【彼女が旅に出る理由】自他ともに認める「旅下手」だけど。20年ぶりのひとり旅に出てみたら(店長佐藤編)

商品プランナー 斉木

ひとが旅に出る理由はなんでしょうか。

ひとの数だけ答えのありそうなそんな質問に、もし共通項を探そうとするならば、日常に足りない要素を埋めに行っている、ということではないかなと思うんです。それはある人にとっては刺激かもしれないし、またある人にとっては安らぎかもしれない。

本特集「彼女が旅に出る理由」では、暮らしを営むうえで “旅” を特別なピースとして捉えていそうな3名のスタッフに、その理由を尋ねます。彼女たちが旅(非日常)に求めているものをひも解くことで、その裏にある日常に託した願いも、ぼんやり透けて見えるといいなと思いながら。

 

「店長は旅が苦手らしい」そんな噂を耳にして


最終話に登場するのは、店長佐藤です。

「店長は旅が苦手らしい」そんな噂を複数のスタッフの口から聞いていました。はじめてそれを耳にしたとき、意外に感じたのを憶えています。

だって、当店創設のきっかけは、代表青木と佐藤が兄妹ふたりで出かけた北欧旅なのだし、オリジナルブランド「KURASHI&Trips PUBLISHING」は日常(KURASHI)の中にひとさじの非日常(Trips)をというコンセプトなのだから。

たとえ苦手だったとしても、旅は彼女にとって特別な意味合いを持っているんじゃないだろうか。そんな確信にも似た予感があったのです。

 

25歳、はじめてのひとり旅で悟った「向いてない」

「店長は、旅が苦手なんですか?」単刀直入にそう尋ねると、佐藤は25歳の頃の人生初のひとり旅について面白おかしく話し始めてくれました。

店長佐藤:
「ずっとひとり旅への憧れはあったんです。沢木耕太郎さんの『深夜特急』や、村上春樹さんの紀行エッセイを繰り返し読んできてたから。ただ、もともと乗り物酔いがひどいこともあってなかなか実現しようとは思わなかったんです。

それが25歳の頃、当時行ってみたいカフェもあったし、好奇心がまさってついに京都旅を敢行しようと一念発起して!

期待を膨らませていたんですが、いざ行ってみたら、もうとにかく寂しい。食事はどんなところに入ったらいいかわからないし、友達と会う約束もないし。それなのに3泊4日なんていう余裕のあるスケジュールにしちゃったもんだから、1日目の夜にはホテルで頭を抱えてしまって。結果、滞在中に清水寺に3回も行ったんです(笑)

『これは自分には向いてない』ってつくづく懲りて。それからひとり旅は避けるようになったんです」

 

不安を押して、それでも旅にでた理由

そんな佐藤は、トラウマを乗り越え(?)昨年、20年ぶりのひとり旅をしたそう。場所は、14〜18歳までの間住んでいた広島です。

店長佐藤:
「2019年は、昔のことを思い出すような出来事がすごく多かったんです。

ドラマ『青葉家のテーブル』で、20歳くらいの頃に兄とふたりで作った曲を歌うことになったり、クラシコム創業当初にお世話になっていたご飯屋さんのオーナーが突然オフィスを訪ねて来てくださったり。20代の頃に仲良くしていた友人の訃報を受けとるというショックな出来事もありました。

いつかいつかと思っているうちに、時間はあっという間に過ぎ去る。会いたい人には会わなくちゃ、そんなことを実感した1年だったんですよね」

昨年は、経営者として人知れず悩む場面も多かったといいます。

クラシコムは、2019年に創業丸13年を迎えました。輪廻がひとめぐりしたととらえ、それまでの時間を振り返ってみると、どの瞬間も、今すべきこととこれからやりたいことで頭がいっぱい。“今” と “未来” しか考える余裕のない日々だったように感じるといいます。

しかしここ数年は、「なぜこれができたのだろう?」と “過去” に思いを巡らせることが増えました。これから先の12年を走るための燃料は、今や未来だけでなく、過去にもあるんじゃないか。そんな淡い期待と不安を胸に、佐藤はもう一度広島を訪れてみることにしたのです。

 

気持ちは揺れた。でも、その揺れを味わいたいと思った

▲広島から大切に持ち帰った、フランスのワイングラス

そんな思いに駆られ、新幹線の広島駅に降り立った佐藤は、ふと「車で走ってみよう」と思い立ちます。中高生の頃、週末ごとに両親と出かけたドライブが特別な思い出として残っていたから。その足でレンタカーを借りると、広島の街に繰り出しました。

住んでいたマンション、通った中学校、高校……と順々に巡りながら、当時聞いていた音楽を全身に浴びていると、カーナビを途中で消してしまうほどに記憶が蘇ってきたといいます。

店長佐藤:
「思い入れのある場所を再訪するって、ある種の怖さもすごくあったんですよね。

当時と同じように『いい』と思えなかったらどうしよう。逆に『ここに留まりたい!』と思うほど感動しちゃったらどうしようという思いもあって。

広島に行って、たしかに当時のことを思い出していろいろな場面で気持ちが揺れました。でも、その揺れを味わいとして楽しみたいと思えるくらいには、自分も年齢を重ねたんだなぁということも同時に感じたんですよね」

 

自分をコントロールしなくちゃ。ずっとそう思ってきたけれど

本来の自分と、経営者としてコツコツと作りあげてきた自分。何かを変えるべきか、変えないべきか。広島に来るまでの佐藤はいつだって何かの間で揺れていたといいます。

店長佐藤:
「今まで、生まれ持ったこだわりや気の強さ、無邪気な状態のときの自分を、“北欧、暮らしの道具店の店長” であるうちはコントロールしなくちゃと思ってきたような気がするんです。でも、結局元々の性格なんて消そうと思ってもなかなか消えないし、実は一番なくしちゃいけない部分なんじゃないかとも思い始めました。

とはいえ、そう言い切るには勇気が必要で。だから、一番無邪気なまま生きていた広島に、もう一度行きたいと思ったんです。『私、そろそろ変わっていいっスか?』って自分で自分に確認するような気持ちでね」

それは、真面目な話をしたかと思うと、決まって茶化そうとするいつもの彼女らしい言葉でした。

 

あの時の “感じ” は今も色褪せてない?と確認したくて

佐藤が旅に出るのは、例えば新しいものを見たい知りたいという好奇心からではないといいます。そこにあるのは、ただ「確認したい」という思い。昔、自分がみて心が動いた風景や、その時の感情を、44歳の自分はどう感じるのか。

店長佐藤:
「初めて北欧に行った時にみた、部屋の中のろうそくが揺れて、家具を照らしていた “あの感じ”。それを日本に戻って、自分の部屋で試してみたときの “あの感じ”。たとえ言葉にできなくても、その “感じ” って色褪せないんですよね。

そういういろんな実感をずっと心に留めておくのが、私にとっては何より大切なことなんです。

そして時折、その “感じ” が変わっていないかを確かめたくなる。実はいま、無性にまた北欧に行きたくなっているんです。北欧はいわば私の出発点だから、そりゃ行くのは怖いです。でも、そろそろ行けるかなって」

 

ままならない日々に灯る、かすかな希望が旅にはある。

3日間に渡ってお届けしてきた、「彼女が旅に出る理由」。取材をする前、もしその理由に共通項があるとしたら、 “日常に足りない要素” を埋めに行っているということではないか、と書きました。

でもいまは、ないものを埋める、そんな単純な話ではないのかもしれないと感じています。

彼女たちの話を聞きながらつくづく思ったのは、日々を生きるのって、なかなかにままならないよね、ということ。ままならない毎日を、それでも淡々と刻み続けるために、少しでも生きやすくするために。そんなほの明るい希望を求めて、私たちは旅に出るのではないでしょうか。

あなたが、旅に出る理由はなんですか?

(おわり)

 

【写真】安川結子


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