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【土曜日のミニシアター】第1回：“ただそれだけのこと”の繰り返し。変わらない日々は退屈なのだろうか

編集スタッフ　松田

久しぶりに、ミニシアターの世界を味わいませんか？

映画館へ訪れたり、映画を観たりする時間そのものがかつて好きだったけれど、今は忙しくて観る時間がない、そんな方も多いのではないでしょうか。わたしもその一人です。

迫力のある巨大スクリーンや音響を楽しめる大きな映画館の雰囲気もなかなか刺激的ですが、時間を持て余していた学生時代によく足を運んだのが町のミニシアター。

フライヤーが並んでいるラック、スタッフさんの手作りの展示物、小さなチケットカウンター。映画をより身近なものに感じられる、ロビーの独特の空気。それが心地よかったのを記憶しています。

つかの間の非日常の世界に身を委ねられる、約120分という時間。そんな感覚を久しぶりに思い出したくて、あるミニシアターを訪ね、「映画から遠ざかっている」方へのおすすめ映画を4作品教えてもらいました。8月の毎週土曜日に、1作品ずつご紹介します。

訪ねたのは、静岡市にあるミニシアター、サールナートホール静岡シネ・ギャラリーさんです。

上映する作品はすべてスタッフ自らが一本一本選んで紹介していることが多いミニシアター。今回お話を伺った担当者さんも、およそ1日に2本、年間だと数百本の映画を観て、その中からなにを上映するかを決めているのだそうです。

▲「ミニシアター運営の一番の魅力は、毎日、お客さまの反応を肌で感じることができること。上映後にドアを開けて出てくるお客さまの雰囲気を感じとる瞬間がたまらなく好きです」と担当者さん

今回は、久しぶりに映画を観るならば、どうか鑑賞中に良い時間を過ごしていただけるように、という想いから「時間の流れのうつくしさ」が感じられる映画をセレクトしてくださいました。

ほんのつかの間、ミニシアターへ訪れたような気分になったり、久しぶりに映画を観てみようかなと思えたり。そんな気持ちになっていただけたら嬉しいです。

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時の流れがうつくしい映画

「朝起きて奥さんにキスをして、仕事のバス運転で同じルートをまわって、帰宅して、奥さんと時間を過ごして、犬の散歩がてら行きつけのバーで軽く一杯。

それが月曜で、火曜日もおんなじ具合で、水曜日は昨日同然、木曜もそのままで……。変わらない1週間の反復を延々と見せられるのに、その反復がまるで音楽のように詩のように心地良くなる映画をご紹介します。

これはパターソンという名の町に住む、パターソンという名の男性の一週間を綴った、ただそれだけの映画です。

ただそれだけと言ったって、映画なのだからそれなりに毎日いろんなエピソードがあるのでしょうと思うかもしれませんが、パターソンさん、ほんとに昨日と今日にほとんど違いがない一週間を送っちゃいます。つまらなさそうですか？」

「だけど繰り返す日々を観ているうちに、昨日とほとんど違いがない今日の中に時々まじっている “昨日とのほんの小さな違い” が、砂浜のきれいなガラス片か貝殻みたいにキラッと目を引くようになるのです。

それはたとえばバスの客同士の何気ない会話に混じるちょっとした哲学だったり、犬の散歩道にあるいつもは素通りするコインランドリーでその日だけやたら上手なラッパーが個人練習していることだったり。

あるいは月曜日の朝に目を覚ましたら奥さんと向かい合うような体勢で、火曜日は2人でくの字になっていることとか。ほんとうにそれだけのことが、だんだんと宝物みたいに思えてくる」

「時の流れがうつくしい映画というテーマで、パッと最初に頭に浮かんだのがこの作品でした。

この監督の作品は、ある一定のリズムで、同じような場面を繰り返して物語が展開されていくものが多いのですが、この作品からはとりわけ『繰り返すことって、決して悪いことじゃないよね』というメッセージが伝わってきます。

また物語の後半でパターソンの変わらない日々にちょっとしたハプニングが起こるのですが、年間何百本と鑑賞するなかで、その場面は個人的に2017年公開の作品でいちばん印象に残りました。もしまだ観ていないという方がいたらぜひ。何度観てもいい作品だなぁと思います。

いつしかパターソンのことが、彼が奥さんや犬と生きる、“ただそれだけ” の日常のことが、それどころか自分自身が送っているただそれだけの日常のことまでもが、不思議と愛おしく感じられてくる。そんな映画です」

『パターソン』
製作：2016年
監督：ジム・ジャームッシュ
主演：アダム・ドライバー
Blu-ray＆DVD発売中
発売元：バップ
©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

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次回の映画紹介は、8/12(土)更新予定です。おたのしみに。

【写真】市原慶子

静岡県・静岡駅から徒歩5分の場所にある、2スクリーン・105席の映画館。隣接する「宝泰寺」の集会場として1995年に建設されて、現在の映画館の運営は2003年12月からスタート。SNSでの映画紹介文がユニークで「観たくなる！」と人気。http://www.cine-gallery.jp instagram：@shizuoka.cinegallery　X(twitter)：@Sarnathhall

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