【愛すべきマンネリ】前編:飽きるほど続けたことが、自分の力になっている。(柳瀬久美子さん)
ライター 長谷川未緒
「マンネリ」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか。マンネリには、なんとなく後ろ向きな、変えなければならないことのような印象が、あるのではないでしょうか。
じつは、わたし・長谷川も、マンネリをネガティブに捉えていました。ですから、なるべく「変わる」ほうを選んできたんです。髪型も服装も仕事も、いつも変化している状態は新鮮ですが、言い方を変えると、不安定で、落ち着かなくもあります。
そこで、マンネリを肯定的に捉えられるようなお話を伺いたく、料理研究家の柳瀬久美子(やなせ くみこ)さんを訪ねました。
マンネリは、自分のベースをつくる要素?
柳瀬さんは、書籍や雑誌へのレシピ提案や、ご自宅でお菓子と料理の教室をされています。
10年ほど前、あるイベントで柳瀬さんのイチジクのケーキを食べたとき、「いままで食べたお菓子の中で、いちばん美味しい!」と感激したわたしは、お菓子教室に通うようになりました。
レシピの考案や、海外旅行など、いつも新しいことに取り組まれている柳瀬さん。いっぽうで「もう何十年も使っている」というような道具をお持ちで、伝統的なお菓子や料理も大切にされています。
うきうきとした楽しい雰囲気と、落ち着きを兼ね備えた柳瀬さんなら、「変えたいと思うこともあるけれど、これこそがわたしのベースなんだよね」という「愛すべきマンネリ」がありそうだなと思い、率直にお伺いしてみました。
代わり映えしなくても、自分が心地よければいい
柳瀬さん:
「わたしも若いころは、飽きることが怖くて、しょっちゅう部屋の模様替えをしたり、家具やカーテンを買い変えたりしていたんですよ。
でも、いろいろ試して、だんだんと自分の好きなものがわかるようになってきて、使い込んだからこその味わいへのあこがれもあり、いまでは、マンネリを覚悟して、ものを選ぶようになりました」
▲一生ものという、お菓子づくりの道具。「一生もつように、お手入れもするの」と柳瀬さん
柳瀬さん:
「たとえばテーブルも、自分が長く一緒にいたいと思うものを選んだけれど、たまにマンネリだな、と感じることはあります。そういうときは、テーブルクロスや食器で気分を変えてみるんです。
人から見たら、いつもはんこで押したように変わっていなくて、マンネリかもしれないけれど、自分が心地よければいいじゃない、と思うようになりましたね」
マンネリするほどのくり返しが、技術を支えてくれる
自分の「好き」にしっかりと向き合い、「間に合わせ」でものを買わずに、吟味して選んだからこその、「愛すべきマンネリ」。
では、もの以外にも、マンネリを感じることは、あるのでしょうか。
柳瀬さん:
「あのね、じつはお菓子づくりもマンネリの連続なの。話題の新しいお菓子も、伝統菓子と材料はたいして変わらなくて、つくり方も、結局は混ぜたり焼いたりしているもの」
柳瀬さん:
「お菓子の本を50冊くらい出させてもらって、全部違うテーマだけれど、つくり方を解説したプロセス写真は、いつも一緒です。バターを白くなるまで混ぜるとか、生地をさっくり合わせるとか。
できあがるお菓子は違っても、つくる時に気をつけなければいけないポイントは、基本的に同じなんですよ。
ですから、いつも同じことをやっているなぁ、おもしろみがないなぁ、と思うこともありますが、じつはマンネリって、気づいたらできるようになっていることや、自分の技術を支えてくれる、すごーく大切なことなのかもしれないな、と思いますね」
飽きるほどやったから、からだで覚えられた
高校2年生のときに、お菓子屋さんでアルバイトしたことをきっかけにスタートした、柳瀬さんのお菓子づくり。同じことをくり返す日々に、飽き飽きしたこともあったそう。ですが、飽きるほどやったからこそ、からだで覚えられたし、いまの柳瀬さんを形作っていると言います。
後半ではさらに、自信をもって「好き」と言えるマンネリの味や、マンネリの先に見えてきたものについて、伺います。
(つづく)
【写真】有賀傑
もくじ
柳瀬久美子
高校在学中から洋菓子店でアルバイトをはじめ、そのままお菓子屋さんへ就職。都内洋菓子店、レストランなどで働いたのち、フランスへ渡る。滞在中、リッツ・エスコフィエ、ディプロム取得。フランス人家庭での生活の中、フランス家庭菓子・料理を覚え、帰国後、フードコーディネーターに。現在は、広告や雑誌のレシピ制作・調理のほか、企業のメニュー開発、少人数制のお菓子教室を主宰。旅行と動物と遊ぶことが好き。
http://k-yanase.com
ライター 長谷川未緒
東京外国語大学卒。出版社勤務を経て、フリーランスに。おもに、暮らしまわりの雑誌、書籍のほか、児童書の編集・執筆を手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
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