【いまに続く、あの日の一歩】辻恵子さん 後編:出会いは偶然。でも「なにを選ぶか」は自分だけが決めること

ライター 鈴木雅矩

_99A6580写真:鈴木智哉

今は活躍している人にも、その道を進み始めた “はじめて” の時期があります。新連載「いまに続く、あの日の一歩」では、戸惑い、迷っていた「はじめて」の時期から現在に至るまでのお話を伺っています。

前編に引き続き、ご登場いただくのは、切り絵作家・イラストレーターの辻恵子さん。多数の絵本や広告のイラストを手がけ、2016年にはNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のオープニング映像のイラストを担当されています。

幼少から創作に親しみ、ご自身の初めての個展を機に、現在のお仕事を始めてから18年の間、辻さんは作家の道を歩んできました。

なにかを続けることは、それをはじめることと同じか、それ以上に難しいもの。辻さんが18年間ずっと、作家であることを選び続けてきた背景には、どのような思いや悩みがあったのでしょうか?

 

時には足を止める必要がある。

_99A6517▲辻さんの作品のひとつ。紙に印字された文字を生かして人を切り出しています。

辻さんが開催した個展は、2015年の時点で約40回。個展を何度も開催する中で、書籍の装丁の仕事や、雑誌のイラストの仕事を依頼されてきたそうです。

「個展は、自分の作品を一番いい状態でお見せできる”空間づくり”でもあるんです。プレゼンテーションのような側面もあり、展覧会を見てくださった方から、お仕事の依頼をいただくこともあります」と辻さんは話してくれました。

時には展覧会が続き、会期が終わったら次の展覧会が始まり、その展覧会が終わるとまた次の……、と展示が続くこともあったそうです。

辻さん:
「そんな風に立て続けに展示や創作が続く時は、小休止したくなることもあるんです。

作ることは好きですし、『展示してくれませんか?』と、お声がかかると嬉しくて、なるべくお話を受けようと思うんですけど、創作する時は自分を搾りきってしまうような感覚があります。だから、時には、休みも必要なんです」

 

自分が枯れてしまわないように水を与える

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そんな時に、辻さんは意識して、何かを取り入れるようにしているそうです。

作品を作った後は、散歩に出たり、人と話したり、お店に出かけたりして、自分が枯渇しないように、何かを注いであげる。そうすると、また仕事に戻ることができるそうです。

辻さん:
「むかし、展覧会の後に展覧会……、と絵の仕事が続いた頃に、とある編集者さんから文筆の仕事をいただくことがありました。

仕事として文章を書くことは初めてで、『できるかしら?』と思って始めたのですが、普段とは違う創作をしていると、違った視点で物事を捉えている感覚が持てました。

絵を描く時に言葉は必要ありません。でも、言葉のない世界に没頭した後で、言葉に興味を持ち、別の世界と行き来することで、高まるものもあったように思います」

ただ単に遊んだり、休んだりするだけでなく、別の何かを始めることが刺激になり、次に進む力になることもあるのでしょう。

とはいえ私たちは、何かを始め、次に進む過程の中で、時に「これでいいのか?」と思い悩むこともあります。辻さんは、それをどのように乗り越えてきたのでしょうか。

 

悩んだときは、まず手を動かす

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辻さん:
「ないものねだりなのかもしれないですけれど、会社に勤める働き方に憧れてしまうこともあるんです」

絵が描ける人も、それが仕事になる人も限られています。多くの人が、辻さんは恵まれていると思うかもしれません。しかし、そんな人にも、自分に足りないものを感じ、求めてしまう時があるようです。

「でも……」と辻さんは続けます。

辻さん:
「自分で全部受け入れようとすると無理ですよね。なんでもかんでも重視しちゃってたら、なにも終わらないじゃないですか。そんな時はあまり考えすぎず、手や体を動かすようにしています」

私は、この言葉を聞いて、全てを引き受けようとするのは無理だから、私は創作を選ぶんだ。とお話されているように聞こえました。

辻さんが、18年間創作を続けてこられた理由はとてもシンプルで、創作が好きだったこと、そして、その気持ちに正直であり続けたからではないでしょうか。

事実、辻さんは心が惹かれるお誘いがあると、自らその中に飛び込むことができるとお話していました。

 

出会いは偶然、でも選び取る意思は自分だけのもの

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辻さん:
「素直に、話し合ったり、見たり、聞いたり、感じたり。これは好きだ、これは嫌いだと自分で選んでいると、きっと、自分とフィットするようなものに出会えるような気がしています」

出会いは偶然で、その出会いからいくつもの ”はじめて” が生まれます。時には予期していなかったことも起こるでしょうし、その中で葛藤することもあるでしょう。

辻さんは、「自分で全部受け入れようとすると無理ですよね。(中略)そんな時はあまり考えすぎず、手や体を動かすようにしています」とお話してくれました。

私たちには、できることも、できないこともあります。でも「何をはじめるか」は、ほかの誰かではなく、きっと自分で選ぶことができる。辻さんがはじめての展覧会を開いたときのように、直感に沿って飛び込んでしまえば、道は開けるのかもしれません。

※取材協力:Cafe NOMAD(カフェ・ノマド) – 東京・根津

(おわり)

 


もくじ

 

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切り絵作家 辻恵子

切り絵作家・イラストレーター。文化学院文学科卒業。チラシや新聞紙など身のまわりにある紙を素材に切り絵作品を制作。日本各地での個展や、絵本の制作など幅広く活躍する。2016年にはNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のオープニング映像のイラストを手がける。

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ライター 鈴木雅矩

1986年生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車日本一周やユーラシア大陸輪行旅行に出かける。帰国後はライター・編集者として活動中。自転車屋、BBQインストラクターの経歴があり、興味を持ったものには何でも首をつっこむ性分。おいしい料理とビールをこよなく愛す。


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