【あの人の生き方】前編:夫は転勤族。家族で西へ東へ、なりゆきまかせで書店員になりました
ライター 藤沢あかり
人生にはいいことも、そうじゃないこともあるから
「この本、もう読みました?」
そう誘われるままに手に取った、一冊の本があります。
開いて数ページでぶはっと吹き出し、うんうんわかると頷いて、にやにや笑いが込み上げたと思ったら、じーんと涙。感情があっちにこっちに転がりながら、あっという間に読み終えました。
本屋さんでのお客さんとのやりとりやエピソードに、おすすめの本の紹介を添えたエッセイ集『書店員は見た!本屋さんで起こる小さなドラマ』。著者は森田めぐみさん。現役の書店員です。
▲『書店員は見た!本屋さんで起こる小さなドラマ』森田めぐみ著(大和書房)
書名の勘違いに始まり、果ては人生相談までが繰り広げられる様子は、まさに「小さなドラマ」。そのすべてに横たわっているのは、森田さんの人情味あふれるキャラクターがもたらす、あたたかなやりとりです。
書店員という仕事のおもしろさもさることながら、森田さんご自身の明るく楽しそうな生き方にも、ぐんと興味がわきました。どうして彼女のまわりには、ユニークなドラマがたくさん起きるんだろう? いったい、どんな人なんだろう?
いいことも、そうじゃないこともある人生。明るく楽しく、自分らしく生きていくヒントが知りたくて、わたしたちは森田さんを訪ねました。前後編でお届けします。
本屋さんで働きたいなんて、考えたこともなかったのに
中学生の娘と大学生の息子、そして「転勤と出張だらけ」という夫が、森田さんの家族です。さらに、家の前に捨てられていた(!)ゴールデンレトリバーと、引き取ったり拾ったりした4匹の猫たちも。
東京郊外の古い一軒家で、棚を作ったり色を塗ったり、ときには壁を抜いたりしながら、自分らしいインテリアに囲まれ暮らしています。
森田さん:
「つい数日前も、急に思い立ってキッチンの吊り戸棚のドアを外してみたんです。突然スイッチが入っちゃうんですよね。決めたらすぐやらないと、気持ちがしぼんじゃうこと、ないですか?」
そういえば、書店員になったときも、募集の貼り紙を見つけたその日のうちに履歴書を送ったのだと、本のまえがきに書いてありましたっけ。そんな話を向けると、「でも、本屋さんで働くなんて、いちども考えたことなかったんですけどね」と、森田さん。
丸いメガネのニコニコ顔で、『書店員の森田さん』が生まれたいきさつを話し始めてくれました。
西へ東へ、転勤族の人生を変えた友人との出会い
森田さん:
「夫は転勤族で、あちこち転々としてきました。地元の茨城から神奈川、福岡、また茨城に戻って次は石川……。
福岡に行ったのは、下の娘が1歳のときです。仕事を辞めていたし、まだ幼稚園に行く年齢でもない。上の息子はもう小学生で、送迎がいらないから親の出番もなし。新しい土地で、地域や社会と関わる機会がなかったんですよね」
そこは福岡のなかでものんびりした地域……というと聞こえはいいですが、つまりは「なんにもない」ところ。当時は今のようにSNSもなく、日中は赤ちゃんとふたりきり。家族以外と話すこともほとんどありませんでした。
そんな森田さんは、とあるブログを見つけました。それは移動販売の雑貨屋さん。近くに来ることを知り、さっそく出かけてみることにしました。
▲キッチンの主役ともいえる家具は、タバコ屋さんで使われていたという古いショーケース。新婚時代に購入し、転勤を共にしてきたお気に入りです。
森田さん:
「同世代の女性が、かわいいインテリア雑貨や手作りの紙もの雑貨を売っていました。作家活動をしながらワゴン車であちこち回っていると言うんです。その店主の女性とのおしゃべりもすごく楽しかったんですよね」
ああ、ひさしぶりに人とおしゃべりしたなあという充実感を胸に、帰宅後いつものように洗濯物を取り込んでいると、道の向こうを見覚えのある人が歩いています。見るとそれは、さきほどの雑貨屋の女性でした。
森田さん:
「実はすぐ隣に住むご近所さんだったんです。彼女にも同じ1歳の子どもがいるとわかり、一気に仲良くなりました。
子育ての合間に雑貨を作り始めたこと、この町には『なんにもない』からこそ、自分で雑貨屋を開こうと思ったこと。いつかおしゃれなお店を集めたマルシェを開くのが夢だということ。彼女が語る夢を聞くうちに、小さい子を抱えていても、こんなふうにできるんだとたくさん希望をもらいました」
よし、わたしも何かやってみよう。彼女のバイタリティに触れ、森田さんは同じようにブログを始めてみることにしました。ちょうど、さまざまなジャンルでブログがにぎわいだしていた頃です。
知らない土地で、家族以外と話す機会もなかった毎日に、小さな風が吹き始めました。好きな雑貨のこと、インテリアのこと、子どもとの暮らしのこと。書きたいことは、次々に出てきます。
その後、福岡での暮らしは9ヶ月で終わりを迎え、また茨城に戻ることとなった森田さん一家。古い家をDIYで直したり、古道具を組み合わせてインテリアを少しずつ整えたり。その様子をブログに綴るうちに、雑誌にもたびたび取り上げられるようになりました。
「は〜、つまんないなあ」とため息の日々
さらに森田家の移動は続きます。茨城から、次は石川へ引っ越すことになりました。赤ちゃんだった娘さんも、小学1年生です。
森田さん:
「住まい探しの条件は、小学校と図書館の近く。小学生になると一気に手が離れるし、茨城で就いていた仕事も辞めていましたから時間はたっぷりあります。新しい土地では、図書館に通い詰める日々でした。
『あ行』から順に、赤川次郎、浅田次郎……って、気になる本を片っ端から読んでいくんです。でも新刊も読みたいから、車で5、6分のところにある町でいちばん大きな本屋さんにもよく出かけました」
小さいころから本が好きで、通学・通勤電車も、お風呂の中も本がおとも。そんな森田さんにとっては、夢の読書三昧の生活。のはずが、それもあっという間に飽きてしまいました。
▲文庫を並べた手作りの飾り棚。「引っ越しでいちばん大変なのは本。何度も読み返すエッセイや思い入れのあるものだけを残し、基本的に読んだら手放します」
そろそろ働こうかなあと思いながらいつもの本屋に出かけ、併設のカフェに腰を下ろしたときです。目に入ったのは、スタッフ募集の張り紙でした。コーヒーは大好きだし、接客業なら楽しそう。
渡りに船とばかりに、その足で履歴書を購入し数日後、店のカウンターには、めでたくスタッフとして立つ森田さんの姿がありました。
ただしカフェではなく、書店員のエプロンをつけて。
森田さん:
「その書店には、定期購読や注文を受け付けるサービスカウンターがあったんです。ちょうどその担当者が辞めるタイミングだったようで、企業の受付や営業事務などが並ぶ履歴書を見て、カフェより本屋にと思ってもらえたようです。
カフェの面接なのに、『本は好きか』『最近読んだ本は』なんて、変な質問だなあと思っていたんですけれど……(笑)」
乗りかかった船はカフェではなく書店行き。思わぬ方へ漕ぎ出したわけですが、本は好きだし、なんだかおもしろそう。まあ、やってみるか! そう思ったと言いますから、ここにもまた、森田さんらしさがにじみます。
かくして始まった、書店員として働く日々。予定調和にならない船旅を楽しむような、森田さんの「なりゆき人生」の続きは、どうぞ後編で。
【写真】木村文平
もくじ
森田めぐみ
書店員。茨城県生まれ。転勤族の夫とともに引越しをくり返している。現在は東京郊外の古い一軒家で、夫、大学生の息子、中学生の娘、犬1匹、猫4匹と暮らす。著書に『書店員は見た!本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)
Instagram:@marguerite289
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