【本屋の本棚から】前編:手のひらに、そよ風が舞い込むように。春を好きになる本4冊(福岡・ナツメ書店)

編集スタッフ 松田

ふらりと本屋さんに立ち寄って、本棚を眺める時間。

それは、とてもしあわせで、豊かな時間のひとつだと感じます。

心の奥にしまい込んでいた興味や記憶が呼び起こされたり、たまたま目にとまった言葉に思わずドキッとしたり、美しい装丁の本に癒やされたり。ふと気づくと店内には、同じようにじっくり本棚を眺めている人がいて、それがまた居心地よく感じたり。

それでも、仕事や子育てなど、忙しい日々に追われて、なかなか本屋に立ち寄る時間がつくれないという方も多いのではないでしょうか。

本屋に訪れ、本棚をゆっくり眺める時間そのものをお届けできたなら。そんな思いで企画した特集。

第三弾で伺ったのは、福岡市の西戸崎にあるナツメ書店。店主・奥 由美子(おく ゆみこ)さんに、今の気分に寄り添うテーマで本を選書いただき、特別な本棚をつくっていただきました。

▲ナツメ書店があるのは、海沿いの静かな町。築約100年の元時計店だった建物を面影を残しつつ改装した、情緒ある佇まいのお店

▲宮崎ご出身の店主・奥さんは、幼少期から本が好き。お店の本棚には奥さんの視点で選び抜かれた、良質で美しい本が並ぶ

▲コーヒーの良い香りが漂う店内。夫の奥 雄祐さんが営むコーヒーの焙煎所も併設している

本日選んでいただいた本棚のテーマは、「春を好きになる本」です。

それでは本屋さんでの時間を、ゆっくりお楽しみください。

 


今日の本棚
「春を好きになる」


窓から差し込む光が、
ぽかぽかとした陽気に変わる。
軒先の植物たちが芽吹いて、
花の蕾がひらいて。
少しほろ苦い春野菜が恋しくなり、
浮き立つような気持ちが
食卓にも。
四季の中でも、
とくに短いこのいっときを
惜しみなく楽しみたい。
春をもっと好きになる、
そんな本を選んでいただきました。

【本棚リスト】
『春ならい』 牛久保雅美
『春の咲く街』 花松あゆみ THE STABLES
『山椒とうみょうエメラルド』尾柳佳枝
『わたしとあそんで』文・絵 マリー・ホール・エッツ / 訳 よだ じゅんいち 福音館書店
『仔牛の春』 五味太郎 偕成社
『新装版 魔女の宅急便(文庫)』 角野栄子 KADOKAWA
『たんぽるぽる』 雪舟えま 短歌研究社
『のはらうた Ⅰ』 工藤直子 童話屋
『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』 牧野富太郎 平凡社
『子どもと一緒に覚えたい 道草の名前』 監修 稲垣栄洋/絵 加古川利彦 マイルスタッフ
『菜の辞典』 ⻑井史枝/絵・川副 美紀 雷鳥社
『食べられる庭図鑑』良原リエ アノニマ・スタジオ


この本棚の中から、特に奥さんが今オススメしたい本についてコメントいただきました。

 

おひさまの暖かさを思わせる、クリーム色の原っぱで

奥さん:
「まずは、個人的にも昔から大好きだった、春にまつわる絵本をご紹介します。こちらは1968年初版のロングセラーで、アメリカの絵本作家、マリー・ホール・エッツによって描かれた作品。日本では『もりのなか』という作品も有名です。

物語では、女の子と、バッタやカエルなどの小さな動物との可愛らしいやりとりが描かれています。“あそびましょ” と虫や動物たちに声をかけても、みんな逃げてしまって……。でも最後には、幸せそうな女の子の笑顔をみることができます。

クリーム色を基調とした少ない色彩ではあるのですが、お日さまのまぶしさ、いきいきとした草木たちの情景、女の子の気持ちの揺れ動きが、しっかりと読み手に伝わってくる美しい絵で、余白も含めて綿密につくられているのがわかります。

女の子が半袖を着ているので、季節はきっと春が少し進んだ5月ごろ。読んでいると、自分も野原に出てそよ風を感じたくなるような一冊。日本語訳も素晴らしい、色褪せない作品です」

『わたしとあそんで』文・絵 マリー・ホール・エッツ/訳 よだ じゅんいち 福音館書店

 

植物たちが芽吹く季節に。日本の植物学の父と呼ばれたひと

奥さん:
「外を歩くと、さまざまな植物の芽吹きに出会える春。次にご紹介するのは、 日本の植物学の父と呼ばれた、牧野富太郎さんの随筆集です。

植物への新しい視点をもたらしてくれる内容で、牧野さんが自らを草木の精と名乗っているように、ひとつひとつの言葉づかいから植物を心から大好きな気持ちが伝わってきます。

この本は、平凡社という出版社から出されている、科学と文学の双方を横断する知性を持った科学者・作家を1人1冊で紹介する随筆シリーズ “スタンダードブックス” の中のひとつ。精選された、比較的短くて読みやすい文章が収録されているので、牧野さんの文章を読む最初の一冊としてもおすすめです」

『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』 牧野 富太郎 平凡社

 

春の風が、手のひらに舞い込んでくるように

奥さん:
「こちらは、主にゴム版画で制作を行なうイラストレーターの花松あゆみさんが、弘前にある工芸品店・THE STABLESさんで原画展をされたときの作品集です。

できるだけ原画に近いニュアンスを再現するために、帯・表紙・本紙すべてが活版で印刷されています。原画に近い仕上がりであることで、手に取りながら作品を身近に感じ取れるのが素晴らしいなと思います。

描かれている景色、刷り色、紙の質感や触り心地すべてが愛おしく、まるで宝物を手にしているような感覚になります」

奥さん:
「ポストカードほどの紙面には、それぞれのページに物語がぎゅっと閉じ込められていて、春の風が手のひらに舞い込んでくるよう。頭を空っぽにして、その物語に身を委ねたくなる一冊。ぜひ実物を手に取ってみていただきたいです」

『春の咲く街』 花松あゆみ THE STABLES

 

手元に置いておきたくなる。美しくて実用的な、菜の辞典

奥さん:
「春といえば、菜の花や春キャベツ、そら豆など、野菜を食べるのが楽しい季節ですよね。装丁が素敵なこちらは、よく目にするものから、ちょっと珍しいものまで、約180種の野菜が紹介されている辞典。

独自の項目立てが面白く、旬の時期や選び方、名前の由来、栄養素や効能、食べ方までが見やすいかたちで書かれていて、美しいイラストを眺めながら実用的な内容を知ることができる構成になっています。ふだん何気なく食べている野菜の意外と知らなかった豆知識がのっていて楽しいです。

A6サイズという大きさもよくて、手元に置いておきたくなる辞典です。いい意味で専門的すぎず、ライトに楽しめる内容なので、贈りものとしても喜ばれそうな一冊だと思います」

『菜の辞典』 ⻑井史枝/絵・川副 美紀 雷鳥社

***

つづく後編は、「少し肩の力を抜きたいとき、ゆるめたいときに寄り添ってくれる本」がテーマの本棚をお届けします。どうぞお楽しみに。

 

【写真】いわい あや

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ナツメ書店
Sleep Coffee and Roaster.

福岡・西戸崎の海辺の町で、築100年の元時計店を改装した書店・ロースタリーを夫婦で営んでいる。由美子さんが書店担当、雄祐さんがコーヒー担当。選書は、本を好きになるきっかけになるような本を選ぶように心掛けているそう。毎朝7時に「朝のコーヒー 今日の本」というテーマで、youtubeのライブ配信も。
HP:https://natumesleep.com  instagram:@natumebooks
open|金・土・日 12:00-19:00

▶︎この特集でご紹介した本について
ナツメ書店さんのHPでもご紹介しています。こちらもぜひご覧ください。
https://natumesleep.net/


もくじ

 


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