
海外へ行き、地元の人のように滞在する旅にあこがれがあります。美容師の福場みどり(ふくば・みどり)さんは、毎年フランスでそんなバカンスを過ごしています。
中断した時期もあったけれど、子育て中に知り合い、家族のようにつながり続けた友人たちを訪ねているそう。
前編では、フランスの友人宅での過ごし方を中心に、息子さんがきっかけでフランス人の友人ができた理由などをお聞きしました。
後編では、子育てがひと段落してから再開したフランス旅や、年齢を重ねたいま思うことについて伺います。
子育てがひと区切り、またフランスへ

息子が小学校6年生になるまで、子育て中に日本で知り合ったフランス人の友人を訪ね、家族3人で毎年フランス旅行をしていた福場さん。息子の中学・高校時代は、一時中断に。
福場さん:
「小学校でサッカーを始めて、中学からクラブチームに入ったので、その応援と受験がありましたから。フランスの友人たちはサッカーに興味がないので、『サッカー選手になるためにがんばってる』と話しても、『どうして?』という感じでしたけれど(笑)」

次にフランスへ行ったのは、息子が大学1年生になったとき。
福場さん:
「ほとんど別行動でしたけれど、ふたりで行きました。
息子はずいぶん久しぶりでしたから、友人たちはみんなすごく楽しみにしてくれて。小学校6年生から大学1年生って、ぜんぜん違うじゃないですか。
私より先にフランスに着いた息子を友人が迎えに行ってくれて、みんなで撮った写真を送ってくれたんです。向こうの子どもたちとも再会していて、ブランクがあっても変わらないつながりにとても感動し、このときは泣いてしまいましたね」
フランス人と家族のような関係を育めたのは?

ようやく再開できたフランス旅。息子が大学在学中はふたりで、卒業後はコロナ禍で2年ほど中断したものの、毎年ひとりで通い続けています。
福場さん:
「みんなから『フランス人でしょ』って言われます(笑)。フランス人よりもフランス人の友だちが多いよ、って。家とか実家にまで泊まりに行けちゃうような友だちがたくさんいる人、いないよって言われるんです。どうしたらそういう友だちができるの?ってよく聞かれるけれど……。
たとえばブルターニュとブルゴーニュに家がある友人カップルがいて、最初の出会いは彼らが貸している部屋を借りたことでした。
まだ息子がちいさいときで、ブルターニュの友だちの家に行ったら、夏は親戚中みんな集まるから、私たち家族の部屋が足りなくなってしまったんです。近くで部屋を貸していたのが、夫が不動産の仕事をしていて、妻がファッション誌の編集者をしているカップルで、私たち家族が最初のお客さんだったの。
だから最初はお金を払って泊まらせてもらっていたのだけれど、そこから毎年家族3人で泊まりに行っていたら、息子が小学校6年生の年に『みどりはもう友だちだから、お金はいらないわ』って」

福場さん:
「行かなかったあいだも手紙でやりとりしていて、またひとりで行くようになってからは、ブルゴーニュかブルターニュか、彼らが夏を過ごしている家に泊まりに行くようになりました。
知り合ったフランス人みんなとそういう関係になれるわけではありません。親しくなった人たちが特別付き合いやすい性格というわけでもないんです。
やっぱり親子で毎年通っていたことで、家族ぐるみのつながりが蓄積できたことも大きいのかな、と思います。みんな私の息子をふたりめの息子と言ってくれたりするし、友人の子どもたちも、私のことを第二のお母さんとか、家族と言ってくれるんですよ」
親しい関係を崩さない距離の取り方
▲猫のRubis(リュビ)を追いかけているところ。福場さん撮影。
フランスの友人宅を訪れるときは、実家に帰るような感覚ながら、フランスのほうが実家より疲れないのだとか。
福場さん:
「やっぱり家族のようだけれど、家族ではない友だちだからこそ、お互いに気遣いはあるんでしょうね。
私がとくに気をつけているのは、相手の抱えている問題に口出ししないことでしょうか。
付き合いが長いし、家族のこともよく知っているし、ふだん一緒にいるわけではないからこそ、かえって話しやすいところもあると思うんです。友人たちはいろいろな話をしてくれます。親子関係や嫁姑問題、姉妹間のいざこざなど」

福場さん:
「そういう話を聞いたときに、深掘りしないというか。
たとえば息子と最近こんなことがあって、と聞いたからといって、今度その息子に会ったときに、『あんた、ちょっと何してんのよ』なんて言わない。相手によって態度を変えたり、仲を取り持とうとしたりも、しないようにしています。
話を聞いて泣いちゃうこともあるくらいなんだけれど、そこで止める。だってお節介焼いて関係が良くなることって、絶対にないですから」
何でも話せるけれど、何でも言っていいわけではない。その距離感に、大人の成熟した人間関係を作るヒントがありそうです。
フランスに行くのは、会いたい人がいるから
▲2月に行った、フランスの洒落たレストラン。福場さん撮影。
毎年、夏に通っていたフランスに、今年は冬も行きました。
福場さん:
「友だちが白内障の手術をすると聞いて、そばにいてあげたいと思ったんです。
今までは子ども優先だったから、たとえば友だちの夫が亡くなったときお葬式に行けなかったり。そういう後悔がすごく残っていて。今なら、すぐに駆けつけられますからね。
やっぱりそう考えると、家族なのかな。お客様にはご迷惑をおかけしちゃうんだけれど、みなさん『里帰りだからね』と理解してくださるんですよ」

フランスにあこがれて20代では短期滞在し、出産後は親子で、子どもの手が離れてからはひとりで通い続けてきました。改めてフランスの魅力を伺うと……。
福場さん:
「やっぱり友だちがだんだんできて、その家族とかとも知り合って、本当にその人たちのために行っているような気がします。
だから、そこがイタリアだったら、イタリアに行くと思う。
友だちがアイルランドに移住したので、ここ3年くらいはアイルランドにも足を伸ばしていますし。
フランスに住みたい気持ちもありますが、長く通ってくれているお客様が多いから、それはできないし、したくない。それに、今みたいに、会いたい人のところへ身軽に行けるくらいが、私には合っている気がします。
友人たちも、70代、80代に入り、会えるうちに会っておきたいから、年に2、3回通えるのが理想ですね。フランスの友人宅は親戚の家みたいな感じなので、この多拠点生活をもうしばらく楽しみたいと思っています」

子育てをしながら、親戚のような友人関係を育んできた福場さん。
生活するように旅することに憧れがありましたが、それはやはり人あってこそなのだと感じました。
遊びにおいでよと誘われても遠慮してしまったり、連絡しようかなと思っても迷惑かなと考えてしまったり。でも複場さんの話を聞いていると、少し勇気を出して、人との距離を縮めてみたくなります。踏み込みすぎないことも、大切にしながら。
そんなふうに関係を育てていけたならば、大人になってからでも、家族のように思える相手に出会えるのかもしれないと思いました。
(おわり)
photo:滝沢育絵(6,8枚目以外)
もくじ


福場みどり
愛媛県出身。大手美容室勤務を経て、独立。現在は表参道でプライベートサロン「30,ruekeller」を営む。
Instagram:@m30ruekeller