【あなたのホーム】前編:二度の移住を経験した、当店の元お客さま係を訪ねて。
商品プランナー 斉木
「ホーム」という言葉を聞いたとき、頭のなかにどんな景色が浮かびますか?
毎日帰る家や、生まれ育った故郷を思い浮かべた方もいるかもしれません。でも、もしそこにいるだけで「わたし、大丈夫だな」と気持ちがほどける場所があったなら。
そんな自分が自分らしくいられる場所を「ホーム」と呼びたい。そう思い、様々な方に自分がホームだと感じる場面について尋ねる特集「あなたのホームは、どこですか?」。
第2回となる今回、誰に話を聞きたいか考えを巡らせていたとき、思い浮かんだある女性がいました。そして、彼女に会うために長野県・松本市を訪ねたのです。
2度の移住を経験した、当店の元お客さま係
その女性は、約6年間当店のお客さま係を勤めたあと、北欧に移住した桑原(くわばら)さやかさん。彼女が綴っていた連載「ノルウェー日記」をご覧になっていた方もいらっしゃるかもしれません。
桑原さんはスウェーデン人の夫とともにノルウェーに移り住み、約1年半を過ごしたあと、昨年末日本に戻ってきました。
久々の日本で夫婦が居を構えると決めたのは、慣れ親しんだ東京ではなく、松本。
およそ2年の間に2度の移住を経験した桑原さんにとって、ホームってどんな場所なんだろう? 話はおよそ2年前、ノルウェーへの移住を決めた頃に遡ります。
「わたしこのままでいいの?」自分と向き合いたかった30代の入り口
ノルウェーへの移住を会社で打ち明けたとき、他のスタッフはあまりに突然の話に驚いたと話していました。以前から計画していたことだったんですか?
桑原さん:
「いえ、全く考えていませんでした。夫がスウェーデン出身なので、いつか北欧に住むこともあるかもしれないとは思っていたんですが、あのタイミングは自分の中でも想定外です。
今年で35歳になるんですが、30歳を過ぎたあたりからずっと『わたしこのままでいいのかな?』という気持ちがあったんです。自分がどこに向かっているのかわからない。頭の中は仕事や日々のことでいっぱいなのに、ずっと堂々巡りをしている感じがするというか。何をするにも上の空で身が入らず、夫の話もきちんと聞けていなかった気がします。
これは家を引っ越すか、仕事で新しい領域にチャレンジするか……何かしら変化を起こすタイミングだと思っていた時期でした」
▲夫婦でトロムソを初めて訪れたときの思い出の一枚は、唯一額装して飾っている写真。
桑原さん:
「そんなとき、オーロラで有名なノルウェーのトロムソに夫婦で旅行に行くことにしたんです。
軽い気持ちでレンタカーや飛行機に乗ったんですが、向こうは命の危険を感じるレベルの大雪で。『わたし、生きてる……!』ってひしひしと感じたんです(笑) それまでの悶々とした状態から、“今ここ” に集中できているような感覚でした。
トロムソでは夫とも向き合って話せたし、その場にいるだけでパワーがみなぎってくるような感覚があって。夫も同じことを感じたらしく、夫婦ふたりがこんなふうに思う街なんてそうそうない。これは運命だ、ここに住もう!と、旅行から半年で移住しました」
▲自宅のデスクには、北欧で「森の妖精」といわれているトロルが。
桑原さん:
「こう話すと、すごく行動力があるように思われるんですが、わたしはもともと心配性な性格で。そもそもノルウェー語はもちろん、英語もあまり話せなかったし、向こうに行ったら仕事もできなくなると考えて怖くなったり。急に決めた移住だったので、母にも反対されて、一時は険悪な雰囲気になってしまったり。
でも、あれこれ考え始めたら身動きが取れなくなると思ったんです。それまで2年くらいモヤモヤした状態が続いていたので、今は行動すべきタイミングなんだと信じて、あえて勢いに任せた感じでした」
自分の家と思えない。ずっと続く旅行のような日々
運命を感じた場所での生活。実際に住んでみて、どうでしたか?
桑原さん:
「幼い頃から山に囲まれて育ったわたしにとって、生活するところに自然があるということは一番大切なことだったんです。東京に住んでそれをより実感して。
少々不便でもいいから、自然が目に見えるところにあって、あとは好きなお店がポツポツとあるくらいのこじんまりとした街がいいなと。旅行で行ったとき、トロムソはまさにそんなところだと思いました。
でも実際に住んでみたら想像以上に気候が厳しく、人も少なく感じて。東京は息苦しい! 大自然に住みたい!と思っていたんですが、意外と自分が街や人が好きなんだと自覚しました」
桑原さん:
「トロムソに住んでいる間に、何度か国内外に旅行をしたんです。でも、旅行から帰ってきても『自分の家』という感覚がなかったんですよね。
永遠に旅行を続けているみたいな……自分がその土地や家に馴染んでいる気がしなかったのかもしれません。それで、もしかしたらここにずっと住むのは違うのかもしれない。日本に戻ろうかという話が、夫婦の間で出始めたのが、住み始めて1年くらいの頃でした」
ほしかったのは、刺激よりも、自然のあるちいさな街
日本に戻ると決めたとき、どうしてもともと住んでいた東京ではなかったんでしょう?
桑原さん:
「東京はとにかく刺激的で、住みやすい場所です。でも、ノルウェーに行く前から感じていた、物の刺激よりも自然の力をもらいたいという気持ちは変わらずにあったんです。むしろ、トロムソの大自然を見てより強くなったのかもしれません。
自然が近くにあって、街がコンパクトにおさまっている。そんな街の候補をいくつか二人で旅行して、意見が一致したのが松本でした。
こじんまりとしたいい感じの店がいくつもあって、新しいスポットもどんどんできている。あと、松本の人って地元がすごく好きで、移住したいと話すとどこか誇らしげで(笑) 住んでいる人がその地域を愛していることも、心地よかったんですよね」
不満はないけど、未来は未定? 桑原さんの「ホーム」の行方
▲自宅の窓から松本城が見えるのも、家選びの決め手に。
松本に住みはじめて半年ちょっと。2度目の移住生活はどうですか?
桑原さん:
「いまのところ最高です! でも、半年後には違うところに住んでいる可能性も、ないとは言えないですね」
松本のことを話す時の楽しそうな様子から、ここが定住の地になるのかな? と思っていたわたしは、その発言に驚いてしまって。
東京からノルウェー、そして松本へ。いろいろな迷いや葛藤を感じながらも、自分がどこで暮らしたいのか、その場所から何を得たいのか、桑原さんは絶えず自分の心に問いかけ続けているのかもしれません。
続く後編では、桑原さんがいま思う「ホーム」について話を伺っていきます。そこには、桑原さんが動き続けることもいとわない、その理由がありました。
(つづく)
【写真】神ノ川智早
もくじ
桑原さやか
ライター。岐阜県出身。『北欧、暮らしの道具店』で、お客さま係として6年間働いていた元スタッフ。旅が好きで、冬の旅行で訪れたノルウェーの北極圏にある町、トロムソに一目惚れ。スウェーデン人の夫と共に、2016年6月〜2017年11月まで住んでいた。その後帰国し、現在は長野県松本に居を構える。
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