【はたらきかたシリーズ】古道具店「LET ‘EM IN」店主・原尊之さん 第1話:気持ちを“言葉で彩る習慣”を持つ。
編集スタッフ 長谷川
聞き手・文 スタッフ長谷川、写真 廣田達也
「古道具店の良いところは、選んだものをいつまでもお店に置いておける“わがままさ”ですね。開店して7年半経って、やっと売れたものだってありますよ」
そう笑って話すのは、東京・国立にある古道具店「LET ‘EM IN(レットエムイン)」の店主、原尊之(はらたかゆき)さんです。
取り扱う古道具のテーマは「世界のモダンデザインと民芸」。
店内を見回せば、北欧の照明や食器、愛くるしいサイズの人形、懐かしさを覚えるガラス引き戸の棚、曲げ木のラインに見惚れる作者不詳のチェア……あらゆる国の、あらゆる道具たちが、人々との出会いを待っています。
「懐かしいものを扱っているという気持ちはないんです。僕にとって新鮮だと思える物は、未来のものかもしれないし、過去のものかもしれない。物は古くてもいいけれど、自分が “わぁっ!” と感じる気持ちだけは、いつもフレッシュに」
人を惹きつける、その理由を聞いてみたい。
当店を以前よりご覧いただいているお客さまは、この店名に見覚えがあるかもしれません。一緒に蚤の市を開いたり、合同忘年会をやったり、最近では新しいスタジオのレイアウトをご相談したり。LET ‘EM INと「北欧、暮らしの道具店」はオープンの時期が近かったこともあり、以前より親しくさせてもらっています。
当店スタッフにもファンが多く「うちで使っている棚はLET ‘EM INさんだよ」「行くとつい買っちゃうんだよね〜」など、原さんセレクトの道具たちをお迎えしているようです。(僕も一目惚れしてケトルを買ったばかり。)
わくわくする、どこか不思議なお店なんです。モダンデザインを言い表すなら、20世紀に花開いた「機能的で合理的、大量生産もできる、けれど美しい」デザイン。それらを特長に持つ道具たちで囲まれているはずなのに、ひとたび店内に入ると、そして訪れるほどに、「LET ‘EM INらしさ、原さんらしさ」を感じる。
原さん、どうすれば「らしさ」を持てるのですか。
「僕は“消極的な選択”が大事だと思いますよ」と原さんは答えてくれました。話を深めるにつれ、原さんが物を選ぶ目の磨き方は古道具だけでなく、あらゆる仕事にも通ずるとも感じます。
今日より3話の連載で、LET ‘EM IN店主、原尊之さんの働き方を伺います。
「なぜグッとくるのか」を整理したら、道がひらけた。
原さんは現在46歳。高校卒業後は「自分がしたいと思える勉強を」と専門学校に入学。「手に職ではないけれど、何者かになりたい願望が強かった」と言います。
雑誌のインテリア特集を見るのが好きだったことをきっかけに、進んだのはインテリアコーディネーター科。まだ自分のお店を持つことは考えておらず、インテリアや建築のデザイナーになることを漠然と考えていたそう。
専門学校を卒業し、原さん曰く「いろいろやっていた」時代へ。スノーボードに夢中になったり、飲食店で調理補助のアルバイトをしたり……やってきたことを振り返って「一番しっくりくる」と、建築やインテリアの仕事をあらためて志します。
工務店で3年働いた後、表参道にあるインテリアショップの求人と出会い、転職をします。27歳のときです。
「雑誌でインテリアを見てグッとくることが、自分にとってどういう意味があるのかを整理してみたんです。そうしたら、物そのものが好きで、それが並んでいる様が好きだと気付きました。物を直接お客さんに販売する、その環境が一番良いと感じました」
時は1997年頃。日本ではリサイクル市場がそれほど盛り上がっていない中、そのショップはデザイナーズやブランド家具をメインに販売していました。
なんとなくで終わらせず、自分の感情を言葉にする。
そのインテリアショップでは自分の好き嫌いにかかわらず、目の前にある物の良いところを探し、ひたすら考える日々だったそう。
お客さまに物を説明するときに、形や素材、価格の手頃さ、使い勝手など、魅力に映ることを伝えようとしたのです。それは毎月の売上目標を達成しなければならないシビアな状況から生まれた思考でした。
原尊之さん:
「自分が物を見て、何を感じ取るかの訓練になりましたね。自分が良いと思える家具の範囲が広がったのは、この時の体験もベースにあります。自分の見ていた視野がいかに狭かったかを感じました。
いまも感覚が錆びないように、いいなと思えるものの範囲を、少しずつでも広げていける鍛錬は続けています。
僕は自分の感情を言葉にしてみる、言語化することがすごい好きで、そうしてきたことが良かったなと思うこともあります。何かを目にして、格好いい、格好わるいと感じたときに、『なんで自分はそう思ったんだろう?』と言語化することで、自分の思考がすごく整理されていく。
もしかしたら、良くないと思ったのはただの嫉妬心やエゴだったり、ちゃんと見ていなかっただけだったり……逆に『気持ちが良いのは、細かいところにまで人の気持ちが行き届いているからだ』とか。
読んで得た情報ではなくて、体感から感情をしっかり言語化して、自分の中で落としどころを見つける作業ですね。それはお店を運営する上でも役に立っていることかな」
「割と僕はめんどくさい人間なので、考えることが楽しくて好きなんですよ」と笑う原さん。でも、話を聞きながら僕は、感情の言語化は自分自身を“言葉で彩るための習慣”になるかもしれないと、ハッとしました。
「なんとなくで終わらせちゃダメだとは、働いているスタッフにも言うことですし、大事な部分ですね」
感性の磨き方として、まずはひとつ心に留めたいエピソードです。
自分のお店という“ステージ”へ。
原さんに転機が来たのは、インテリアショップに入社して1年後。前店長が辞め、原さんが新店長を務めることに。「原はトラックを運転できるかと社長に聞かれ、工務店時代によくやっていたからできますと返したら、『じゃあ、やるか』という感じで」。
店舗運営、仕入、在庫の管理など一通りを経験します。しかし、知識や経験も身についた実感を得るにつれ、職場でのもやもやが募っていきました。原さんも「最後まで改善しようとあがいた」といいますが、結果的には独立の道を選びとります。
原尊之さん:
「いちばん憧れていた職業はミュージシャンだったんです。僕はギターをずっとやっていて、インテリアショップで働いていた時もバンドに加入しました。CDを作ったり、北海道までライブをしに行ったりとか。自分には音楽の才能がないと思って諦めちゃうのですけど、でも本当にやりたかったのはそういうことで。
僕は観客よりもステージ側に立ちたいという願望や、プロとして何かをやっている人たちに強烈な憧れがありました。ステージを見にくる人がいて、喜んでいるという光景を良いなと思っていた。自分の店をやるって、ステージに立つみたいなことですから」
高校を卒業する時から抱いていた「何者かになりたい」という願望は、自分のお店を持つ目標で叶いつつありました。
まず、原さんは買い付けた家具を自宅に置き、ネットオークションで売りながら、「お店の商品構成やレイアウトのシミュレーションを繰り返した」と言います。4年にわたる開店準備を経て、インテリアショップで得た体験もさらに生き始めます。
第2話ではその経験にも関わり、原さんがいつも大事にする“消極的な選択”をはじめ、日々の生活や仕事に生きる「物の見方と考え方」にフォーカスを当てていきます。
(つづく)
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