【わたしとアイスクリーム】後編:見たことのない味がここに。世界にひとつだけのパフェ
ライター 片田理恵
お菓子作家のcineca(チネカ)こと土谷みおさんに聞く、私たちらしいアイスクリームの楽しみ方。前編では市販のアイスをもっとおいしく食べる方法を伺いました。後編ではcinecaが作る世界にひとつだけのパフェ2作品を紹介。アイスがますます “愛すべき存在” になりそうです。
失敗すら愛おしい。
「アイスクリーム落としちゃったパフェ」
映画『ローマの休日』から生まれたパフェ
土谷さんの創作意欲の源にあるのは、大好きな映画の存在。アイスが出てくる映画といえば……そう、ご存知『ローマの休日』です。
オードリー・ヘプバーンがジェラートを食べるシーンは、ファッショナブルで活動的な、当時の最先端をゆく魅力的な女性像を象徴するようでした。
土谷さん:
「ヘプバーンが初めて自分で買ったアイスを、すごく大事そうに、すごく幸せそうに持ってるんですよね。たとえ道に落としたとしても、にっこり笑って食べちゃいそうなくらい(笑)。
その感じっていいなぁという気持ちから、この『アイスクリーム落としちゃったパフェ』を作りました。映画には、落とすシーンはないんですけどね。失敗も食べられるって素敵だと思って」
降り注ぐ太陽の下で食べたい、アイスクリーム落としちゃったパフェ
コンクリートの地面に見立てた黒ごまプリンは、器を片側だけホーローバットなどに乗せて傾斜をつけるのがポイント。そこにディッシャーでアイスを盛りつけます。持ち手のコーンは、アイスが地面に落っこちたような角度を演出しつつのせましょう。
拾おうとコーンを持ち上げると……?
なんと、コーンの中からゴールデンキウイとバナナのコンフィチュールがとろり。黒ごまの風味によく合う2種類のフルーツを果肉たっぷりのソースにして閉じ込めました。
見て楽しい、触って楽しい、食べる前からハッピーな気分で満開のユニークなパフェです。
星降る夜空を見上げて。
「花のプラネタリウムパフェ」
映画『シザーハンズ』から生まれたパフェ
こちらは映画『シザーハンズ』へのオマージュとして制作。物語の主人公・エドワードは、両手を大きなハサミにされてしまった人造人間。クリスマスの日にエドワードが作った氷の彫刻が、土谷さんの中で冷たいアイスクリームのイメージと重なったそうです。
土谷さん:
「エドワードが彼のハサミを使って作り出すファンタジックでアートな世界が好きなんです。庭の植え込みを犬の形にしたり、女性たちを個性的なヘアスタイルに仕立てたり。
物語の舞台になった町全体に箱庭のような美しさを感じていたこともあって、アイスクリームで作った雪と氷の世界をグラスの中に閉じ込めて表現しようと考えました」
ロマンチックな物語へ誘う、花のプラネタリウムパフェ
粗く刻んだ缶詰のチェリーをゼラチンで固めてジュレを作り、カカオニブと混ぜて皿に円形にのせます。その上にディッシャーでアイスを盛りつけ、ちぎった綿菓子で全体をふんわり覆って形を整えます。
最後にエディブルフラワーを散らして、完成。
映画の世界観を、まあるいグラスに閉じ込めて
まんまるなパフェのかわいらしさ、グラスで閉じ込めた世界を自分の手で開ける楽しさ、そしてそこにナイフとフォークを入れる瞬間のときめき。アイスクリームが溶けて花びらが浮かぶ姿まで楽しめる、まさに食べる彫刻のようなパフェが出来上がりました。
ふわふわの綿菓子とクリーミーなアイス、プチプチ歯ごたえのジュレを贅沢にひとくちでどうぞ。口の中に訪れる、食感も味わいも異なる三重奏は、これまで体験したことのないおいしさです。
色とりどりの可憐なエディブルフラワーも、もちろん全て食べられますよ。
「家アイス」ってなんだか楽しい。
土谷さんが作るアイスクリーム、いかがでしたか?
「アイスってこんなに自由に食べていいんだ」という発見、「私ならどうするだろう」と考えるおもしろさ。同じようには作れなくても、土谷さんのように大好きなアイスを自宅でもっと楽しく食べようという気持ちを、私たちも持てたらと感じました。
まだまだ続きそうな酷暑の日々。自分らしいアイスクリームの食べ方を探してみるなんて休日の過ごし方も、ちょっと素敵だなと思うのです。
(おわり)
【写真】岩田貴樹
もくじ
土谷みお
1984年東京生まれ。多摩美術大学卒業後、グラフィックデザイナーを経て、2012年に菓子ブランド「cineca(チネカ)」を立ち上げる。 ブランドのディレクション、デザイン、制作を手がけている。雑誌「PERK」でコラム「cinecaのおいしい映画」を連載中。2019年2月に表参道 UTRECHTにて新作販売の個展を開催予定。
http://cineca.si/
https://www.instagram.com/cineca/
ライター 片田理恵
編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。
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