【金曜エッセイ】72個の目標を立てて3年目
文筆家 大平一枝
第七十九話:72個の目標を立てて3年目
大リーガーの大谷翔平さんを真似して、72の目標達成シートを作り始め、今年で3年になる。
彼は高校時代に、「ドラフト1位で8球団から指名が来る」という大目標を立て、そのために「からだ作り・マインド・人間性」など中目標を8つ、「仲間を思いやる・道具を大切に扱う・下半身強化」など小目標を64、あわせて72の項目を一つ一つクリアしていった。
私も、文章の質を高めるという大目標のもと、72のアクションを考えた。大目標は例年変わらないが、中〜小目標は少しずつ変わるので、1年ごとに書き換える。
大谷さん式の目標シートは、便利なアプリがいくつか出ているので、とりかかりやすい。
たとえば去年は、資料本以外で年間100冊の読書を小目標に掲げたが、達成できなかったので、今年は冊数を現実的な数に減らした。
元旦に作った私は、思わず失笑した。
「ていねいに」という言葉が5つも登場しているからだ。よほど、自分の粗忽(そこつ)さ、雑さをコンプレックスに思っているのだろう。
原稿一本一本をていねいに、どんな仕事もていねいに、メール文をていねいに、ふだんの言葉遣いをていねいに。恥ずかしながら、残るひとつは「スケジュール帳をていねいに書く」である。まるで小学生のようだ。
仕事のそれは手書き、プライベートはアプリのスケジュール帳を使っている。毎日見るものだから、手書きもきれいに整え、みぢかなところから “ていねい” を意識しようと、アイデアをしぼりだした次第である。
ひところ、家事や育児、暮らしをていねいに、という概念に縛られ、思うようにできない自分を責めたり、少なからず罪悪感を抱いたりした。
しかし徐々に、自分も家族も快適ならそれがいちばんだとわかってきて、ていねい呪縛から解放された。
子育ても卒業に近づきつつあるいま、今度は別の “ていねい” に憧れを抱くようになった。なにごとにもさりげなく、でもきちんと心を配れる人間でありたい。買わずに手作りするとか、ものを最後まで大事に使い切るような行いだけがていねいだと思いこんでいたが、もう少し別の角度にも視野が広がった。
心のあり方、自分のあり方を見直したくなったのかもしれない。慌てず、手を抜かず、無理ない範囲で何事にも心をこめる。
なんだか禅問答のようだが、その手始めの具体的なアクションが「スケジュール帳をていねいに書く」だったんだろう。
クリアしたら、「済」のスタンプを押す。ちなみに去年は19個。少ない……。
クリアできてもできなくても、小さな道標があると張り合いになる。続けるコツは、達成できない自分を嫌いにならないこと。できなかったことはまた繰り越して、挑戦すればいい。
もう今年が半月も経ってしまった。72個もあると忘れがちなので、ここらで読み返すとしよう。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか。『東京の台所』(朝日新聞デジタル&w),『そこに定食屋があるかぎり。』(ケイクス)連載中。一男(24歳)一女(20歳)の母。
大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com
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