【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第十七回:ひと笑い1,000円!
山本 ふみこ
消毒薬を買おうと、ひとり自転車に乗ってドラッグストアに出かけました。
ドラッグストアというところは、大人の駄菓子屋みたいです。ドラッグ(薬)のスペースの何倍もの広さの化粧品、家庭用品、食料品コーナーがあります。
消毒薬を探しあてたあと、うろうろしていると、酒のツマミたちがこちらをじっと見ているではありませんか。どうやら柿の種です。ピーナッツはいっしょではなく、少し大きめの柿の種。近づくと、素焼きお米味、チキン味、チーズ味と種類もあって、おいしそうです。
「どれにしよう。最初はやっぱり、素焼きお米味かな」
手をのばしかけたとき、袋の文言が見えました。
「犬専用おやつ」
あらま、これ、すべて犬さんたちのおやつ……と思ったら、とつぜん笑いがこみ上げてきたのです。わたしったら、ひとしきり笑いました。アハハ、アハハと笑いました。
帰りの自転車の上でもまだ笑い、笑いながら自分が笑いたがっていたことに気がつきました。
そういえばときどき、テレビドラマを観ているようなとき、ふとスイッチが入ったように涙があふれることがあります。泣きながら、ああ気持ちがいい、と思うんです。
笑いたがったって、泣きたがったって、そうそう笑えるものでも泣けるものでもありません。さすがのドラッグストアだって、ひと笑い1,000円、ひと泣き1,000円なんて商品は扱っていないのです。
笑えないのは、泣けないのは、わたしに「ゆるみ」がないせいじゃないでしょうかね。
何もかもひとりでやろうとしたり、いろんなことをおおげさに考え過ぎたり、肯定することを忘れて反射的に異を唱えたり。そんなことをつづけていると、笑いも涙も、「アッシラハ ゴ不要デ ゴザンスネ」とばかりに、わたしの前を素通りしていきます。
ね、笑おう……。
ときには、泣こう……。
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。著書多数。最新刊『むべなるかな』(ふみ虫舎)のお求めは、山本ふみこ公式HPへ。
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/
https://www.fumimushi.com/うんたったラジオ/
写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
https://067.jp
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