【44歳のじゆう帖】「旅行」についての反省文

ビューティライターAYANA

最初の旅行は、インドでした

私は大学でインドの文化について勉強していたのですが、その流れで、同じクラスの友人たちと2度ほどインドへ旅行に行きました。寝袋をくくりつけた大きなリュックを背負い、自分たちでプランニングするいわゆるバックパッカーの旅です。

期間もまあまあ長く、1回目は2週間、2回目は3週間くらいだったような。今思うとよく生きて帰ってきたねみたいな経験もひとつふたつ、ありました。

インドに惹かれていた理由はいろいろあります。ユニークな神様たち。建築や雑貨に使われるアートワーク。ハーブとスパイス。アーユルヴェーダとヨガ。なによりインドは規格外の「哲学的な国」「神聖な国」なので、行けば何か物凄いものが掴めるんじゃないかとか、悟りが開けちゃうんじゃないかというような雰囲気がありました。

当時まだインターネットはなくて、インドの情報を収集しようと思ったら、バックパッカーたちのバイブル『地球の歩き方』(ダイヤモンド社)や妹尾河童さんの『河童が覗いたインド』(新潮文庫)といったガイドブックを読むのが定番。

そこには日本となにもかもが違いすぎる摩訶不思議なことが書かれていたものです。インドには当時、若いバックパッカーがたくさんいましたが、私のような希望を胸に訪れていた人も多かったはず。

2回インドに行って得た教訓があります。それは「場所を変えても自分が変わらなければ何も変わらない」ということです。

インドでいろいろとユニークな経験をしたけれども、どんなときでも私の頭の中にはどこかしんとしたもうひとりの自分がいて、我を忘れて熱狂したり、開眼するようなことはついぞありませんでしたし、私がとんでもなく素敵な人間に変身してしまうこともなかったのです。

旅に価値が見出せなかったあの頃

私にとってはじめての「親同伴ではない旅行」は、この2回にわたるインド旅行でした。それ以来、旅行というものに対して「どこかに行ったところで、私は私で、それが変わるわけでもないんだよな」といった、どこか冷めた気持ちを持ってしまった気がします。

その後も旅行は何度かしているのですが、いつもどこか消化不良のまま帰ってくることばかりで、旅行の醍醐味のようなものをなかなか掴めないままでいました。

休みが取れるたびに旅行の計画を立てる友人を横目に、私は自分の価値観を磨く本でも読んだほうが滋養になる気がする、なんて思っていたものです。

いつだったか、友人に「数十万のコートを買う人が信じられない。それだけあれば旅行に行けるのに勿体ないよね!」と言われて、どきっとしてしまいました。私はきっと、数十万のコートを買ってしまう側の人間だなと思ったからです(購入経験はありませんが)。

服でも旅でもその両方でも、好きなものにお金を使えばいい。それは間違いないことなのに、なぜどきっとしてしまうのか。

よくよく紐解くと、結局私は自分自身のことを気に入ってなくて、それが「確実に」変わるきっかけ(要するに自分探し)にお金を払いたい人間なんだな、と思い至りました。行ってもピンとこない実体のない旅行より、モノとして残るもののほうに確実性を感じているのかな、とも。

改めて書くと考え方が貧しいなお前、という感じですが、要するに自分への執着が強いんですよね。

人生は等しく、自分が豊かになる機会

「旅行ってこんなに楽しいんだ」と思ったのは、30代後半でハワイ島に行ったときです。経験豊富な友人がすべてプランニングしてくれたのですが、マウナケアの山頂で幻想的な星空を見たり、滝を目指して割とハードな渓谷を歩いたり、オーガニックショップを散策したりと、ひとりでは絶対に計画できないコンテンツ満載の旅でした。

なにより「楽しんでほしい」というホスピタリティのようなものがプランに詰まっていて、それをのびのび享受できた実感があり、ハワイの気候もあってめちゃくちゃ体調が良くなったのを覚えています。

ハワイの旅は、いくつかのことを私に教えてくれました。まず、旅は計画ありきということ。

それまでの私は、旅行の計画を立てる=ルートを決めることだと思っていました。どこに行くかを決めて、飛行機やホテルのチケットを取る。あとはなんか現地で素敵なことがあるでしょ的な、委ねるスタイルだったなと。もっと下調べをしておき、こちらから距離を縮めておく必要があるのだなと。

それから、出会うものひとつひとつが、自分の糧となるのだということ。

それまでの私は、旅に行って帰ってきても自分が何も変わっていないことに絶望していました。けれど旅は自分を変えるスイッチではなくて、自分を豊かにする経験の集合体で、それらに素直に向き合えばこんなに自分の感覚を豊かにしてくれるんだ、ということに気づいたのです。

また、旅行にハードルの高い非日常を求める必要はない。よく考えれば私にとっては日常生活だって旅のようなもので、それは私が物覚えの悪い人間だからなのですが、毎日どこかで今日この世に生まれたような新鮮さを感じているところがあります。だから旅行をしても逆に「これは日常と何が違うんだろう?」と考えてしまっていた。

ハワイは一瞬一瞬が楽しかったのですが、それは日常の延長線上でもあった、と言えます。つまり、別に人生ひっくるめて旅行でいいし、等しくいろいろな景色を見ることができる装置なのだと捉えればいいんですよね。

それ以来、旅行が自分にとってぐっと楽なものになりました。今は子どもがいて「家事を一切しなくていいホテルに滞在したい」と思ってしまいますが、一緒に旅ができるようになったら、バックパッカーもまたやってみたいものです。

 

【写真】本多康司

 

AYANA

ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang  http://www.ayana.tokyo/

 

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