【35歳ヨーロッパひとり旅】第2話:美術館が広すぎて。建物のなかにいるのに迷子になった私は…

編集スタッフ 田中

ムダなく行動派だったのに、成り行きまかせに目覚めたできごと。

はじめてヨーロッパを旅した、わたし・田中のひとり旅をイラストと共にお届けしている不定期連載です。

さて、前回の到着から一夜明け、長時間フライト後に起こった頭痛はすっきり消えて、窓の外には見まごうなきヨーロッパの街並みが広がっていました。

「ああ、夢じゃなかったのね」と胸をなでおろしながら、今日行く予定のアムステルダム国立美術館のチケットをほくほくと眺めます。

中世のお城のような外観の美術館は、1885年に開館した歴史ある建物。2013年に改修が終わり、現代建築と融合した館内はとてもシステマチックで、専用アプリをインストールすれば日本語で案内が聞けるんです。

いざ、アプリを開いて「これがあれば安心さ!」とばかりに、わたしは有名なレンブラントやフェルメールの絵画を鑑賞しはじめました。

じつは写実主義とかバロック期とか、よく分かってはいません。けれど当時の流行や事件などが画家の筆ひとつで、後世のわたしたちに伝わるってすごい、そう考えると楽しめる!まるで写真のような緻密なデッサンや色づかいを、食い入るように見つめつつ、アプリに促されて歩みをすすめます。

……と! あれあれ? ここはさっきと同じ場所。おかしいな、案内されるとおりに歩いているんだけど。あんまり絵に集中しすぎたのと、アプリのオランダ語を日本語に直訳した案内がどうにもわかりにくかったようで(開発者の人すみません)、数分後わたしは完全な迷子になりました。

かるくパニックになって方向感覚を失い、館内にある地図をみても今どこにいるのかがわからない。

大勢の観光客がいるし、インフォメーションもあるから聞けばいいのに、英語もパッと浮かばないから声もでない。小さな東洋人が、右往左往しながら独り言をいう姿がそこにあったでしょう……。

ここで、そっとアプリを閉じました。

「もはや頼るまい」

目の前にあるものを観ればいいのだ、とフラフラ歩きだします。

途中、中世の騎士がウヨウヨいる薄暗いエリアなどで「ひいいぃぃぃ」となりながらも彷徨って。

ハッと周囲の明るさに気づいたとき、知らぬ間に光のさす大広間のような所にいました。あ! ここ見覚えある! と歓喜のわたし。

そして、無事にゴッホの自画像などがある目当ての場所へたどり着けたのでした。

ヨーロッパの美術館は、本当に広い。もともと有名な絵だけを周る60分コースをアプリで選んでいたんです。無駄なく動いて、目的を達成したい気持ちがあったから。

けれど、予想外の出来事に直面するうちに、効率よくなくたって、ハプニングがあってもいいじゃないという思いが湧いてきました。学生時代のそれとも違う感覚。30代なかばにして、ひとり旅に出ている良さをじわじわと感じていたんです。

とは言うものの、疲れ果てたわたしは、外へ出て、近くのベンチに座りこみ、さっきまでいた壮大な迷子の館を眺めながらコーヒーをすすったのでした。

 

▼これまでの「35歳・ヨーロッパひとり旅」


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