【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第十九回: ロビンソン・クルーソー
山本 ふみこ
「あなたは、『そこ』が恥ずかしいのですね」
「わたしには『ここ』が恥ずかしくてたまらないのです」
こう云いたくなる事態が、ときどき起こります。
ひと同士の「恥」の痛点のちがい、とでも云ったらいいでしょうか。
それを初めて学んだのは、高校時代『ロビンソン・クルーソー』(ダニエル・デフォー)を読んだときでした。
小学生のころ、わたしは一度『ロビンソン・クルーソー』を読んでいます。28年2か月19日にも及ぶ無人島でのサバイバル小説として読んだのです。
難破した船から、食糧、大工道具を運びだし、小屋をつくり家具をつくり、獣の毛皮から衣類を仕立て、穀物を育ててパンを焼いたり、野生のヤギを飼いならしてバタやチーズをつくり……、暮らしを整えてゆく記録は、わたしのこころをつかみました。
ところがところが、高校生になって読み返したとき、わたしのこころをつかんだのは、そこじゃなかったのです。
息子に法律の勉強をさせ、安定した人生をねがった両親に背いて、生まれ育ったイギリスの実家から家出した19歳のロビンソン・クルーソーは初めての航海に出ます。そして遭難、やっとのことで命拾いしたのです。
─── このまま家に帰るなんて、恥ずかしいことは自分にはできない。
このときのロビンソン・クルーソーの「恥」の痛点にこころをつかまれ、どこか共感せずにいられないわたし自身に、わたしはさらに驚かされたのでした。
このあと懲りずに彼は二度アフリカに向けて船に乗り、二度目には海賊に襲われてモロッコで2年間奴隷として働くこととなります。27歳になった彼は、またしても航海に出て難破、28年間の無人島生活をすることになります。
いったい、ひとのなかに生じる恥じる気持ちって!
この読書のあと、どのくらいわたしは、自らの「恥」の痛点、他者の「恥」の痛点に驚いたり、それぞれの痛点のちがいを目の当たりにしたことか。
いえ、最近は、だからこそひとはおもしろい、と思うようになっています。
恥ずかしくても、恥ずかしくなくても、やりたいことをやっちまおう! とこころを決めることもふえたような。
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。著書多数。最新刊『むべなるかな』(ふみ虫舎)のお求めは、山本ふみこ公式HPへ。
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写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
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