【土曜日のミニシアター】第4回:永遠が一瞬のように。自分がいなくなったあとの世界をみつめて

編集スタッフ 松田

映画館へ訪れたり、映画を観たりする時間そのものがかつて好きだったけれど、今は忙しくて観る時間がない。そんな方へお届けする、ミニコーナーです。

つかの間の非日常の世界に身を委ねられる、約120分という時間。そんな感覚を久しぶりに思い出したくて、静岡市にあるミニシアター、静岡シネ・ギャラリーさんを訪ね、「映画から遠ざかっている」方へのおすすめ映画を教えてもらいました。

テーマは、時間の流れのうつくしさ。8月の毎週土曜日に、1作品ずつご紹介しています。

第1回はこちら

ほんのつかの間、ミニシアターへ訪れたような気分になったり、久しぶりに映画を観てみようかなと思えたり。そんな気持ちになっていただけたら嬉しいです。

 

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時の流れがうつくしい映画


「事故で亡くなって、病院に安置された彼が、幽霊として全身に掛けられた白いシーツごと起き上がり、この世界に1人きり遺してしまった妻のいる我が家に戻ってみる。そんな風にしてはじまる映画を紹介します。

事前に公開されていた劇中場面は、主人公らしき “幽霊” が白いシーツをかぶっただけの安っぽい姿で、ポツンとたたずんでいるもの。

ホラーなのかコメディなのかもよく分からないし、観たらきっと戸惑うだろうなと覚悟していました」

©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

「ですが実際には、観ていて不思議と戸惑いませんでした。

愛する妻に別れも告げられないまま不慮の事故で死んでしまい、病院で白いシーツをかけられ安置された後に、誰もいなくなってからそっと(シーツを取り払うこともせずにそっと)起き上がって、家に、ほんとうに一人ぼっちになってしまった妻のいる家に、戻ってみる。もう話しかけることもできないし、何もしてやれないけれど、ただじっと傍にいる。

そんな姿をみて、シーツでまったく顔の見えない彼が抱いている気持ちが分かったし、その恰好をおかしなものだとも思わなかった。まるで自分ももう死んでいて、彼と同じく生きている者たちの時間の流れから切りはなされてしまったかのように思えてきて」

©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

「死者には生者とは違った時間が流れます。一日と一週間と一か月に大きな違いなんてない。それはつまり、深い深い喪失感を抱く妻と、深い深い無力感を抱える自分に、違う時間が流れているということ。

彼女はそれでも生きるために前を向いて人生の次の一歩を踏み出そうとする。でも自分はここで永遠に変わらない。誰のせいでもなく、2人の時間が重ねたトレーシングペーパーのように少しずつずれていく」

©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

「この映画ではほとんどセリフがなく、シーツをかぶっている俳優の表情もわからない、というなかなかチャレンジな作品づくりをしています。

でも、あぁそっかそっか、なるほどそうだよなぁ、と不思議と幽霊の気持ちに共感してしまう。表情がみえなくてもシーツ越しに、主人公の感情がひしひしと伝わってくる。監督と役者の実力があってこそなのだと思います。

観る側が感じたり考えたりする余白があって、まるで一年が一日のように、一日が百年のように、永遠が一瞬のようにも感じられる、そんな作品です」


『A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー』
製作:2017年
監督:デビッド・ロウリー
主演:ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ
Blu-ray&DVD 好評発売中
5,280円(税込)
発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング   
©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

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エンドロールが流れて、劇場がだんだんと明るくなっていく。観て感じたことや考えたことを言葉にして誰かに共有したいような、心のうちだけに留めておきたいような。まっすぐ帰りたくないなぁと思いながら、自分の世界にゆっくりと戻っていく。その感覚こそが、映画の醍醐味のような気がします。

さまざまなことを一旦忘れて、つかの間の非日常の世界を味わえる、約120分という時間。今夜はどんな世界に、身をゆだねてみますか?

 

【写真】市原慶子


もくじ

 

サールナートホール 静岡シネ・ギャラリー

静岡県・静岡駅から徒歩5分の場所にある、2スクリーン・105席の映画館。隣接する「宝泰寺」の集会場として1995年に建設されて、現在の映画館の運営は2003年12月からスタート。SNSでの映画紹介文がユニークで「観たくなる!」と人気。http://www.cine-gallery.jp  instagram:@shizuoka.cinegallery X(twitter):@Sarnathhall

 


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