【もっと雑貨のはなしをしよう】おいしいご飯が食べたくて。日用品愛好家が選んだ伊賀焼の一膳おひつ
渡辺平日
6月20日(土)
やっぱり土鍋だよな。でも……
むかし働いていた会社の近所に「よし食堂」という定食屋があって、仕事終わりによく同僚と食べにいった。我々の目当ては土鍋で炊いたツヤツヤの白ご飯だ。僕は祖父母が米農家をやっている関係でお米にはうるさいんだけど、そのお店のご飯はついニコニコしてしまうほどおいしく、僕らは競うようにおかわりをしたものである。
……よし食堂に行かなくなったせいか、さいきん、自分のなかに潜む〈白米欲〉が高まってきた。「やっぱり土鍋だよな」とは思うものの、けっこう手入れが大変だし、場所も取るしで、購入する勇気を持てずにいる。
7月4日(土)
ポイントは「気孔」
しばらく経ったある日、「いい保存容器を使えばすこしは違うんじゃないか?」と思いついた。うん。それならすぐに導入できそうだ。
しかし、一口に保存容器と言ってもその種類はさまざま。とてもじゃないけど簡単には選べそうにない。僕はこういうとき、絶対に譲れない条件をいくつか設定し、候補を絞り込むようにしている。
今回は「ものとして美しいこと」と「手入れが楽なこと」、そして「食器としても使えること」を重視した。特に最後の条件がネックになり、選択肢が減ってしまうけど、収納の少ない台所事情を考慮するとこれは死守したいところである。
▲食器として利用できるため収納スペースの節約になる。洗い物が減るというメリットも。
そんな僕がセレクトしたのは「一膳おひつ」というアイテムだ。3つの要素をばっちり満たすうえ、レンジにも対応してスタッキングも可能と、非常に優秀な仕上がりとなっている。
▲一見、黒一色に見えるけど、手にとって眺めると濃淡があってなかなか味わい深い。器の底とフタの内側には釉薬が掛かっておらず、素朴な風合いを楽しむことができる。
手入れにさほど気をつかわなくていいのもグッド。食べたらすぐに洗って、しっかり乾かす。つまりふつうの「土もの」と一緒というわけだ。もちろんプラスチックの容器なんかと比べると手間だけど、木の容器と比べるとはるかに楽である。
いろいろと美点を語ったが、このおひつの最大の魅力はなんといっても「白米をおいしく保存できること」だ。陶器には「気孔」と呼ばれる小さな穴が無数にある。この穴が水分を吸収したり放出したりして、ご飯のおいしさを保つ仕組みとなっているのだ(おまけに臭いなども吸収してくれるという)。
極限までに科学技術が発展した令和の時代にあって、そのシステムはちょっと単純というか、牧歌的な感じすらあるけど、シンプルな方法ほどけっこう侮れなかったりする。さっそく白米を入れてみて実力を試してみようではないか。
7月5日(日)
「気孔ってすごい」
▲直径は約12cm。一般的な丼より小さめのサイズで、手が小さい人でも扱いやすい。
前日に仕込んだご飯を口にしたとき、僕は驚いてしまった。明らかにいつもよりおいしいのだ。実を言うと、水を入れすぎてややベチャついていたのだが、いつの間にか程よくモチモチになっている。これが気孔の効果なのか。
この日残したメモには「気孔ってすごい」と書いてある。いや、これはほんとうに驚くべきことですよ。
7月14日(火)
スペシャルな海鮮丼をつくろう
帰省できないことを気の毒がって、両親が地元でとれた魚介類を冷凍便で届けてくれた。段ボールを開けるとブリやタイ、カツオ、それにトコブシ(アワビに似た貝)が入っていた。
カツオはタタキに、トコブシはバター炒めにするとして……。せっかくいい食器を買ったのだし、残りのネタを使って海鮮丼を作ってみようかな。
炊きたての白米をよそり、ブリとタイを盛り付ける。さらに鮮魚店で買い足した具材を乗せたらば、スペシャルな海鮮丼の出来上がり。ただでさえおいしいのに、素敵な器のおかげでさらにおいしく感じられます。ようし、明日からもたくさん食べるぞ。
7月17日(金)
不幸中の幸いというか
思わず「そんなことある?」と言いたくなるような事件があった。そのあらましはこうだ。
いろいろと落ち着いたら登山に挑戦しようと思い、7月からちょっとしたジムのようなところに通い出した。トレーナーさんにあれこれと教えてもらってるんだけど、この日、「本格的に体を作るためにしばらく糖質は控えましょう」と宣告されたのだ。
「ご飯やパンはダメということですか?」と僕は尋ねた。「ええ、そうです」とトレーナーさんはにこりともせず言った。とてもじゃないけど断れそうにはなかった。よっぽど「毎日最低でも1合は食べているんですけど、すこしずつ量を減らすのではだめですかね?」と聞こうとしたけど、あきれられそうなのでグッと我慢した。
……土鍋のレビューだったらここで終わっていただろう(炊飯器でも終わっていたと思う)。しかし、不幸中の幸いというか、このおひつは食事以外にも利用できる。というわけで今日からはさまざまな活用方法を模索することにした。
7月20日(月)
これは遊びがいがあるね
この器をはじめて見たときから「果物を食べるのによさそう」と感じていた。実際に試してみたら、これが想像以上にしっくりきて嬉しかった。サイズもミカンとかブドウとかを入れるのにぴったりだし、皮をフタに置いておけるのもなかなか都合がいい。
お菓子の容器としてもちょうどよかった。ここでもフタがいい仕事をしてくれてて、空いた袋の一時置き場のほか、目隠しとしても機能してくれる。ほら、甘いものって目に入るとついつい食べたくなるじゃないですか。ふだんはフタで「封印」することで余計な食欲を抑えてくれるというわけだ。
のど飴やコーヒーミルクをストックしたりと、ほかにもいろいろと使えそうだ。うーむ、これは遊びがいがあるじゃないか。
8月6日(木)
それにしてもと思う
▲この頃はおつまみの容器としても活躍中だ。
おひつを購入してからだいたい1ヶ月が経っていた。冷や汗をかくような「トラブル」を乗り越え、いまは果物やお菓子などの器として活躍してくれている。
登山のためのトレーニングも順調だ。最初はキツかった糖質制限にも体が順応してきたように感じる。山に登れる日が来るのが楽しみでならない。
「それにしても」と僕は思う。このおひつでご飯を食べると、自宅でさえあれだけおいしく感じるのだ。もし山頂できれいな景色を眺めながら食べたなら、どれだけおいしいのだろうかと……。
本日登場したアイテム
【イラスト】イチハラ マコ
【写真】渡辺平日
渡辺平日
日用品愛好家。海の見える小さな町で生まれ育ちました。毎日が平日のつもりで、日夜せっせと文章を書いています。趣味は町歩きと物件探しと民話収集。そういう話題が耳に入ると、反応して振り返ります。主な寄稿先は『LaLa Begin』『和樂web』『goodroom journal』など。Twitterアカウントは@wtnbhijt。
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