【気が張るときに】後編:もっと適当に自分本位に。みんな「個人主義」がいい。五味太郎さんインタビュー

【気が張るときに】後編:もっと適当に自分本位に。みんな「個人主義」がいい。五味太郎さんインタビュー

編集スタッフ 壽山

▲『きんぎょが にげた』(福音館書店)。「こころよく絵本を描いてゆく、自然に展開していく、そんな作り方ができるようになったんだね」(『五味太郎絵本クロニクル』p .12より)

新年度がはじまり、いつもよりやや緊張しながら過ごした4月。何かしらの変化にソワソワしながら過ごした方もいるでしょうか。小さな無理を重ねやすいときですが、そんなときこそ手に取りたくなるのが、絵本作家の 五味太郎 ( ごみたろう ) さんの絵本やエッセイです。

今回のインタビューでは、真面目にがんばりがちな今の時期に届けたい、五味太郎さんの言葉をご紹介しています。前編では、生まれたまんまの質で生きることについて、五味さんなりの哲学をお話いただきました。つづく後編では、五味さんが思う、これからの生き方について詳しく伺います。

前編をよむ

そもそも「適当」が合う日本の風土

五味さん:
「たとえば有名な小説の一節にトンネルを抜けるとそこは雪国だった、なんてのがあるけれど、あれもトンネルを抜けたのが汽車なのか主人公なのか心情なのか、わからないけれど小説は成り立っているよね。

日本語って曖昧だとよく海外の人に言われるけれど、欧米のいつ、どこで、誰が、どうしたと、構文がはっきりした言語と違うだけ。構文が曖昧なだけであって、主語を使わなくても会話は成り立つし、読む人が百様で読んじゃうところが面白さなのかなと。それが日本の風土にも合っているんだと思う。

僕の絵本も、日本の風土でしか描けないものにしたいと思っているから、それが海外でどう受け止められるのか、反応を見るのがすごく面白いよ

▲海外の編集者からはじめて直接オファーがあった絵本『みんなうんち』(福音館書店)。海外からの反響が多く、現在は18言語で翻訳出版されている。「こういうテーマも表現できる、絵本っていいね。ますますのめり込んでいったなぁ」(『五味太郎絵本クロニクル』p .13より)

五味さん:
「落語や歌舞伎、文楽を見ても、江戸の頃はもっと適当だったよなと思うわけ。当時の銭湯を舞台にした『浮世風呂』という本があるんだけど、昼間の3時とか4時に、おばちゃんたちが風呂に入りながら『あの歌はさ〜』って世間話をしてるのね。僕も近代人だから『ご飯どうすんのよ?』とか思うんだけど、その適当さがいいんだよね。

日本は湿度が高いから、江戸時代はしょっちゅう水浴びをしていて、だから服も浴衣に適当に帯を締めているくらい。ところがヨーロッパでは風呂にあまり入らないし体臭をカバーするために香水が発展したとか、それぞれの風土で生まれた文化があるじゃないですか」

五味さん:
「ただ明治以降の近代化で、たとえば初等教育の元になったのはフランスやアメリカの制度だし、いまの美術教育のルーツはルネサンスだし、ぜんぜん違う風土のものを取り入れてきた背景があるよね。

たとえば『聖書』を読むと、神が人間に対して問いを立てて、人間がどうある “べき” かを考える構成になっているなと。その視点で読むと面白いんだけどね。いま『家族はこうあるべき』とか、『結婚はこうあるべき』とか、本来なら個人で解決することを社会全体で考えるような雰囲気もあるよね。西洋のいろいろな国の考えをいいとこ取りしたらよかったんだろうけど、そうじゃない部分もあると僕は思います」


「すべての出来事はもう自然現象なんだ」

▲「なにしろ象が好き。たくさん絵本に描いたけれど、これが最初だな。やはり憧れの存在なんだろうね。科学の本という意識もあったかな」(『五味太郎 絵本クロニクル 』p.8より)

五味さんの作品にときおり登場する「象」。はじめて見たときから、どこか特別な存在だったそう。

五味さん:
「50代の終わりにアフリカに行ったんです。象を描いている者としては、一度は本物を見ておきたいと。1ヶ月ほど滞在したけれど、サバンナでの移動手段はサファリカーだけ。象の大群が来たら、彼らが通り過ぎるまでじっと待つしかないわけ。エンジンを切るのも危ないし、車を降りるなんてもってのほか。象だけじゃなくて、何か動物が近づいてくるたびに停まらなくちゃいけないし。世界は動物中心なんだと毎日感じながら、非常に不自由な暮らしをするなかで、ちょっと悟っちゃったんだよね。

すべての出来事はもう自然現象なんだなと」

五味さん:
「つまりは季節が巡るのも、税金の申告漏れがありますよって知らせがくるのも、スピード違反で捕まるのも、身の回りで起こることはすべて、自分中心に考えたら自然現象だと思ったんだよね。

だから考えてもしょうがないし、速やかに対応しなくちゃいけない。それまで人のやることに腹を立てることもあったんだけど、今は嫌な人が現れても、あまり腹が立たなくなりました(笑)」


個人主義になれば、他人のこともわかってくる

いま80歳の五味さんは、もっとみんなが個人主義になればいいと感じているのだとか。

五味さん:
「もっと自分のことを考えて、もっとわがままになったらいいと思う。自分のことばかり考えることも、わがままになることも、小さい頃に否定されがちだけれど、あれ間違ってると思うんだ。あまり我慢しすぎると体を壊すかもしれない。もっと個人主義になって自分にちゃんと責任を持てば、やがて他人のこともわかってくると思うよ」

でも皆が個人主義になったら、ぶつかることがすごく増えそうな気がします。

五味さん:
「ぶつかったときにはディベートすればいいし、あるいはケンカするでもいいし、そうやって整理すればいいよね。

台風が来ると大変なことになっちゃうんだけど、じつは台風って、強力な風で海水をかき混ぜて浄化してる役割もある。つまり地球のおそうじ時間なんだよ。だから収まるまで、じっと待っていればいいし、そのうち晴れるわけだから、それに任せるしかないよね。

ただ個人主義と自由は違うよね。人は立ってるだけでも引力に抗っているわけだし、天気や気温の変化にも抗って生きているし、だから社会に抗って生きるのも当たり前のことだと思うんだ。その抗い方が、個性なんだよね。だからもっと抗おうよ、とも思います」

▲復刻されたばかりのエッセイ『そういうことなんだ』(小学館)。考えすぎて疲れたとき、立ち止まって内省したいときに

お話を伺ったあと、生まれたまんまの質を、あまり変えずに楽しく生きていくにはどうすればいいのか。その目線でいろんなことを見直してみたくなりました。

私が五味さんの絵本を改めて読み直す機会になったのが『五味太郎絵本クロニクル 1973-2025完全版』という本との出合い。52年間におよぶ作家生活のなかで生まれた全著作について、ご本人の解説も交えながら紐解いた大図鑑のような一冊です。

インタビュー中に話題にあがった絵本について、こちらの本から、五味さんのコメントの一部を抜粋してご紹介させていただきました。五味さんの言葉に触れると、すーっと心が軽くなります。緊張が続いているときや、なんだか身動きが取りづらく感じるときなどにぜひ。ページをめくるだけでも楽しい気持ちになるので、機会があればご覧になってみてください。

『五味太郎 絵本クロニクル 1973-2025完全版』
(アノニマ・スタジオ)はこちら

photo:鍵岡龍門

五味太郎

1945年生まれ。工業デザインの世界から、絵本を中心とした創作活動に入る。400冊近い著作(共著含む)を発表。海外30カ国以上で翻訳出版されている。2025年に絵本作家デビュー以来50数年間で描いたすべての著作を並べる展覧会『五味太郎 絵本出版年代記展 「ON THE TABLE」』を開催。同時に全著作について自身の解説も交えた『五味太郎 絵本クロニクル 1973-2025完全版』(アノニマ・スタジオ)を刊行。現在は千葉県佐倉市立美術館にて『五味太郎絵本クロニクル展』と題して巡回中(2026年7月5日まで)

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