【短編小説 |金曜日に花束を】第一話:めぐりくる季節

kim(UHNELLYS)× 花屋 ŒUVRE


第一話:めぐりくる季節

Written by kim(UHNELLYS)/ Bouquet by ŒUVRE


玄関のカギを閉め、靴を脱ぎながら時計を見る。23時40分。真夜中に帰る日々が続いていたから少しホッとする。

鞄の中で携帯が鳴っている気がしたけど、今日はもう誰とも話したくない。こんな時間だから彼かな。電話もメールもまめに返さない私から、そろそろ彼も離れていく気がする。いつものパターン。でも、今の私に引き止める体力は残っていない。

部下が増えれば仕事が楽になると思っていたのに、実際は逆だった。もともと人づきあいが得意ではない私にとっては、面倒なことが増えただけ。

シャワーを浴びていても仕事のことを考えている自分にふと気づき、短いため息をつく。待ちに待った金曜の夜だというのに。

ビール片手にソファに座ると、24時を少し回ったところ。今日はユカの誕生日。

高校時代、ユカとは同じバスケ部で毎日一緒にいた。勉強も恋愛も、全てを相談したし、滅多になかった休日まで一緒に過ごした。あの頃、親とか兄妹とか先生とは比べ物にならないくらい、彼女のことを信頼していた。

24時を過ぎて「誕生日おめでとう!」とメールを送るのも、15年忘れずに続けている。でも、いつしかそれだけになっていた。

ユカが結婚して子供を産んだ頃から、少しずつ少しずつ距離が開いている。いや、私から離れたのだ。私は違う人生を歩んでいる、もう生きる世界が違うのだ、と。でも、彼女の代わりになる存在を、私は今でも見つけられないままでいる。

思い出すのは彼女の笑顔。大きい口をこれでもかと開いて笑う彼女には、周りの人を自然と明るくする力があった。きっと賑やかで温かい、立派な母親になってるだろう。

「誕生日おめでとう」から、続きが書けていなかったメールを削除した。このメールを送ったら、いつもと一緒になってしまう。今年は何か特別なことをしたい。

おてんばに見えて、実は人一倍、花柄が大好きだった彼女に「おめでとう」と「ありがとう」と「ごめんね」を込めて、私は大きな花束を贈ることにした。自分のためだったら買わないくらい、思い切った花束を。

突然届いた大きな花束を抱えて、大騒ぎする彼女の姿を想像したら、なんだか嬉しくなってきた。そして会いに行こう。彼女の笑顔を見るために。自分の笑顔を取り戻すために。

(つづく)

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