【スタッフコラム】スパゲッティナポリタンという宇宙
編集スタッフ 津田
パキッと軽快な歯ごたえのソーセージと、玉ねぎやピーマンなどの野菜に、もっちり茹でたスパゲッティ。それらをケチャップで炒めて味付けした定番料理「スパゲッティナポリタン」。
私はこれを、喫茶店でも、ファミリーレストランでも、メニューでつい探してしまう。
見つけて、ひそかに想像する。子どもの頃から大好きな、あのケチャップのこってりした味わいを。フォークをくるくると回して、粉チーズが多めに絡まっていた部分を食べたときの、あの楽しさを。
そうして無性に食べたくなるのだ。
ナポリタンの世界は、奥深い。単純そうに見えるが、そうではない。
食材、火の通し方、味付けのバランスなど、こだわり出したら止まらない。
「スパゲッティはアルデンテというより、ちょっと伸びているくらい、もっちり感がほしい」「きのこやキャベツなど、野菜をたっぷり入れたい」「ケチャップを炒めるときに赤ワインを加えると大人の味になる」「目玉焼きをのせるとテンションが上がる」etc……
私の友人、すなわち大の大人たちが、こぞって「かくあるべき」と、熱を込めて語る。
ひょっとするとナポリタンは、大人を子どもに戻してしまう食べ物なのかもしれない。
私のナポリタンの流儀はこうだ。
ソーセージは高級品ではなく市販のものを使う。ピーマンは玉ねぎの後に加え、火を通し過ぎずにシャキッと苦味を残す。
ケチャップで炒めるときに、バター(ほんの小指の先くらいの量)と、スパゲッティの茹で汁(お玉に軽く1杯)を加える。これで、ジューシーでつややかな仕上がりになる。
火を止める加減は、視覚と聴覚を使う。トマト色のケチャップが、オレンジ色になったら美味しくなった合図。さらにフライパンから水分が飛び、ジーっと乾いた音が聞こえたら、素早く火を止める。炒め過ぎないよう細心の注意をはらう。
皿に盛り付けて、香りのよい粗挽きの黒胡椒をたっぷりかける。タバスコと粉チーズも、必ず用意したい。
さあ、これだけ五感を研ぎ澄まして、芸術家のアートのように作ったナポリタンも、食べるのはわずかに5分。
だからいつも、最後の二口くらいで急にスピードをゆるめてしまう。食べ終わるのがもったいなくて。
手間がかからない料理、という訳ではないが、それゆえに奥が深くて、探求心が止むことがない。
まるで宇宙の果てを目指すパイロットたちのように、 “美味しいナポリタンを探求する大人” は、暮らしという宇宙のなかに果てないロマンを見つけたのだと思う。
毎日は平凡の連続だからこそ、皆どこかしらにそれぞれのロマンを見つけて生きているのではないだろうか。それは、ナポリタンだったり、暮らしの道具や雑貨だったり、読書で偶然出会った言葉ということもあるかもしれない。
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