【自分へのご褒美】第4話:作家・エッセイスト 大平一枝さん編 – 年を重ねたからこそわかる、自分を補強してくれる香り。
編集スタッフ 田中
自分へのご褒美、最後のエピソードは作家・エッセイストの大平一枝さんから届きました。
今自分へ送りたいご褒美、四つのエピソードの締めくくりは、香水について。大平さんが年齢を重ねていって、いまたどり着いた香りがあるようです。その道のり、考え方はハッとする言葉に満ちていました。
「年を重ねたからこそわかる、自分らしさを補強してくれる香り」
作家・エッセイスト 大平一枝
▲携帯にも便利なロールオントワレ ドソン(ディプティック) photo/大平一枝
見えないおしゃれのマジック
ブルガリのオムだとその人は言った。男性で、こんなふうにさりげなく爽やかな香りをまとっている人に出会ったことがなかったので印象に残った。社会人になってから留学したアメリカで、香水を身につける習慣がついたらしい。
私も20代のほんのいっとき、香りをつけていたことがある。しかし、ブランドや情報にふりまわされて選んだそれは私には似合わず、どこか無理している自分に違和感があり、習慣化しないまま次第に香りの世界から遠ざかっていった。
また、30代の頃、香りのおしゃれを楽しんでいる女性に出会った。いつもカルバン・クラインをつけていたが、ある日「この香りが廃番になっちゃうの」と残念そうな顔に。だから見つけたらとりあえず買ってストックしているのだと言う。そこまで好きな香りにこだわる彼女がひどく大人に見えた。
いわれてみれば、華やかで気品があってどこかセクシー。人前に出る仕事をする彼女らしい香りである。香水とは、自分らしさを表現するじつに雄弁なアイテムなのだと知った。
ありのままの自分を受け入れる
その後、私は、なにかの折りに気に入って買ったフローラルムスク系のオードトワレを使うようになった。ところが最近、少し自分には甘すぎ、軽すぎるように感じ始めた。飽きずに使ってきたのに不思議なものである。
そんなときに前述のブルガリの男性に会い、香りの存在感についてあらためて気づかされたのである。おそらくあの香りは20代くらいの若い人には似合わない。爽やかななかに毅然とした強さがある。迷いなく自分の思う道を自信を持って突き進む、年齢を重ねた人だからこそ似合う香りだ。つられるようにして私も、女性らしい甘さとともに、もう少し成熟した個性的な強さが欲しくなった。
先日、パリを旅行した。フレグランスブランドのディプティックで、虜になる香りに出会った。「ドソン」という名のジャスミン系のトワレだ。官能的な中に、オレンジやテュベローズの甘さが混じる。少し前の私なら、ためらっていたかもしれない大人の佇まいがある。
いいんじゃない?と同行の女友達がつぶやいた。ちょっときつくないかと聞き返すと、「合ってるよ、買いなよ」。
かつては選んだ香りに似合う人になろうと背伸びしたが、今は自分らしさを補強してくれるようなものに惹かれる。思えば、洋服も靴もメイクもそういうものかもしれない。ある年齢まで、背伸びは大切だと思っているが、そればかりだとモノの力にまきこまれる。大きく見せようとする自分にもいつか疲れる。
等身大で、より自分らしい個性を引き立ててくれるようなおしゃれがしたい。もう、がんばりすぎなくていい。私はいまの私のまま少しずつブラッシュアップしていけばいい。
それほど高いものではないが、自分で自分の背中を押すような気持ちでドソンのトワレを買った。
年を重ねていくのも悪くないな。ドソンを肌につけるとき、そう素直に思ったパリの街角を時々思い出す。これはきっとありのままの私を受け入れた自分への、小さなご褒美のようなものかもしれない。
香水/ドソン(ディプティック) …テュベルーズ、オレンジの葉、ローズベリー、ムスク、ジャスミン、オレンジの花がミックス された香り。
ここまで、4つのご褒美エピソードをお届けしました。雑貨、靴、家具、香水、、と種類はさまざまでしたが、どれも登場人物の思いを表す鏡となっていたように思います。
今年一年がんばったご褒美、ぜひ自分へ贈ってみませんか。 欲しいものを手にとってみる。購入したあとに、こんなふうに思いがつまっていたと気づかされるのかもしれません。きっとそれもまたいい思い出になるはずです。
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