
どんなときでも、おしゃれは楽しめる。
そう教えてくれたのは、以前から憧れていた熊本市にあるセレクトショップ「Ecru et pousse」のまつむらゆきさん。
ゆきさんは、笑顔がとってもチャーミング。いつもその時々のヘアスタイルや気分に合わせた、素敵なコーディネートを楽しまれている憧れの人です。そのセンスもさることながら、目の前の人に誠実に関わる姿や、飾らない人柄に惹かれてつい会いにいきたくなってしまうような……周りにはいつも素敵なお客さまや仲間たちが集まっています。
今回の特集では、50代を迎えたゆきさんの仕事や暮らし、おしゃれの話まで幅広くお伺いします。
3人の子育てをしながら、雑貨店を開くまで

ゆきさんがお店を開いたのは、2010年のこと。好きで通っていたカフェの倉庫の一角で、3畳ほどのスペースを借りて雑貨を販売したのが小さな始まりでした。
ゆきさん:
「もともとは歯科衛生士として働いていて、結婚後は10年ほど専業主婦として子育てをしていました。離婚をきっかけに、子どもの生活に寄り添える働き方をしたいと考え、自営業という道を選びました。
以前からいつかお店をやってみたいという夢があり、そのことを周りの人に話していたところ、35歳の頃にカフェの倉庫を間借りできることになったんです。
最初はカフェのお客だったのですが、イベントや催事など忙しいときに手伝うようになって、オーナーが倉庫の管理をしながら、お店をやってみないかと言ってくださったんです」
とはいえどうやったらお店を作れるのか何の知識もないなかで、愛用していたハンカチやキッチンクロスのタグに書かれた電話番号に問い合わせることから、お店づくりはスタートしたそう。

ゆきさん:
「開店当初からお世話になっている『R&D.M.Co- 』さんから、キッチンクロスを仕入れたのが最初です。電話で問い合わせたら『お店の雰囲気がわかるものを何か送ってもらえますか?』と言われて、当時持っていた家具に、雑貨やカゴを並べて写真を撮って、手書きで説明を添えた小さな冊子をつくって送ったことからお取引がはじまりました」
そんな風に本当に好きで使っていた生活雑貨を少しずつ仕入れて、大好きなカゴと、1ラック分のお洋服を並べた小さなお店が完成しました。

ゆきさん:
「昔からずっとカゴが大好きで、最初はカゴ屋さんになりたかったんです。緊張せずに入れて、リラックスしながら買い物を楽しめて、お客さんと店主がおしゃべりも楽しめるような、そんなお店にできたらいいなと思っていました」
お店を始める前は、3人の娘さんを育てながら趣味のパッチワークで、子ども用のブランケットやランチョンマットを作っていたゆきさん。知り合いのアンティークショップで販売していた時期もあり、そのときのお客さまが、新しく始めたお店のお客さまにもなってくれたといいます。
『olive』を愛読。赤毛のアンにも憧れた高校時代

長崎県島原市で生まれ育ったゆきさん。お母さまもインテリアが好きで、母娘で長崎市まで出かけては雑貨店に行くのが楽しみだったそう。お母さまが購読していた『私のカントリー』というインテリア雑誌を眺めたり、部屋の模様替えを楽しんだり。高校時代は雑誌『Olive』に夢中になり、月に2回の発売日を心待ちにしていたといいます。
ゆきさん:
「Oliveを通して雑貨だけでなく、ファッションも好きになりました。古着屋さんで掘り出し物を見つけるのが大好きで、当時の誌面で見たパリジェンヌに憧れて、父に頼んで通学用の自転車に籐のカゴをつけてもらったり(笑)
あとは海外ドラマ『赤毛のアン』や『大草原の小さな家』も大好きで、ストーリーだけでなく、背景やファッションが気になってすごく見入っていました」

資金がなくても。家族で手作りした店舗

お店をはじめて1年ほどした頃、間借りしていた倉庫から移転しなければならなくなりました。
ゆきさん:
「あてもなく物件を探してようやく素敵な建物を見つけたけれど、とても古くてそのままでは使えない状態でした。ただ業者さんに内装を頼む資金もなくて、父が改装してくれることになったんです。
もともと手先が器用で、趣味の大工仕事を活かして床や壁を作ったり、ペンキを塗ったりしてくれました。義理の兄やパートナーも手伝ってくれて、家族みんなで手作りした店舗です。ここで『Ecru et pousse』が少しずつ育っていきました」

2度目の移転。50代での再スタート

お店に立ってお客さまと過ごす時間を大切にしながら、十数年の時を重ねてきたゆきさん。お店という場を通じて少しずつ出会いも広がり、仕事や暮らしのリズムも落ち着いてきて50代を迎えた頃、ふたたび移転しなければならなくなりました。
ゆきさん:
「古い建物だったからか、大家さんが変わったタイミングで相談を受けて、再び移転しなければならなくなりました。自宅も併設していたので、家もお店も引越さないといけない状況になり、最初はどうしたらいいのか愕然としてしまいました。
ただお店を続けていくためにも、移転先を探さなくてはと地図を見ながらあれこれ探すなかで、偶然見つけた貸家の隣にある小さくてかわいらしい建物が気になりました。内見の日に両方を見せていただくと古い郵便局であることが分かり『ここならお店と自宅の両方を構えられる』と直感し、この場所で新しい暮らしを始めることを決めました」

ゆきさん:
「今回の移転では、お店に通ってくださるお客さまや友人たちがペンキ塗りや改装作業を手伝ってくれました。私も一緒にペンキを塗りながら、郵便局の雰囲気も残しつつ、またお気に入りの空間に仕上げることができてうれしく思っています」

ゆきさん:
「以前の家は、古いアパートを改装したコンパクトな空間だったのですが、今回の貸家は初めての一軒家なんです。
3人の娘たちがみんな独立して家を出たこともあり、はじめて友人を招けるリビングのような空間ができたことも嬉しくて。ずっと箱にしまったままだった雑貨も飾ることができました。久しぶりにインテリア熱が高まって、家づくりが楽しくなってきたところです」


人生の折々で直面してきたどんな課題にも、しなやかに、その時々の自分にできる小さな一歩を重ねながら進んできたゆきさん。およそ1年かかった移転がようやく落ち着いた頃に、思いもよらない大病が見つかりました。
つづく後編では、はじめての病気とどう向き合い、乗り越えていったのか、この一年のさまざまな変化について詳しく伺います。
photo&movie:穴見春樹
もくじ
第1話(9月1日)
35歳で雑貨店を開いて、セレクトショップ店主に。「Ecru et pousse」まつむらゆきさん
第2話(9月2日)
50代で体の変化と向き合い、おしゃれも楽しみつづけるために


まつむらゆき
「Ecru et pousse」店主。35歳のときに小さな雑貨店を開いて、「R&D.M.Co-」の服を扱ったことをきっかけに服とファッション小物の扱いが増えセレクトショップに。いつかお店に大好きな古物や雑貨も並べて、お茶やお菓子も出して、衣食住たのしめる場所にしたい。
*9/5(土)6(日)と山梨の「THE DEARGRAUND」(山梨県富士吉田市下吉田6丁目18-46 2F.3F)にて、ポップアップを開催予定
Instagram:@ecru_et_pousse