【連載|お星さんがたべたい】05:浅い夏のやわらかいもの
なにかをたべるときはいつも「元気をだそう」とおもっています。スーパーマリオブラザーズのマリオはお星さんにぶつかると、からだじゅうを光らすほどの元気をだすけれど、あれの、もっとささやかな感じが、わたしにとってのごはんです。つまり、ごはんは、わたしのお星さんです。とどのつまり、元気のでるごはんにまつわるエッセーを書くことになりました。
小原 晩
私には歩く、以外の趣味もないのだから雨が降っていなければ毎日せっせと歩いている。しかし桜が散ったと思えばもうこの蒸し暑さであるからかなわない。ベンチでひと休みしたりもするから、風にさらされて体が冷えないように、ちょっとしたパーカーなどを着ていることが多いのだけれど、長袖なんかを着ているとこんな蒸し暑さじゃ、体がじめっじめっとしてくるので、つめたいものを食べたくなる。こういうとき何を食べればいいのか答えは決まりきっていて、ズバリ、ソフトクリームである。
私は適当なコンビニエンスストアへ入る。そしてアイスクリームコーナーに陳列されたアイスたちをよくよく見る。最終的にはソフトクリームを選ぶというのはズバリ決まっているのだけれど、今日だけはズバリでない可能性もあるのだから、毎日、毎日、よくよく見るべきであると私は考える。歩くことが目的であるから、ファミリーマートからセブンイレブンからローソンからミニストップまで近所のコンビニエンスストアを一旦すべてまわってから、また公園のベンチに座り、今一度、今日の散歩にふさわしいアイスクリームは何かと頭を悩ませる。十中八九、ソフトクリームである。
夜10時を過ぎていなければ、ミニストップのソフトクリーム(近所のミニストップのソフトクリームは夜10時までしか買えないのだ)。夜10時以降であれば、セブンイレブンのソフトクリームをえらぶ。どちらもバニラ味である。バニラの匂いが好きだからである。
ソフトクリームを片手で持ち、そこらの壁に寄りかかって、恍惚の無表情でかじりつく。太い柱の影から、少年がこちらを不思議そうな顔で見つめている。
「坊や、そんなに怪訝な目をむけて。ひとりきりでソフトクリームをなめる大人がそんなにおかしいかい。坊や、いいかい。覚えておくといい。ひとりでなめるソフトクリームは、この間違いだらけの世の中における、たったひとつの真実なんだ。ああなんてうつくしい真実だろう。君もそう思うだろう」
と、こころの中で話しかけつつ、ソフトクリームをどんどん食べすすめる。少年の表情にはうっすらとした憧れの色がみえる。私は壁にもたれかかるのをやめて、また歩きだす。歩く、以外の趣味もないのだから。
文/小原晩(おばら ばん)
1996年、東京生まれ。2022年、自費出版にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。2023年9月、『これが生活なのかしらん』を大和書房より出版。
湯船につかりながら本を読むことと、夜の散歩が好きです。お酒をたしなみます。
写真/服部恭平(はっとり きょうへい)
1991年、大阪府生まれ。2013年に上京し、モデルとして活躍する傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、2018年から写真家として本格的に始動。フィルム特有のパーソナルな雰囲気を持ち味にファッション写真やポートレートを撮る。
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