【家のかたち、暮らしのかたち】01:築70年の一戸建てをフルリノベーション。じっくりこだわった家づくりの話

編集スタッフ 野村

「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しながら、自分好みのインテリアを整えていく時間は楽しくて、愛おしい時間だと感じます。

こだわって作るなら、自分の納得いくインテリアにしたい。そんな自分の「好き」や「こだわり」が溢れているような方のお家を拝見するのも、楽しい時間のひとつです。

そこで今回は、自身の工房「MOBLY WORKS(モーブレーワークス)」で家具製作や内装デザインを手がける鰤岡力也(ぶりおか りきや)さんと、焼き菓子ブランド「WOLD PASTRIES(ウォルドペストリー)」を主宰する菓子職人の鰤岡和子(ぶりおか かずこ)さん夫婦が暮らすご自宅を訪ねました。

 

一生に一度、自分の納得いく家を作りたくて

東京郊外の田畑が広がる緑豊かな里山の風景の中に、鰤岡さん家族が暮らすお家があります。

広大な裏山を含めて、約300坪の敷地の中に建つ築約70年の一戸建てをフルリノベーション。

「一生に一度、自分が納得いく空間の家を建てたかった」という力也さんの強い思いから、内装と家具、床材や壁材、ドア枠に至る細かな部分まで、一軒家のほぼすべての内装を自身で作り上げたそうです。

 

偶然の産物だった梁から、イメージを膨らませて

鰤岡さんのご自宅のリビング・ダイニングに足を踏み入れると、印象的なのが天井に架かる梁。

まずは家の柱だけを残し、内装をスケルトンにした状態でリノベーションを進めようとしたところ、この梁が出てきたそうです。

力也さん:
「見た目の雰囲気が良くて立派な梁が出てきたので、これを活かしたインテリアにしようとイメージが膨らみましたね。

周りが緑に囲まれた環境だからこそ、自分が影響を受けたカントリー風のインテリアがきっと似合うだろうなと、カントリーテイストを軸にしたインテリアや家具を中心にした空間を作っていこうと決めていきました」

 

なんとなくいいを目指すために

鰤岡さんのご自宅のどこか落ち着いた雰囲気は、内装のデザインだけでなく、穏やかな光の入り方にもあるようです。

力也さん:
「直射日光を受けると家具が日焼けしてしまうので、明るい南向きの光ではなく、あえて少し弱い北向きの光が入るように工夫しました。

でもそのまま北向きの光をいれるだけだと部屋全体が暗くなってしまう。なので取り込んだ光が反射することで家が明るくなるように、天井にも木材を張って、そこにニスを塗布して光がやわらかく反射するように仕上げました」

力也さん:
「“なんとなくいい”と感じる家には、細かな部分でのこだわりが詰まっているな、とこれまで関わった仕事の経験でも感じていたことでした。だからこそ自宅もそんな雰囲気を目指したかった。

他にもこだわったところは、たとえば壁の素材。使っているのはレッドシダー材という木材です。

仕入れる時は、濃い色・中間の色・薄い色の木材がまぜこぜになったパックを仕入れることになるので、どうしても色味を揃えるのが難しいんですね。

なので、同じ色合いの壁面に仕上げるために、通常の3倍以上のパックを購入して、使うものを厳選していきました。さらに張った時にきれいに見えるように、切れ目をなるべく暖炉の煙突の後ろに隠すように設計していて。

自分が納得いく家をつくることは、僕の人生の目標でもあったので、大変ではあったのですが、妥協せずに突き詰めた場所ばかりになりました」

 

経験ゼロからの独立でした

細部に至るまで、自身の手で内装を作り上げたいという力也さんの強い思いのルーツはどんなところにあったのでしょうか?

力也さん:
「とにかくインテリアのことにどハマりしたのが、きっかけですかね。

学生の頃からアメカジファッションやインテリアが大好きでした。だからもっとその世界のことを知りたくて、24歳の時に、世界中の古材や建材を中心に取り扱い販売しているお店『GALLUP(ギャラップ)』に就職しました。

ギャラップは、アメカジファッションの老舗を運営する会社のインテリア部門という形のお店だったので、当時の自分にとっては憧れの場所でもあって。

内装や家具全般も取り扱うギャラップで販売員として働いていく中で、インテリアに関わることがやっぱりどんどん面白くなっていくし、徐々に自分で家具作りをしてみたい気持ちが芽生えてきたんです」

力也さん:
「ギャラップでの3年の勤務を経て、家具作りの修行もしないままに独立を決めました。当時は、自分には家具作りができるんじゃないか、という根拠のない自信を持っていて。

でも、独立して気づくのは、自分は全然家具を作れない、ということでしたね。

それでも独立しちゃったからにはやるしかない、と腹を括って、受けられる仕事には全て手を挙げて受け、仕事からすべてを学んでいくつもりで家具作りに没頭していきました」

 

最初から無理と決めずに、すべてやってみた

独立の際、友人が勤めていたカントリーアンティーク家具・雑貨の名店「Depot 39(デポー39)」の家具修理の仕事を請け負うことができた力也さん。

修理の仕事を請け負いながら、家具の作り方を学んでいきました。

力也さん:
「仕事がありそうだったら全部受ける。受けてから、作り方が分からないから勉強する。それをひたすらに繰り返し、とにかく必死でした。

それにありがたいことに、僕が家具作りの素人だということもわかった上で仕事をくれる大人たちが周りにいてくれました。家具づくりは上手じゃないけれど、こいつはやる気があるな、と仕事をまわしてくれる。

そういう方達と縁があったというのは本当にありがたいことですよね。

そこに必死に食らいついて、自分なりに家具作りの経験を重ねていきました。徹夜をすることもたくさんあったけれど、とにかく楽しくて」

力也さん:
「当時勉強のためにも、かっこいいと思うインテリアが載っている洋書をたくさん買い込んで、全てのページを丸暗記するくらい読み込みました。

なんでこのインテリアはかっこいいんだ? ということをひとつひとつ検証していく。そうしたアイデアが自分の中でどんどんと溜まっていきました。

そのストックされたアイデアを自宅の内装に全て注ぎ込みたくて。だからこそ自宅は細部までこだわりたいと思いました」

***

できるか分からない仕事でも諦めなかった力也さんの姿勢が、そのままお家のこだわりにも反映されていた鰤岡さんのお宅。

今回の取材は、鰤岡さんの自宅から感じる居心地の良さの裏にある力強さのようなものも再認識する時間となりました。

つづく2話目では、和子さんにお家ができるまでのお話を伺ってみました。

(つづく)

【写真】木村文平


もくじ

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鰤岡力也・鰤岡和子

夫の力也さんは、自身の工房「MOBLY WORKS(モーブレーワークス)」で家具制作や内装デザインを手がける。妻の和子さんは、焼き菓子ブランド「WOLD PASTRIES(ウォルドペストリー)」を主宰し、委託販売やオーダー販売を中心にお菓子を届けている。

 


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