【のびやかな人】後編:歳を重ねて自分に正直になったら、点と点がつながるように

ライター 嶌陽子

生き生きと歳を重ねている人に、日々を過ごすうえで大切にしていることを聞いてみたい。そんな思いでバッグブランド「アトリエペネロープ」の代表兼デザイナー、唐澤明日香(からさわ・あすか)さんのアトリエを訪ねています。

3年前から服のブランド「ボンジュール・ビキ・ボンジュール」も立ち上げた唐澤さん。前編ではこれまでの歩みや、新たに服作りに挑戦した経緯などについて伺いました。続く後編では唐澤さんのプライベートの過ごし方、歳を重ねて見えてきたことなどについてお届けします。

前編をよむ

心のままに動いたら、点と点がつながって

▲アトリエにもたくさんのレコードやCDが置いてあり、心地よい音楽が流れていました

音楽が大好きで、自宅でも仕事場でも1日中レコードやCDをかけているという唐澤さん。仕事帰りなどに、アナログレコードをかけてくれるバーに足を運ぶこともあるそうです。

唐澤さん:
「そこに行くといろいろな業種の人が来ています。音楽やお酒が好きという共通点の中で、普段は出会う機会がない人たちと話すことが度々あるんです。

そういう場で自分とは違う価値観に出合ったり、逆に『業種が違ってもこういうところは同じなんだ』という共通点が分かったりするのが面白くて。それが自分の仕事にも生かされているなと思います」

ほかにも美術館に足を運んだり、時々映画を観たり。日々、いろいろなことを吸収しているように思えますが、唐澤さん自身は「わざわざそうしようと思って過ごしているわけではなく、無意識に、思ったままに動いているんです」と話します。

唐澤さん:
「車が好きなので、時々思い立ってドライブしたりします。でも出かけるのがすごく好き、というわけでもなくて、家で過ごすのも大好き。本を読んだり、編み物をしたり。

不思議なんですが、ここ最近、そうやって自分が出会う人や見聞きするもの、すること、すべてがつながっていくんですよね。たとえば、ちょっと悩んでいることがある時に、たまたま読みかけの本を開いたら、そこに書かれていることが自分の考えていたこととつながったり、その後人と会って話したことがまたつながったり。

点と点がつながっていくことが本当に多いなと感じているんです。これは、歳を重ねたからこそのことなんじゃないかな」

▲唐澤さんが編んだブランケット。編み物は子どもの頃から続けているそう

「そういうことってないですか?」と聞かれ、「たまにしかないです。本当はつながっているのに、それに気づけないだけなのかも」と答えると、「気づけるようになったのは、私が大人になったっていうことなのかな?」と笑った唐澤さん。

何かを吸収するには意識して新しいことをしなくては、どこか行ったことのない場所に行かなくては、などとつい気負って考えてしまいがちです。

でも、唐澤さんのように心をオープンにして、身のまわりの物事をもう少しじっくり見つめてみたり、違う角度から眺めてみたら、あらためて気づくこと、自分の中でつながることがたくさん出てくるのかもしれません。

 

歳を重ねて、自分に正直になってきました

唐澤さん:
「歳を重ねてもうひとつ変わってきたのは、 “こうしなくちゃ” ということに少しずつとらわれないようになってきたことだと思います。

たとえば人付き合いに関しても、昔は集まりに誘われたらあまり気乗りしなくても多少無理して行っていたこともありました。でも、今はきちんと断れます。

どこか無理している人間関係って、いつかだめになることもありますよね。それも含めて、自分に正直に過ごさないと辛いっていうことがこれまでの経験で分かってきたんです。だから、最近は無理をしなくなったように思います。

そうやって自分の気持ちに正直になったから、日々出合うもの全てがつながっていることに気づけるようになったのかもしれませんね」

 

悩みには解決できるものとできないもの、2種類あるから

作り手として、経営者として、さまざまな経験を積み重ねてきたであろう唐澤さん。その過程できっとたくさんの壁にもぶつかったはずです。落ち込んだり、悩んだりした時はどうやって乗り越えているのか、聞いてみたくなりました。

唐澤さん:
「コロナ禍で売れ行きがガクンと落ちて、常に心の中に不安を抱えていた時期もありました。社員を3人抱えている身として、これからどうなっていくんだろう、会社をどうしていけばいいんだろうって。

でも『絶対に今のかたちを崩さない』ってあまりに思い詰めると、自分に負担がかかるし、つらいですよね。どんな状況になってもできるだけ臨機応変に対応したいと思うんです。

状況が悪くなった時のことも想像しておきながら、自分の中で対応できる幅を持っておこうと思っています」

唐澤さん:
「あとは、あまり深刻になりすぎないということでしょうか。私が好きなタイプの人って、男女問わず、ユーモアのある人。私自身も、なるべくユーモアを忘れないようにしたいな、と思っていますね。

もちろん、本当に落ち込んだ時は家に帰って寝ちゃうこともありますよ。ただ、悩んでいることって、何とかして解決できることと、どうにもならないことの2つに分かれると思うんです。

解決できることなら動くけれど、どうにもならないことは一旦置いておいて、別のことに目を向けるようにしています。少し時間が経つと何かとつながってきたり、解決策が見えてくることもあると思うので」

 

離れたり、視点を変えたり。立ち止まらずに探っていく

唐澤さん:
「数年前、もの作りのスランプに陥っていた時期があったんです。バッグが作れない、作っても売れない、という感じで。アトリエペネロープを立ち上げて20数年間、今まで100くらいのかたちを作ってきたから、これまでと違うものを作らなきゃ、などと考えすぎていたのかもしれません。

3年前に服作りを始めたのは、まるで義務のようにバッグを作るという立場からいったん離れ、別のことをしたら見えてくるものがあるかも、という考えもあったような気がします。

立ち止まっていても仕方ないから、解決策を探るために一歩離れてみたり、別のことに目を向けてみる。私はそういうことを繰り返してきたんだと思います」

唐澤さんの話を聞いた後、なんだか心が少し軽くなったような気がしました。

自分の力ではままならぬことがあったり、壁にぶつかって行き詰まってしまうと、どうしても同じ思考から抜け出せず、足元の1点をじっと見てしまうような感覚になります。

そんな時は唐澤さんのいうように「悩みはいったん置いておいて」ふっと視線をほかのものに向けてみたら、もしくは、ちょっと離れて別の方向に歩き始めてみたら、案外解決策が分かってくるのかもしれない、そう思えたからです。

そうするうちに、やがて唐澤さんが言う「点と点がつながる」瞬間が訪れるのかもしれません。

唐澤さんがのびやかに見えるのは、いつだって自分に正直でいることを忘れないから。そして、時に悩んだりしながらも、立ち止まらず、よりよい道を求めて歩き続けているからなのかもしれない。

インタビューの際の澄んだ声と生き生きした表情を思い出しながら、そんなふうに感じています。

 

【写真】丸尾和穂


もくじ


唐澤明日香

服飾専門学校を卒業後、「サザビー」のインテリア事業部勤務などを経て1996年、帆布でバッグを製作する「アトリエペネロープ」を立ち上げる。2019年、洋服のブランド「ボンジュール・ビキ・ボンジュール」をスタート。
https://www.atelierspenelope.com/
インスタグラム:@bonjour_biqui_bonjour


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