【スタッフコラム】さびしさと向き合う

編集スタッフ 齋藤

誰しもがそうかもしれませんが、小さな頃は、かなしいとかさびしいとか、そういった感情にひどく敏感だったような気がします。

なぜだかはわからないけれど、自分以外の世界ばかりが時計の針が寸分なく進んでいくように躊躇なく動いていくような気がし、その度にどこか荒涼とした土地にひとり、置き去りにされたような気持ちになることも度々でした。

優柔不断で自分のどの気持ちを優先させて良いのかよく混乱する私は、買い物ひとつとっても進路のことでもなかなか判断ができず、なんでみんなあんなにぱっと決められるんだろうとずっと不思議で仕方がありませんでした。本当は私の知らないどこかで悩みに悩んでいたのかもしれないけれど、私にはみんながいわゆる「現実に強い人」に見えていたのです。

だから心のどこかでずっと感情に流されないようにして、自分は弱いから強くならなくてはと、プレッシャーをかけていたような気がします。

さて、大人になってみると、子どもの時と違い私はさびしいと感じることがあまりなくなっていました。

いざとなったら携帯ですぐに誰かと連絡が取れますし、SNSを見ればいつも誰かが何かを言っている。それ以上に生活をどうにかしなくてはとか、自立しなくてはとか、あまりにも自分に課された課題が多すぎて、日々をこなすことに精一杯。

けれど、生活が落ち着き、家でひとりで過ごすことが多くなった今、ふと遠くから子どもの声が聞こえる部屋の中で、自分がずっとさびしいと感じていたことに気がついてしまいました。このことは私自身をひどく驚かせ、しばらく呆然として動けなくなってしまったほど。秋風に揺れるサワサワという木々の音ばかりが、妙に心に入ってきました。

なぜ驚いたのかというと、どこかでずっと自分は大丈夫と思っていたから。

さびしいのであれば誰かに電話をかけてみるとか、出かけて気を紛らわしてみるとか、いくつか解決策を考えてみましたが、どうも違う。

自分が何を望んでいたのかといえば、本当は存在していたさびしいという感情を、なかったことにしないで欲しい。そう思っていたような気がします。誰かにわかって欲しいわけでも助けて欲しいわけでもなく、ただ自分自身にだけは存在を認めて欲しいと思っている。そんな気がしました。

それと同時に「あぁ嫌だ」とも思ったのです。だって見て見ぬフリをできたら、どんなに楽でしょうか。そしてまた、誰かのせいにしたり、別の何かのせいにできたら、どんなに楽でしょうか。

けれども理由なんてわからないけれど、とにかくもう無視してはダメだと思ったのです。

今までは「甘え」とか「当たり前」とか「大人として」とか「社会人として」とか、自分の感情を押し込められる考え方を持ち出して、なかったことにしていたこと。そしてまた「さびしい」とか「かなしい」という感情を、勝手に自分の弱さだと決めつけていたことにも気がつきました。

何が強さで何が弱さかなんて、誰にも決めることなんてできないはずなのに。それは弱さなのではなく、何かしらの理由で私にとって都合の悪いものだったから「弱さ」ということにしたのかもしれません。

さびしいと認めてしまったら、誰かに面倒がられるかもしれないとか、あなたばっかり弱さを武器にしてずるいと思われやしないかとか、はたまた仕事をこなしていくために邪魔な感情だと思っていたとか、とにかく怖くて焦ったくて、私には都合が悪かったのです。

けれども例えば鎮痛剤を飲んだとしても、痛みを感じなくなっただけで、痛みはずっと存在している。それと一緒で、感情もなくなったわけではなかったこと。そしてふいに、何かの扉を開けてしまったかのようにその存在に気がついてしまった。あぁどうしたものかと思ったけれど、10代や20代の頃よりもずっと余裕ができたのか、自然と今までと違う方法をとってみようと思えました。

それは見て見ぬフリをするのではなく、受け入れて寄り添うということ。

自分の中に沸き起こった感情を理性で割り切れると思い込んでいれば、きっと自分に都合よく世界も自分自身をも動かしているような気分になれるけれど。それこそ、ただの強いフリでしかないのかもしれません。

だって人間って本来、融通が効かなくてひどく面倒で、よくわからなくて時にめちゃくちゃであることこそが普通のはず。それなのに、いつから都合よく扱えるもの以外はないことにしてしまおうと思うような、無理した大人になっていたんだろうと、それこそ自分がさびしい人間のような気がしたのです。

人から見たら何も変わっていないかもしれないけれど。それでも確かに、私の中のなにかが変わった日々でした。

もちろん明日があるから、ずっとさびしさの中にいるわけにはいきません。

それでも、いくつになってもさびしいと感じるのは当然だし、誰しもがさびしいと素直に言って良い。そしてもう無理しなくて良いんだよと、私みたいな誰かに伝えたいと、思わずにはいられないのです。

 


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