【57577の宝箱】何を好み何を欲しているのだろう 毎年抱える君という謎
文筆家 土門蘭
プレゼントをするのが少し苦手だ。
と言っても、プレゼントをしたくないわけではない。むしろ、したい。
でも、何を相手に贈ったらいいのかわからない。いくら考えても、ちゃんと相手に喜んでもらえるのか自信がない。「わー、ありがとう」と微妙な表情で受け取られるところを想像してしまい、プレゼントを選ぼうとした時点で体が重たくなってくる。そういうことって、ないでしょうか。
なぜそうなったのか。私の場合、理由は多分、母がプレゼントをもらうのが苦手な人だったからだと思っている。
母の日や誕生日などにプレゼントをあげると、
「いいのに、こんなもの買わんでも」
「プレゼントなんていらんのに」
ということを毎回言われた。そのプレゼントに対しての感想はほとんどもらったことがない。
こっちは何が喜んでもらえるだろうと散々考えて、いろんなお店を見て、ドキドキしながら渡しているわけだから、そんな反応をされるとちょっと落ち込む。多分照れ隠しなのだろうけれど、喜んだ顔が見たかったなぁと思ったものだ。
以来、人にプレゼントをしようとすると、なんとなくいつも気が重くなる。喜んでほしいのだけど、もし喜ばれなかったら、と考えてしまうのだ。今こうして一生懸命選んでいる時間も、全部無駄かもしれないな……など。
そう思うと、何を贈ればいいのかますますわからなくなってしまう。邪魔にならないもの、負担にならないもの、と消去法で考えて、自分らしくもないありふれたものを買ってしまったり、結局何もあげなかったり。
プレゼント上手になりたいなぁ、というのが積年の思いだった。
§
学生時代の友達に、プレゼント上手な人がいた。
センスのいいキーケースや、可愛らしいアクセサリーなどを、さらりとあげることができる。私も好みドンピシャのピアスをもらったことがあるのだが、
「どうして私の好みがわかるの?」
と聞いたら、「よく見てるから」とちょっと照れたように笑った。
「身につけるものを見ていたら、どんなものが好きなのかだいたいわかるよ。蘭ちゃんは、シンプルでカジュアルだけど、ちょっとだけ女性らしさのあるようなものが好きでしょう?」
それを聞いて非常に感心し、「すごいなぁ」と言った。当たっている。彼女の言う通りだ。
一方私の場合、その人が身につけているものを見ても、「そういう人なんだな」で終わってしまう。というか、身につけているものをそんなにちゃんと見ていない気がする。
だけど彼女は、身につけているものから、その人の好みに思いを馳せる。なぜそれを選んだのか。どこに惹かれたのか。他の持ち物の中には、どんなテイストのものがあるのか。本当に、よく見ている。
そう考えると、私は母に関して「母が何を好きなのか」をあまり知らなかったなと思った。母に限らず、いつも、なんとなく喜ばれそうなものを当てずっぽうで選んでいた。喜んでほしいということだけ考えて、ちゃんと受け取り手の目線で何かを選んだことがなかったかもしれない。
身の回りの人が、どんなものを好きなのか。
そんな目線で周りの人を見るのって、素敵だなぁとおもった。
§
とは言え、やっぱり人には向き不向きがある。
彼女のような観察眼が私にはないので、じゃあどうしたらいいだろうと考え、結局、「その人に直接聞く」のがいいのではないかと思うようになった。身も蓋もないけれど。
できればプレゼント上手な友人のように、言わなくても察してサプライズのように渡したいものだが、距離があって会えなかったり、私の勘が鈍かったりで、なかなか難しい。だから、直接聞いてみることにした。プレゼント選びの醍醐味を自ら放棄しているようにも感じるけれど、できるだけ喜んでほしいので仕方ない。
そう決めて以来、母の誕生日が近づくと電話をしてこう尋ねている。
「今年の誕生日は、何がほしい?」
母は最初は遠慮がちに「いらない」と言うのだけど、「遠慮しないでいいから言って」と言うと、「551の豚まんがいい」とか「京都のおいしい千枚漬けがいい」とか教えてくれるようになった。その度に、「お母さんってそういうものが好きだったのか」と知らなかった一面を発見する。この間は、京都の老舗が作るたわしを所望された。テレビで紹介されていたから欲しいと思っていたのだ、と言って。
今では母は、よく喜んでくれる。この間のたわしのときには、
「いつも気にかけてくれてありがとね」
と、言われた。
「届くのが楽しみじゃ」と。
それを聞いて、もうこの瞬間からプレゼントは始まっているんだなぁと思った。
喜んでもらうプレゼントをするには、まず、相手を知ろうとすること。
そこからもう、プレゼントは始まっているし、その姿勢が相手に伝わりさえすれば、きっと喜んでもらえるのだろう。
そう考えると、プレゼントもそんなに難しいものでもないのかもしれない。
好きな人のことを知るのは、楽しいことだから。
“ 何を好み何を欲しているのだろう毎年抱える君という謎 ”
1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。
1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。
私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。
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