【インテリア特集】第1話:北欧のライフスタイルに憧れて。小林夫妻の新しい住まい
ライター 嶌陽子
北欧のライフスタイルを、東京で実現?
本日より、インテリア連載vol.11がスタートします。
今回訪れたのは、インテリアデザイナー、小林恭(たかし)さん・マナさん夫妻のご自宅。
小林さん夫妻は、設計事務所イマを主宰。物販や飲食の店舗設計から住宅設計、プロダクトデザインまで、幅広い分野で活躍されています。
『マリメッコ』の店舗、『ラプアン・カンクリ』の店舗や展示会ブースのデザインを手がけるなど、北欧ブランドとのつながりも強いお2人です。
▲小林恭さん・マナさん。飾らない人柄のおかげで、リラックスして取材できました。
昨年10月に、都内の広々とした公園に面した土地に、2階建ての事務所兼自宅を建てたと聞き、さっそくお邪魔しました。
▲2階の窓から顔をのぞかせているのは愛猫・マロン。
新居には、ため息が出るほど素敵なインテリアだけでなく、ご夫妻の暮らしに対する考え方も散りばめられていて、とても示唆に富んだ空間でした。
端正な美しさとラフさがバランスよく同居する小林さん宅のインテリアを、全4回にわたってお届けしていきます。
(※登場するアイテムは、全て私物です。過去に購入したものを紹介しているので、現在手に入らないものもございます。どうぞご理解、ご了承いただけると幸いです)
第1話
公園を借景に。木立が見渡せる家
北欧で知った、自然のそばにある暮らし
まずは、1階から見せていただきました。
1階には、事務所スペース、打ち合わせスペースを兼ねたダイニングルーム、そしてキッチンがあります。
北側に面した掃き出し窓の外には、公園の木立が一面に広がっていました。
新居に移る前は、都心のヴィンテージマンションをリノベーションして住んでいた小林さん夫妻。
5年以上前から、新居を建てることを考えていたそうです。
恭さん:
「職住を近接させたくて、事務所と自宅が一体となった建物を建てようと考えていました。
そこで、まず土地探しから始めました。でも、なかなかこれという決め手がなくて。
そんな中、2年前にこの土地に出合いました。北側が井の頭公園に面していて、ひと目で気に入ったんです。
そこから自分たちで設計して、約2年がかりで新居が完成しました」
恭さん:
「 仕事でフィンランドによく行くようになって、向こうの人たちの生活に惹かれるようになりました。
家のすぐそばに森がある、そんな生活がとても豊かだなあと思ったんです」
マナさん:
「そうそう。秋だったら、当たり前のように、近所にきのこ狩りに行ったりね」
恭さん:
「だんだん、僕たちも自然のそばに住みたいと思うようになって。この土地を選んだのは、そういう影響も大きいですね」
限られた予算の中、「どうしても」とこだわって作った1階のウッドデッキ。
暖かくなったら、ここにテーブルを出して食事をするのはもちろん、仕事もするつもりだそう。
塀のすぐ向こうには、井の頭公園の広大な樹木が広がっています。
最寄りの駅からは徒歩15分という距離。それでも、公園を通り抜ける気持ちの良い道なので、苦にならないそうです。
打ち合わせなどでここを来訪する人も、自然とゆるやかにつながったこの空間に、つい顔がほころぶのではないでしょうか。
北向きの家には、実はこんなにメリットがある
1階の玄関から入ると、まず見えるのが、間仕切りも兼ねた戸棚です。
一部がオープンになっていて、その向こうに見えるキッチンの窓から、木々が目に飛び込んできます。
キッチンで洗い物をしながら緑を眺めるなんて、とても気持ち良さそう!
▲都内とは思えない、森の中にいるような景色。
マナさん:
「アイランドキッチンにすることも考えたのですが、台所仕事をしながら外を眺められる楽しみがあるといいなと思って。
自分たちの土地ではないですが、この広々とした自然を満喫できる。
借景っていいですよ!」
ところで、日本の住宅というと、「南向きがいい」というのが定説になっている気がします。
あえて北側に開いた家にしたのは、どうしてなのでしょう?
▲打ち合わせスペース兼ダイニングから見える景色。秋は紅葉がきれいだそう。
マナさん:
「木は太陽のある南側に向かって育ちます。だから北側からだと、いわば木の『表側』を見ていることになるんですよ。
南からの太陽に照らされた木々は本当にきれいです」
恭さん:
「1階にいることが多い僕たちにとっても、北向きはちょうどよかったんです。
日中、南から日が差し込んで明るすぎると、かえって仕事がしにくい。
となると、せっかくの窓もカーテンを閉めざるを得ません。この素晴らしい木立があるのに、それはもったいないですよね」
北側からの冷気を防ぐため、断熱材を入れたり、窓にはペアガラスを使ったり。
採光のために、南側にも必要な場所に窓をつけたり。
家を建てるに当たっては、空間全体のことを考え、あらゆる点を計算し尽くして設計しました。
マナさん:
「安易に『北向きがいい』とは言えません。建物全体や暮らし方をトータルに考えて、さまざまな対策をすることが必要です。
でも、リビングなど、長時間いる場所を南向きにしながら、常にカーテンを閉めっぱなしにしている家は、やっぱりもったいないなと思います。
北向きだと、工夫次第でいろいろな楽しみ方ができるんですよ」
落ち着いたトーンを土台に、遊び心をプラス
▲1階のトイレの窓辺には、さりげなく花が飾られて。
大きなテーブルが主役のスペースは、日中は仕事場として、それ以外の時間は、夫婦2人や友人たちと一緒の食事の場となります。
▲大きなテーブルは中央で切り離して使うことも可能。
職住をきっちりと分断し過ぎず、ゆるやかにつなげることで、スペースも効率的に活用しているのが新鮮でした。
1階の基調となっている色は、グレー。
やさしいクリームイエローが、ところどころに差し色として入っています。
▲キッチンの棚もグレー。コンクリートの型枠用の合板だったものを、そのまま使用。
恭さん:
「落ち着いた雰囲気にしたくて、グレーを選びました。でもそれだけでは暗過ぎるので、明るい差し色を入れたんです」
落ち着いた雰囲気の中に、随所に遊び心やラフなテイストが見られるのが、小林さん宅の魅力です。
たとえば、ドア。合板の断面をわざとむき出しにして見せています。
▲ミルフィーユみたいで、なんともかわいい!
さらに、キッチンから続く、事務所スペースも見せてもらいました。
▲スタッフの皆さんがお仕事されている中、ちょこっとお邪魔。
壁に描かれている大きなモノクロのドローイングは、小林さんたちが仕事でも関わっている、陶芸家・鹿児島睦さんの作品です。
この壁の向こうは、実は一面、書類や本など、さまざまなものが入った収納棚となっっていました。
見せて、使って、楽しむうつわ
ところで、お邪魔してすぐに気になっていたのが、1階の入り口から見えた、ガラス棚の中の食器。
お店のディスプレイのように美しいのですが、聞けば「料理が映えるので、飾っておくだけではもったいない。食卓でも使うようにしています」とのこと。
せっかっくなので、いくつか取り出して見せてもらいました。
鹿児島睦さんのプレートは、壁にかけても絵になりそう。
恭さん:
「大胆な絵柄ですが、質感がざらっとしているせいか、不思議と落ち着いた雰囲気なんですよね」
マナさん:
「意外と、どんな料理にも合います。オードブルやローストビーフを乗せたり、チャーハンを盛ることもありますよ」
こちらは、マナさんが好きで集めているベルギーの「BOCH」のうつわ。
マナさん:
「もともとは、こういう白地に青の絵柄がついた器や、白い器が好きだったのですが、鹿児島睦さんの作品に出合ってから、柄も好きになりました。
器がきれいだと、食器洗いの時間すら楽しいんですよね。好きだから、とても丁寧に扱うようになるし」
きれいな器は、小林さんのように見せる収納にすることで、インテリアのアクセントにもなりますね。
小林恭さんとマナさん夫妻の新しい住まい。まずは1階スペースをお届けしました。
店舗などの商業施設を設計する時も、住宅を設計する時も、基本的な考え方は一緒、と話す2人。
与えられた環境・条件を、どうやって最大限に活用するかを考え抜くのだそうです。
この空間が心地よいのも、「北側が公園」という立地が、実に効果的に生かされているからだと感じました。
次回は、取材陣一同、部屋に入った途端に「わー!」と感嘆の声をあげてしまった、美しすぎるリビングルームをお届けします。
どうぞお楽しみに!
【写真】木村文平
もくじ
小林恭・マナ
設計事務所イマを主宰。恭さん、マナさんともに前職を1997年に退社後、建築、デザイン、アートの勉強のため半年間のヨーロッパ旅行へ。1998年に帰国後、現在の事務所を設立。物販&飲食店のデザイン、プロダクトデザイン、個人住宅など、幅広く空間デザインを手がけるほか、鹿児島睦さんなど展覧会の空間デザインや、インスタレーションの分野でも活躍。http://www.ima-ima.com/
ライター 嶌陽子(しま ようこ)
編集者、ライター。大学卒業後、フリーランスでの映像翻訳や国際NGO職員を経た後、2007年から出版社での編集業務に携わる。2013年からフリーランスで活動を始め、現在は暮らしまわりの記事や人物インタビューなどを手がける。執筆媒体は『クロワッサン』(マガジンハウス)、『天然生活』(地球丸)など。プライベートでは1児の母として奮闘中。
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