
きょうは、どの器で食べようか? 食器棚を覗いて、自分のための器を選ぶのは愉しい時間。
この読み物は、食器棚と器を訪ね歩く連載です。どんな家にもあるけど、一つとして同じものはない。そんな食器棚と器と収納を見せてもらいながら、おしゃべりしたことを、小さなコラムにしてお届けします。
秘密基地のように、好きな器と本を詰め込んで

第八回は「みんげい おくむら」の奥村忍(おくむら・しのぶ)さんの仕事場を訪ねました。
地元船橋の商店街沿いに建つ古いビルの一室。自宅から徒歩10分とアクセスがよく、築60年ゆえに改築にもおおらかで「自由にできそう」と、愛用するまな板に合わせてサイズオーダーしたキッチンのある、約55平米のコの字型ワンルームです。
最初に持ち込んだのは気に入りの器と、デスクとパソコン、そして大量の本だったそう。

奥村さん:
「2021年に借りたので5年が経ちます。もともと仕事で窯元や作家さんのもとへ通って、ひと月の3分の2は旅先にいる生活だったのがコロナで一転しました。普段家にいないはずの自分がいることで、家族のリズムがおかしくなってしまって(苦笑)。
第二子の誕生で、家が手狭になってきたのもありますし、器がぎっしり詰まったオープンシェルフを子どもたちが大きくなる前にどうにかしないと、と思っていました。
それで『離れ』のような場所を求めていたんです。地元だけど、学区が違くてあまり馴染みがないエリアなのが新鮮で面白そうだなと、ここに事務所を作ることにしました」

奥村さん:
「器以外に、蔵書もたくさんあって。20代の頃に、たしか何かの本で読んだんですけど、『月収の1割を本に投資しなさい』という考え方を知りました。
たとえば月収30万円だったら3万円使える。そう思うと、値の張る大判の画集とか、古書店で見つけた民藝の資料とか、思い切って買えたんです。おかげで良い本に出合えました。
出張が再び増えてきたので、ここでの時間は減りましたが、使いやすいキッチンがあるので友人を呼んで食事会を開くことも。この場所を、どう楽しくしていこうかな、と構想しているところです」
魚とお酒を愛する、奥村さんの食器棚
▲小鹿田焼の7寸皿、北窯のイッチンの器、黒薩摩焼など、様々な作り手のものを使う。手仕事ゆえのムラやゆがみも美しい
そんな奥村さんの食器棚の主役は、もちろん民藝の器たち。
大分の小鹿田焼、沖縄のやちむん、愛知の瀬戸本業窯など、日本全国の陶工による手仕事の器が、有名無名にかかわらず、にぎやかに並びます。
奥村さん:
「『みんげい おくむら』で扱っているものが7割くらい。あとは好きな作家さんの作品や、旅先で見つけた骨董品など。ここにあるのは、自分の本当に好きな器ばかりです。
自宅の食器棚は、家族がおおらかに使えるものを選んでいるんです。たとえば、電子レンジOKとNGのものが混在していると面倒でしょう。電子レンジで使えないもの、繊細なつくりのもの、思い入れのある器などは、私の趣味ということでこちらに持ってきました」

食器棚は、10年以上前、結婚して妻と二人暮らしをするときに、近所の業務用リサイクルショップで見つけたステンレスの作業台です。
360度どこからでも出し入れできるのが便利で、飯碗、ぐい呑み、小鉢、そして小皿から大皿まで、色彩豊かなもの、渋い佇まいのもの、おおらかで大胆な絵柄の器などが、どーんと詰まっています。
奥村さん:
「普段はひとり分のお昼を作るくらいなので、7寸皿(21cm程度)1枚で事足ります。
食事会には、だいたい6人くらいが集まります。10品くらい作って、ビールで乾杯して、日本酒、ワイン、焼酎などなど、食事に合わせながら、お好みのものを飲んでもらいます。
私は魚料理が大好き。シンプルなお刺身とか煮魚とか、凝ったものは作りません。春は鰹をよく食べていたけど、最近はそうだなぁ……、船橋の市場に、地物の小ぶりのはまぐりが出回るんです。旨味が濃くて美味しいけど、ぱくっと食べやすくて、酒のアテにぴったり。酒蒸しにするのが好きですね」

奥村さん:
「料理家の友人が来てくれたら、何品か作るのをお願いします。パスタとか、エスニックごはんとか、自分のレパートリーにはないようなごはんと器の組み合わせを見るのも楽しいものです。
それを大皿に盛り付けて、タレ皿を出して、取り皿はメニューごとに替えていくと、都合100枚くらいは使うのかな。だから、大皿や大鉢、小皿も、これだけの枚数があるけれど、意外とどれも満遍なく使っているなと思います」
大皿には、大皿にしかない面白さがある

奥村さんの器選びは、自分の料理に合うかどうか。同じもので揃えるのは好みでなく、1枚ずつ選んでバラバラに持ちたいタイプ。
普段は旅も多く、外食が中心。だからこそ、ここにいるときは来客があってもなくても、シンプルな料理を心がけています。器は、色柄の主張が少なくて、盛り付けやすいシンプルなもの、手仕事のおおらかなものが落ち着くのだとか。
中でも気に入りの器として紹介してくれたのが、瀬戸焼の石皿。江戸時代にたくさん作られていた、直径30cm超の大きな平皿です。
奥村さん:
「大皿には、大皿にしかない面白さがあると思います。骨董屋さんで見かけて買いました。これは数枚持っていますが、それぞれに釉薬の色味とか、緑がかったところの出方とか、ちょっとずつ表情が違って面白くて。
この大きさだから、さすがに普段使いはしませんが、来客時に刺身を何種類か盛り付けたり、友人が作ったパスタを盛り付けたりすると、かっこいいんですよ。『おお……!』となります(笑)。
最近は何でも、便利さや機能性を求める人がいるでしょう。器も使いやすいのがいい、と。それも分かるけれど、それだけになると哀しい。面白いっていうのは、やっぱりすごく根源的に大事なことですよね」
日常で使うものの中に美がある、という考え方が好きだから

器を好きになったのは、会社員時代のこと。20代後半、仕事の都合で大阪と東京を行き来するような生活をしていたことがありました。
奥村さん:
「大阪ではマンスリーマンションで、自分の選んだものが何ひとつない生活でした。仕事でへとへとに疲れて帰ってきても癒されなくて、あれは苦しかったですね。
そのとき、友人がたまたまグラスを贈ってくれたんです。そのグラスで飲むビールの美味しかったこと。民藝ではなく作家さんのものでしたが、グラスひとつで、こんなにも気持ちや暮らしが変わるんだって実感しました」
身の回りのものを見直す中で出会ったのが、民藝の器です。
興味をもって本を読み漁るうちに、「日常で使うものの中に美がある」という柳宗悦たちの思想に強く感銘を受けました。大阪日本民芸館、西日本の窯元などを巡ると、自分と同世代の若者たちが作陶に励む姿があり、大きな衝撃と刺激を受けたそう。
その経験を経て、2010年にオンラインショップ「みんげい おくむら」を立ち上げました。

"民藝" という言葉が生まれたのが1926年。ちょうど100年前のことです。
奥村さん:
「今の私たちの暮らしに合う "民藝" ってなんだろうと考えます。
民藝運動が勃興した頃と今とでは、暮らし方、道具を置けるスペース、求められる機能も変わってきました。当時のものが、やや重たい感じがしてしまうのも、当然といえば当然のことですよね。
日本各地に足を運んで、最近では中国南部の手仕事の村を訪ねたりもして、実際に使ったり話を聞いたりしながら、考えているところです。自分が気持ちよく使えるものを、民藝の思想と一緒に伝えていけたらいいなと思います」

身の回りで使うものを見直し、好きなものと出会い、その延長線上に "民藝" の思想があった。奥村さんのお話を伺って、日常で使う道具や器の大切さを、あらためて感じました。
さて次回はどんな食器棚に出会えるでしょう。不定期にのんびり更新していきます。どうぞお楽しみに。
【写真】木村文平
※記事に登場したアイテムは、全て私物です。過去に購入されたものをご紹介しているので、現在手に入らないものもございます。どうぞご理解、ご了承いただけると幸いです。
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奥村 忍
日本や世界各地から集めた手仕事を中心とした生活雑貨を商う「みんげい おくむら」店主。今の時代、今の生活に合った「みんげい」を探し、日々提案している。千葉県生まれ、千葉県在住。