞれの活動拠点であり、住まいでもあります。
これまで、同じ職場で会社員として働きながら個人活動をしていたYUYAさんと圭子さんは、40歳を過ぎてから一念発起。同時に独立し、昨年の秋にこのアトリエを構えました。
インタビューは、圭子さんの作る焼きたてのパンと、それに合うランチを囲みながら、和やかに進められました。
コレクションの中から料理に合う民芸の器を選び、テキパキと盛りつける圭子さん。
そのかたわらでYUYAさんができあがった料理をテーブルに運び、手が離せない圭子さんに代わって、サイト用にさっと写真を撮影。 「真俯瞰(真上からのアングル)がいいな」 という圭子さんの声に耳を傾けながらの連係プレーは、きっと、いつもこうして日常を送っていることを伺わせる自然な様子です。
▲この日のメニューは、ホールケーキのように仕上げたナスとマカロニミートソースのムサカ風、チェリーモッツァレラと空豆のサラダ、チーズとフォアグラの盛り合わせ。パリッと焼き上げた天然酵母のパンは、くるみ&自家製いよかんピールの田舎パンと、コーンバゲット。
ひとつ屋根の下で暮らしと仕事を共にしているふたりにとって、食卓を一緒に囲むことは日常の風景。
YUYAさん:
「無理のない範囲で、3度の食事はふたりで一緒にとっています。
特にランチは、少し仕事の手を休めて3階の 『民芸部屋』 でとることも。お互いに気分転換になりますね」
こちらは、その 「民芸部屋」 のコレクション棚。共通の趣味である国内外の民芸品や郷土玩具がずらりと並ぶ、圧巻の空間です。
お店に入ってそれぞれで品定めをしていても、最終的に「欲しい」と感じるものは不思議と一致するのだそう。それは同じ職場にいたころから変わらず、映画や本などのカルチャーの好みも通じるものがあったのだといいます。
職場での出会いを機に結婚し、14年目を迎えるふたりは、うらやましいほどに息がぴったりの様子。
ところが、実は性格は真逆だというから驚きます。
夫婦だって、以心伝心なんて難しい。
ふたりの暮らしに欠かせない日課がもうひとつ。
それが、朝の散歩の時間です。
YUYAさん:
「朝食後、コースを決めずにその日の気分で一緒に歩いています。30分くらいかな」
圭子さん:
「住まいと職場が一緒になってから、忙しいときはあまり外に出なくなってしまって。
これじゃダメだ!と、強制的に歩いてみたら思いのほか気持ちがよかった。それ以来、どちらからともなく日課になりました」
ふたりで歩いていると、自然と会話も生まれます。
その日のこと、仕事のこと、これからのこと……いろいろな話をする時間にもなっているようです。
圭子さん:
「歩いている間は、ずっと話してるよね。
もともと私は、今の状況を残さずに包み隠さず言葉で表現するタイプ。
対してYUYAはあまり語らないぶん、私から、 『どう?こう?』 としつこいくらいに聞いてしまいます(笑)」
YUYAさん:
「僕は積極的に話すほうではないから、実は性格は全然違うかもね」
圭子さん:
「きちんと気持ちを確認し合わないと気持ち悪いので、気持ちをそのつど確認し、ためこみません。
“以心伝心” なんて言いますが、黙っていたら伝わらないこともあると思うので、なるべく聞きたいんです」
日常のささいなケンカはあっても、大きく発展したことはこれまでにないというふたり。 「積もり積もる前に、小さなうちにつぶしちゃう」 のだそう。
夫婦とはいえ、なにか問題が起こった時に、膝を突き合わせて 「話し合いましょう」 と言うのは、なかなか難しいもの。
こうして食事や朝の散歩など、日常的に会話の機会をもつことでコミュニケーションとなり、自然とお互いへの理解も深まっていくようです。
家事は、それぞれがお互いの得意分野でフォロー
夫と妻、お互いに仕事を持っているとなると、気になるのが家事の分担。 「どうして私ばっかり」 「もっと気づいてくれたらいいのに」 と、そのさじ加減にモヤモヤしている夫婦も少なくないかもしれません。
圭子さん:
「私たちにとって家事って、 “女だから” “妻だから” というよりも、こっちの方が得意だし、早くて効率がいいからやりましょう、という感じ。
だから料理は私だし、几帳面できっちりきれいにやってくれるから、洗濯やそれをたたむのは結婚した頃から彼。アイロンをかけたみたいに、きれいにたたんでくれるんです」
YUYAさん:
「食事はやっぱり僕が作るよりも圭子のほうがスムーズだしおいしい。きっと家事全般という面でみると彼女のほうがやってくれていることは多いと思いますよ。
料理などの日常の身の回りのことは圭子がやってくれて、棚を作ったり、家のメンテナンスをするのは僕かなぁ」
▲並んだ食器はほとんどが、各地の民芸の器。窯元や個展を訪ね、作り手とコミュニケーションを交わして手にしたものも多いので、愛着もひとしお。
家事とは本来、義務や仕事ではなく、 「自分たちの住まいを居心地良く整える」 ためのもの。
ふたりの間に、 「私はこれをやるから、あなたはこれをやってね」 という明確なルールはありません。
自分の得意なことを生かして役割を住み分け、気づいたことは、気づいた方がやる。
自分たちの住まいを愛し、暮らしを大切に思っているからこそ、 「心地いい」 の定義をふたりで共有しあえる。そんな価値観の重なりが、お互いを思いやる家事バランスにつながっていくのかもしれません。
そんなふたりは、長く続けた会社員生活に同時に終止符を打ち、共同アトリエを構える決意をします。
ふたりで一緒にフリーランスになるという、一見無謀とも思えるようなこの決断。そこに迷いや意見の食い違い、不安はなかったのでしょうか。
後半では、仕事を通じてもパートナーであるふたりの考えについてお伺いします。
(つづく)
【写真】千葉亜津子
もくじ
YUYA・スパロウ圭子
(アトリエ・フォーク)
夫のYUYAさんは切り絵作家・デザイナーとして、妻のスパロウ圭子さんはパン教室を主宰する料理研究家として活躍。そんな2人が立ち上げた、アートと食の拠点「アトリエ・フォーク」が、東京・中野の閑静な住宅街に佇んでいる。パンやお菓子のレッスンのほか、毎月第一土曜日に「オープンアトリエ」を開催。切り絵作品やオリジナルデザインのグッズ、パンやジャムの販売を行っている。http://atelier-folk.com/
ライター 藤沢あかり
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
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