【思いを重ねる家づくり】第1話:古いもの好きな夫婦が建てた新築一軒家。新しいけれど懐かしいインテリアの作りかた

ライター 藤沢あかり

誰かの素敵な暮らしに憧れて同じクッションを買ってみたけれど、なんだかしっくりこない。お店でひとめぼれしたスツールが、ほかの家具と合わせるとちょっとちぐはぐ。そんな失敗をいくつも繰り返しながら、ずっと理想の住まいを探し続けてきました。

「自分らしさ」を大切にしながら、居心地よく、家族みんながごきげんに。そんなインテリアは、どうしたら叶うのでしょう。理想の暮らしを実現した人は、どんなふうに住まいを整えてきたのでしょうか。

今回わたしたちが訪ねたのは、ハンドメイド作家「ne-ene(ネエネ)」の活動を経て、現在はふたりの子どもを育てる翁長詩乃(おなが・しの)さん。

いちから作りあげた家に暮らし始めてもうすぐ2年。住宅としては、まだまだ生まれたてのひよっこ年数ですが、お邪魔すると、どこか懐かしく落ち着いた雰囲気が漂います。

どうやらそれは、家を構成する小さなディテールやこれまでのもの選びに、大切なヒントがあるようです。

「誰かの好き」ではなく、「自分の好き」を大切に重ねてきた翁長さんの、家族みんながごきげんに暮らせる家づくりとインテリアのヒントをお届けします。

 

40代の家づくり。そもそも建てるつもりはなかった?

翁長さんのお宅にお邪魔すると、お気に入りの家具や雑貨、家族写真や夫の趣味のオーディオ、子どもの絵や工作……、あちらこちらに、家族それぞれの気配や暮らしの息遣いを感じます。

決してものが少ないわけでもなく、すべてがきちんとしまい込まれているわけでもありません。でも、どのアイテムも愛おしそうで、そしてなにより居心地が良さそう。

家づくりのスタートを、「自分たちの大切なものをおさめるための、箱をつくるような気持ち」と話してくれた翁長さん。この家に、夫と、小学3年生と年長の息子との4人で暮らしています。

実は、もともと家を建てる予定はまったくなかったのだそうです。

翁長さん:
「家族が増えて手狭になってきたことで、引っ越しを考えるようになりました。長男の通う小学校も決まり、これから先の居住エリアも固まってきたところで、最初は中古住宅を探し始めたんです」

ところがその地域には条件に合う物件がなく、それならばと新築の建売住宅も候補に入れましたが、やはり納得する家は見つかりません。

▲玄関を入ってすぐ右手がオープン仕様の子どもスペース。ロープで吊り下げられたかごは、2階との往復便として子どもたちがお弁当や宿題を入れて、引っ張り上げたり下ろしたり。想像しただけで楽しそう!

翁長さん:
「これまで住んできたところは築年数の古い家ばかりで、新しい家にはない建具や床などの質感がとても気に入っていたんです。でも、理想的な古い物件はなかなか出会えないし、自分たちが思うようなシンプルな建売というのも意外とありません。

夫婦ともに古い家具や雑貨が好きで、暮らしを囲んでいるのは自分たちが大切に集めてきたものばかりです。それをどうやって収めたいかと考えるうちに、家を建てるという選択肢もあるんじゃないかと思うようになりました」

▲2階から1階をのぞくと、オープンな子ども部屋がすぐそこに。離れていても互いに気配を感じられるので、リビングにおもちゃを持ち込むことも少なくなったとか。数字のサインは、夫が子どもの誕生日ごとに作るダンボールアート。

試しに土地も見てみよう。そんな思いで何気なく探し始めたところ、思いがけないスピードで理想的な土地との出会いがありました。駅や学校との距離も申し分なく、なにより三方に開けた明るい土地は、そう見つかるものではありません。

翁長さん:
「これまでも、なかば趣味のようにあちこちの物件を見てきたので、こんなにいい場所はきっと見つからないという確信がありました。そこで初めて、家を建てる決意をしたのです」

 

新しいのに懐かしい、その秘密は塗装や素材の選びかた

家を建てるときに、一番大切にしたこと。それは、新しいけれど古いものがなじむ空間にしたいという思いでした。

そんなとき、ふと目に入った建築家の作品に惹かれ、その事務所を訪ねてみることに。自ら設計し、暮らし始めて10年だという自宅兼事務所のたたずまいに、自分達の住まいの未来がイメージできたのだといいます。

翁長さん:
「建てた直後より、年々良くなっていく住まいが理想でした。建築家さんの家は、いい雰囲気に年を重ねていて、夫もわたしも直感的に『ここだ』と。

海外の古い家の、懐かしくてかわいい、でも甘すぎない、新築にはない雰囲気が大好き。雑誌の中に広がる、スタイリストの岡尾美代子さんや作原文子さんが手がける世界観にも憧れていました。日本に残っている米軍住宅のようなアメリカスタイルの古い家が、撮影スタジオとして使われていて。

夫もそれは同じで、新婚当時に住んでいた古い家の建具やドアノブなどのディテールも、とても気に入っていました。その空気感を再現したくて、建築家の方に写真を見せながら試行錯誤してもらったのです」

▲「ドアや床材の質感にひとめぼれだった」という以前の住まい。上の写真の窓辺と比べてみてください。このイメージを頼りに、理想の家づくりは始まりました。

建具のシナ合板には、経年変化をしたような塗装を。造りつけの棚や窓枠は、修繕のたびにペンキを重ねたような風合いに。水回りには、古くからずっと愛されてきた定番の白いタイルを選び、手すりは古いビルにありそうなスチールと木を合わせたデザインに。

ひとくちに「白いペイント」といっても、色も質感もさまざま。どんな白がいいか、ツヤ感はどのくらいか、たくさんのサンプルを見比べ、細かなニュアンスも納得いくまで共有しました。

自分たちが古い建物に感じている「好き」は、どこにあるんだろう? その理由を紐解きながら、一つひとつを積み重ね、新しさと懐かしさを織り交ぜていったのです。

▲階段の手すりは、ペイントを施したスチールに木を合わせ、古いビルのような雰囲気に。

 

ルーツは、宝探しのような古いものとの出会い

翁長さん:
「10歳のころ、父の仕事で1年間イギリスに暮らしました。向こうはセカンドハンドと呼ばれるような、いわゆるリサイクルショップや蚤の市、フリーマーケットが一般的で、週末になると、母と一緒に服やおもちゃを探しに行くんです。

たくさんの中から、自分のお気に入りを見つけるのは宝探しのようで、古いものの楽しさを知ったのはそのときです」

その後、ウェブデザイナーとして勤めたのはアメリカ古着を扱う会社。現地での買付け話をいつも身近に聞いていた翁長さんは、同じころ、雑誌『クウネル』でアメリカのスリフトショップ(※)を巡る旅の企画にも衝撃を受けたといいます。

※各家庭からチャリティー目的で集められた家具や雑貨、古着などを扱うリサイクルショップ。

▲窓枠や造りつけの棚は、修繕を重ねたようなツヤのあるペンキ仕上げ。ごく薄いアイボリーのおかげで、懐かしい素朴な雰囲気に。

翁長さん:
「フォトグラファーの髙橋ヨーコさんが、レンタカーでいろいろな都市のスリフトショップを巡るんです。どれも名もなきものだけれど、それぞれに味があって、ブランド物や現行品とは違う魅力があります。

わたしも行ってみたい!と、同じく古着好きの夫との新婚旅行にはアメリカ4都市のスリフトショップ巡りを選びました。同じように現地でレンタカーを借りて。いま飾っているものも、そのとき買ったものがたくさん残っています」

▲どこかの夫婦が写る古い写真や、茶色いクマのオブジェ。どちらも、新婚旅行先のスリフトショップで見つけたもの。

▲おおらかな絵付けのフリーカップは、祖母の家に古くからあったものを譲り受けたそう。

翁長さん:
「ブランドや作り手がわかるアイテムにも素敵なものはたくさんありますし、わたしも大好き。でもそれ以上に、誰がどこで作ったのかわからないけれど味わいのあるものに惹かれます。ひと目でブランド名がわかるものよりも、そういったものを少しずつ集めながらインテリアを作っていけたらと思っています」

▲新婚旅行で見つけたお気に入りのフレームは、時を経て2人の子どもたちの写真でいっぱいに。

夫が海外の出張先で見つけた、馬のハンドメイド刺繍、ちょっとファニーなお土産物のマグカップ、祖父母の家から譲り受けた家具や雑貨。翁長さん家族の暮らす場所は、大切に、少しずつ集まってきた自分たちの思い出をおさめるための家でもありました。

続く2話目では、お気に入りのソファが主役になったリビングの様子と、古いものが生きるための家具の選び方についてお届けします。

 

【写真】衛藤キヨコ

 

もくじ

 

翁長詩乃(おなが・しの)

WEBデザイナー、ハンドメイド作家「ne-ene(ネエネ)」デザイナーとしての活動を経て、現在は小3、年長のふたりの男の子を育てながら、整理・収納やインテリアの活動を始めるべく準備中。Instagram:@ne_ene

 


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