【わたしの転機】後編:やらないより、やってみて失敗したほうが、かっこいいと思う。「havane」(アバヌ)オーナー・大坂友紀子さん
ライター 長谷川未緒
東京・参宮橋でセレクトショップ「havane(アバヌ)」のオーナーとして、充実した毎日を過ごす大坂友紀子さんの「人生のターニングポイント」について、前後編の2話連載でお話を伺っています。
前編では、洋服が好きだった子ども時代から、やりたいことが見つからなかった20代のこと、結婚を経て専業主婦になり、フランスでお店を開こうと模索していた頃のお話を聞きました。
つづく後編では、大坂さんの人生の転機となったお店オープンから、現在について、語っていただきます。
無鉄砲で怖いもの知らずだった、はじめての買い付け
「フランスでは無理でも、日本でなら何かできるかもしれない」
最初のフランス旅行で挫折を味わったあと、あらたな目標を見つけた大坂さん。背中を押してくれたご主人とのあいだで、実際に見てみて、よかったら買い付けてくると約束し、フランスへと旅立ちました。着いてすぐに、フランス語のできる友人と、honoré(オノレ)のアトリエへ向かいます。
大坂さん:
「家族経営のちいさなブランドだったこともあり、すごく気さくに迎えてくれました。
実際に見せてもらった子ども服は、どれもこれもかわいくて、日本では見たことがないような色あいとデザインで。これは絶対に売れる!と思いましたね。ほしい人がいるに違いないって、確信したんです。
そこでぜひとも仕入れてお店を開こうと思い、友人の通訳を介してお願いしたら、『どうぞ』って(笑)。まだお店もないわけですし、オープン日すら決まっていないのに、よく扱わせてくれたなぁ、と思います。
本当に、どうしてあんなことができたのか、いまとなっては自分でも不思議ですが、ど素人ゆえの怖いもの知らずだったんですよね。何もわからないからこそ、ストレートに行けました」
友人の助けを借りて、オープンしたものの……
▲はじめて買い付けたhonoré(オノレ)の子ども服。いま大坂さんの手元に残っているのは、これだけ
絶対に売れると自信を持っていた大坂さんは、大量にオーダーして帰国。さっそくお店の場所探しをはじめ、オープンに向けた準備を進めました。
大坂さん:
「関税だの掛け率だの、わからないことだらけで、もうほんとうにたいへんでした。雑貨屋を営む友人に助けてもらいながら、2005年にようやく開店にこぎつけたんです。最初は店名もhonoré(オノレ)にさせてもらって、いまの参宮橋ではなく、代官山に開きました」
自信があってはじめた大坂さんでしたが、ふたを開けてみたら、まったく売れなかったのだとか。
大坂さん:
「ぜんぜんお客さんも来ないし、当時はまだインターネットも盛んではなかったので、笑っちゃうくらい売れませんでした。はじめての買い付けだったので加減もわからず、サイズ違い、形違い、色違い、と全部オーダーしてしまい、つぎからつぎへと届くんです。もう、どうしよう……と頭を抱えましたね。
ちいさな洋服の詰まったダンボールの山を前に、とにかく減らしたい一心で、小売りもはじめたばかりなのに、卸し先を見つけようしたんです。honoré(オノレ)を扱ってくれそうなお店を思いつく限りリストアップして、朝から晩まで、1店舗ずつ、電話をかけまくりました」
一生懸命が、人に伝わる
相手にしてくれないところがほとんどの中、話を聞いてくれるところもあって、大手セレクトショップや有名店などでも扱ってもらえるようになったのだとか。
大坂さん:
「お店をはじめちゃったからには、やるしかないと必死でした。それに、一生懸命やっていると、助けてくれる人って、かならずいるんだと思います。1年が過ぎるころには、小売と卸を合わせて、なんとかやっていけるようになったんです。
それなのに、honoré(オノレ)が突然、もう洋服をつくらないと言ってきて。honoré(オノレ)という名前の店なのに、服がないようでは、お客さんをがっかりさせてしまう。どうしようか悩んだ末、店名を変えて続けていこうと思いました。havane(アバヌ)はそのときに付けた名前です」
フランス好きのおしゃれな人が集まる店に
フランスへ足を運び、気に入った服や小物、雑貨なども仕入れて店を続けるうちに、フランス好きのお客様が、遠方からも来店するように。そして代官山にお店を開いて3年が経ったころ、参宮橋に移転することになりました。
大坂さん:
「たまたま自宅近くの物件が空いたこともあり、娘たちも中学にあがるタイミングでしたから、目の届くところにいたいな、と。
またゼロからのスタートか、と尻込みしましたが、いざここでお店をはじめてみると、袋小路の行き止まりにあった代官山のお店とちがい、通りに面しているので、知らないひともふらっと寄ってくれるんです。代官山時代のお客さまも来てくれますし、かえってよかったな、と思っています」
これからも、やりたいことに前向きに
▲今年に入ってつくったお店のカフェスペース。ピスタチオ色のペンキ塗りは大坂さんたちがしたそう
「喜んでくれるお客様がいる限り、楽しくてやめられない」と大坂さん。参宮橋に移転して来年で10年になるhavane(アバヌ)は、いまでは目利きのスタイリストも頼りにするセレクトショップへと成長しています。
大坂さん:
「いまでも仕事には慣れないし、フランス語も話せないし、買い付けに行くたび緊張します。でも、ダメで元々ですから、いいなと思ったブランドにはフランス語のできる友人と突撃して、断られたら『わたし、よく頑張った』と自分をほめて、諦めるんです。ああだこうだ言ってやらないよりも、やってみたほうが、たとえうまくいかなくても、かっこいいかな、と思っています」
お店をはじめていちばん変わったことは何かと伺ったら、「年齢にしばられず、人生を楽しむようになった」とのお返事が。それはきっと、失敗を恐れず、やりたいと思ったことにチャレンジする姿勢があったからこそ、生まれた変化なのではないでしょうか。
娘さんたちも大きくなったいま、大坂さんはあらためて留学をしたいと考えているそう。自分の気持ちに正直に行動し、だめでもへこまず、しなやかに次へと進む大坂さんの人生の転機のお話には、人生を楽しむ秘訣がありました。
(おわり)
【写真】木村文平
もくじ
大坂友紀子(おおさか ゆきこ)
東京都生まれ。服飾の専門学校を卒業後、インポートのセレクトショップで事務職に就いた後、美容院に従事。結婚・出産を経て専業主婦時代の2005年に「代官山honoré」をオープン。2006年に「havane」に店名を改め、2009年に参宮橋に移転。フランスものを中心とした洋服や小物のセレクトに定評がある。店内にカフェスペースも設け、月に数度のイベント開催も。http://havanejp.com
ライター 長谷川未緒
東京外国語大学卒。出版社勤務を経て、フリーランスに。おもに、暮らしまわりの雑誌、書籍のほか、児童書の編集・執筆を手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
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