【愛おしい時間のかけ方】前編:今がかっこよくなくてもいい。いつかのために時間をかけること
編集スタッフ 松浦
桜の木はすっかり新しい緑をつけ、生あたたかい風が窓からふわり。気づけば4月も後半戦。街では、「研修中」のバッジをつけた店員さんや、慣れないスーツに身を包んだ社会人一年生を見かけます。
でも、はじめてが不安なのは私たちも同じ。子供の入学、部署の異動、転勤、そして引越し…… 新しいものに囲まれる4月は、いくつになってもそわそわするものです。
周りと歩調を合わせるため、ほんの少し背伸びをしてみたり、自分なんだけど、いつもの自分じゃない気さえする。なんだか宙を歩いているようなふわふわした感覚。
そんなとき、自分を正しい位置に戻してくれるのは、一緒に時を重ねた持ち物だったりします。
社会人一年目で買った名刺入れや、実家から持ってきたマグカップ、子供の頃から使っているタオル…… ふと手にした瞬間に安心したり、あの時の光景が蘇ったり、そんな持ち物です。
少し大げさかもしれませんが、いつもの自分に戻って、ちょっと力が湧いてくる…… 何を語るわけでもなく、ただいつもそばにいる。皆さんの身の周りにも、そんな相棒はありませんか?
わたし松浦も、クラシコムへ転職してもうすぐ1年。ふわふわとした新しい日々に寄り添ってくれたのは、時を重ねて愛着を育ててきたものたちでした。
時間をかけて私の相棒になったもの
4年目の竹の箸
「真っ青だった竹と、青い自分を重ねた」
社会人になるほんの数日前。通っていた大学の隣駅にある、大好きなごはんやさんで、友人と竹の箸を見つけました。
竹はまだ真っ青で、「お、なんだか私たちみたい?」と、3年後、5年後……の自分たちを想像しながら、記念に買って帰ったのでした。 華奢で、繊細なつくりが美しく、折れないように、曲がらないようにと、この箸を使うことで自然と所作を気にするようになった気もします。
毎日使い込んで、今年で4年目の相棒。いい具合に、茶色くなった箸をすっと箸置きに並べて、「初心忘るべからず」と自分に言い聞かせています。
8年目のショルダーバッグ
「一緒に成長してきた私の味方」
出かける前、いつも手に取るのが、このMOTHER HOUSEのショルダーバッグ。 大学の入学祝いに買ってもらい、かれこれ今年で8年目の相棒です。
大事な取材や旅行…… 今思えば、初めての場所には必ずと言っていいほど、このバッグを手にしていた気がします。楽しい時も、辛い時も、バッグの中に入りたくなるような恥ずかしい時も、まるで自分の皮膚みたいに全部知ってる。
だからこそ、そわそわする日は、この子が味方。ぎゅっとベルトを握って、お腹の方にぴたりと寄せると、不思議と力が湧いてきます。「ま、なんとかなるさ。今までもそうだったし」そう言って、いつもの自分が戻ってくる感じ。そうやって、一緒に成長してきた仲間のように、勝手に頼りにしています。
一度だけ、大学時代に分厚い教科書とカメラを詰め込みすぎて、持ち手の接続部分が切れてしまい修理に出したことがありました。正直、「直してでも使いたい」そう思ったのは、初めてだったかもしれません。
65年目のロングスカート
「おばあちゃんにもらったお気に入り」
もう5年ほど、ほぼ毎週のように履いている、お気に入りのスカートがあります。
私の祖母が、私くらいの歳の時に履いていたスカートです。 いつだったか祖母の家に遊びに行ったとき、私の履いてるスカートをみて、「昔履いてたスカートによく似てるわ〜」と言って、みせてくれたのがきっかけでした。
英語の教師だった祖母。「英語を好きになりたいなら、まず私を好きになってね!」といい、授業が少しでも楽しくなるよう、カラフルにお洒落をして授業をしていたと言います。
セットアップで仕立て、スカートもプリーツとタイトの2パターン作ったりと、祖母がこだわり抜いた服たち。静かにタンスで眠っているにはもったいなく、気に入ったものをいくつかもらって帰りました。
ある日、おばあちゃんのプリーツスカートを履いて妹と駅で待ち合わせをしていると、同じ生地のタイトスカートを履いて妹が現れました。思わずふたりして笑ってしまい、写真を撮っておばあちゃんにLINEで送ったのでした。「ふたりともよく似合うね」そんなおばあちゃんの返事に、ふと嬉しくなったのを覚えています。
自分にとっては新しい服なはずなのに、なんだかしっくりくる感覚は、私の知らない時を重ねているからなのかもしれません。 誰かのくらしの相棒を受け継ぐことで、誰かの記憶のレイヤーに、自分の記憶のレイヤーが重なっていく。
もしかしたら、自分の娘も、孫も着られるかも?昔も未来も、このスカートが、いろんなことを想像させてくれます。
今がかっこよくなくてもいい。ゆっくり時間をかけて大切にしたいものはありますか?
入学、就職、異動、引っ越しと、環境が大きく変わる新生活。
雑誌やインスタグラムで目にする「理想の暮らし」を想像しながら、ちょっと背伸びをして買ったものもあるかもしれません。まだ浮いているような不恰好な自分の姿を見て、「身の丈以上だったかな」なんて思ってしまったり……
でもきっと大丈夫。時間をかけ愛着を育てたものは、いつの間にか自分の「くらしの相棒」になっているはずです。いまはまだ数えられるだけしかないけれど、おばあちゃんになった時に、そう思えるものに囲まれていたら素敵だなって思います。
今が完璧じゃなくてもいい。かっこよく決まってなくてもいい。 そう考えたら、ちょっと自由な気持ちになりました。
後編では、そんな相棒とできるだけ一緒に長く過ごすため、「大切にすること」を考えます。
お話を伺ったのは、青梅で150年続くホテイヤ傘店のご夫婦。「できるだけ長く使ってもらえる傘」をモットーに、壊れてしまった傘の修理も受けている傘専門店です。
(つづく)
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