【45歳のじゆう帖】「型」を設定する面白さ

ビューティライターAYANA

メイクの仕方で、素顔が変わってしまう

大学生の頃、メイクアップの専門学校に通っていました。「人は化粧の通りの顔になっていく」──これは、そこで教えていただいた興味深い話のひとつです。

たとえば眉。当時は90年代後半、眉を切ったり抜いたりして整えた細眉が当たり前の時代でした。角度をつけて眉山を強調したり、アーチ型にしたり。私も例に漏れず眉を細くし、眉山に向かって傾斜をつけた形にしていたのですが「あまり角度をつけた眉にすると、その表情をすることが癖になり定着してしまう。額に力が入ってシワができてしまいますよ」と教わりました。

文章だけでどれだけ伝わるでしょうか。角度をつけた細眉というのは「なんですって!?」みたいに目をカッと見開いたような顔、額が少し上に上がるような顔に合う眉です。私は確かにその表情を作りやすく、額には常にシワが寄っていました。眉の形を整えたら少しおさまったのをよく憶えています。

もちろんデカ目メイクをしているからといって目のサイズが2倍になったり、ノーズシャドウを入れたからといって鼻が高くなったりするわけではありません。これは造形の話ではなく、力の入れ方の話です。口角を上げたようなリップラインを描けば自然に笑顔が多くなる、というような話ですね。

とはいえ、「そうではない」自分の顔を、まるで「そうである」ように装うのが化粧だと思っていた私は、素顔がその方向に変化してしまうということに非常に驚きました。

曖昧だった肩書きにテコ入れをした経験

当時はたいそう衝撃を受けましたが、今よく考えてみると「形を決めていくと、その形にあわせて中身(精神?)が動いていく」というのは、往々にしてある話かもしれません。

ひとつ思い当たるのが肩書きのことです。

肩書きは本当に大切なものだと、フリーランス10年の私は痛感しております。以前写真家の友人が「フォトグラファーではなく写真家という肩書きにしたら、色々なことがすっきりした」と言っていました。フォトグラファーも写真家も、意味合いとしては同じですが、まとう空気やニュアンスが全く違います。

「ビューティライター」という肩書きにして4年ほどになりますが、それまでは「ライター、プランナー」でした。ライターとしてどんなお仕事も受けますよ(ジャンルは限定しない)という気持ちでしたし、化粧品開発の経験を活かしたプランニングの仕事もしていました。

以前もここで書いたかもしれませんが、メイクアップのアドバイスなんかをするようになった時期があり、もうひとつ肩書きを増やそうかな?と悩んでいたときに「ひとつにしたら?」と友人にアドバイスを受け、今の「ビューティライター」に決めました。

ここで色々なことが明らかになりました。「ビューティ」と名乗ることで「私は美容の人間です」という自覚が生まれたこと。それまでもほとんどが美容の仕事でしたが「いえいえ私のような特に美しくもない人間が美容を名乗るのはありえなくてですね……」とどこかで思っていた。ジャンルを限定しないほうが仕事をもらえるとも思っていたし、私の利用価値はそちらで決めてくださいという、どこか人任せなところがありました。

また、肩書きを複数持つことで、あれもできるしこれもできますよ、という姿勢だった。これが私にとっては「逃げられる」状態でした。つまりどこかで責任を背負っていない姿勢だった、ということです。

肩書きが複数あるのはまったく悪いことではないと思います。ただ私の場合は肩書きを絞り、この世界の人間だと設定することで責任感が生まれました。これが非常によかったのです。

自分の「型」を設定するということ

肩書きを考えるというのは、一見フリーランスの特権のようですよね。ですが、実際はどんな立場でも設定していいのではないかと私は思います。もし、興味があればの話ですが。

学生の頃、周りに陶芸家や劇団員の友人がいて、それぞれ自分の表現で生きている姿が眩しくて、羨ましく思っていました。私には何も名乗れるものがない、才能のないただの学生だと。

でも、実際は名乗ってしまってよかったのです。メイクアップアーティストなのか、フォトグラファーなのか(当時、コンパクトカメラで写真を撮っていました)、なんだってよかった。別にその肩書きと一生つきあわなくてもいいわけですし。いやいや私は名乗るほどの者ではありませんので……なんて遠慮するふりをしてどこかで甘えていた、と今は思います。

もちろん学生の私は未熟このうえなく、プロとして活躍している人たちと比べたら、経験も知識も才能も技術も素人以下でした。でも、肩書きから先に設定して、逃げられなくすることで得るものはものすごく沢山あるなぁと思うんです。先にアウトラウンを決めてしまう。ゴールを決めてしまう。そうすることで生まれるサプライズのようなものがあります。

健康を考え年明けからプールに通い始めたのですが、年末にプールに行ってみようかなと思い立ち、私がまずやったのは、素敵な水着を買うことでした。

また、今私はエモ文という文章講座をやっていますが、そのなかに「文体を変えて文章を書く」というワークがあります。自分が書いた文章の内容は変えず、文体だけを変えて書いてみるんですね。すると不思議なことに、内容も変わってしまうことがほとんどなのです。

型を設定してみて、後から気持ちがそこに沿っていく。その力が生み出すものを楽しんでいくことができたら最高です。

 

【写真】本多康司

 

AYANA

ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang  http://www.ayana.tokyo/

 

AYANAさんに参加してもらい開発した
KURASHI&Trips PUBLISHING
メイクアップシリーズ

AYANAさんも立ち会って制作した
スタッフのメイク体験
スペシャルムービー

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