【ドジの哲学】共働き、家事分担でなぜかモヤモヤ
文筆家 大平一枝
ドジのレポート その11
夫の家事には“もやっ”が残る!?
海外取材で九日間、家を空けた。夫は掃除洗濯から高校生の娘の弁当作りまで家事の一切を担当した。映画の仕事をしている夫もロケに入ると留守にするので家事はイーブン。家にいる者がする、それはどちらでもよいという方針だ。
夫は、自分は平等になんでもこなしていると思っている様子。たしかにありがたいが、私は心の中で、まだまだ本当の平等じゃないんだけどね、と思っている。彼の家事にはいつも必ず、やり残しがあるからだ。
たとえば、公共料金や教材の支払いやマンションの理事会の出欠用紙など、決済が必要なものを封も切らずに端にまとめて置いている。子どもの塾のものは俺わからないからとでもいうように、封も切っていない。
また、我が家はオールドパイレックスの耐熱ガラスのやかんを使っているのだが、食器は洗ってもそれだけは洗ってくれない。何度言っても、その横で油料理をする。棚に定位置があるのにコンロにやかんを出しっ放しにして料理するので、ガラス面が油だらけになると、いくら言っても変わらない。
今回は空っぽの胡麻油の瓶が、なぜかカウンターキッチンの上にじかに置かれていた。輪ジミはつくし、不燃物を捨てる場所もマンション内にある。不燃物の処分まで、片付けのついでにして欲しかった。
家事は、最後の最後までやりきって初めてイーブンと言えると思う。あと一歩なのになあともどかしい。
だからといって、仕事をしながら引き受けてくれた九日間に感謝もせず文句ばかり言ったら、夫だって面白くない。逆の立場でも同じだと思うので、そこは心にしまっている。
夫婦間で文句を言うと、そのときはスッキリするが、あとあとひきずり「家事をしてもいいことがない」という印象だけが相手に残ってしまう。それは長い目で見て損なので、できるだけ褒める。さんざんバトルを繰りかえした長年の経験から、やっとそういう境地にたどり着いた。
昨夜、娘が「パパのお弁当は彩りがきれいでおいしいから、これからも作って欲しい」と言うので、「ああ、ほんそうにそれがいい。ママのはつい急いで雑になっちゃうからね。パパの、そんなにきれいなんだ。ねえ、今度写真撮っておいて」と全力でもちあげたら
「おまえ、おだてて自分は朝寝ていようと思ってるだろ」。
あちらも長年の経験から、きっちり見破っていた。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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