【日々に旅する瞬間を】第1話:早く目覚めてしまった朝。ひとりだけのティーパーティー
編集スタッフ 齋藤
旅に出たい。
決して毎日がつまらないわけではないけれど、春の匂いを感じた途端にむくむくと生命がふくらんで駆け出すように、心の中の何かが旅に出ようと誘ってくる。
そんな瞬間、みなさんにもないでしょうか。
「旅」と聞くと、遠い異国の地や、飛行機や電車を乗り継いで行く目がくらむような広大なフィールドが思い浮かびます。けれども旅とは、物理的なものだけではないはず。
一冊の本を読んだ後も、ひとつの恋がおわった後も、夢を見た日の朝だって、あなたという人間の何かがどこかに行きそして戻ってこられたなら、それは旅であったはず。
この特集では架空のひとりの女性を主人公に、いつもの暮らしの中に不意に現れた非日常の瞬間を切り取りました。
物語の1話目は、ちょっとだけ早く起きてしまった朝の光景から。
ひとり目を覚ました早朝は
彼女にとっての非日常
いつもより30分早く目を覚ましてしまった朝。
たったの30分。窓の外から聞こえる音も、部屋を流れる空気もしんと透きとおっている。
自分の影すら曖昧な青い空気の中で、一体何をしよう。不意に訪れてしまった時間に少したじろぎ、私は今、自由なのだと知った。
寒いけれど、このまま起きてしまおうと決めてベッドを出たら、見慣れた家の中がいつもと違う気がして、なんだか不思議な気分になった。
しばらくぼうっとしたけれど、とりあえず、お茶でも飲もうとキッチンへ。
ふと戸棚を開けてみたら、いつか飲もうと思っていた、友人からもらったお茶があった。マロウブルーという名のハーブティー。
友人に「魔法みたいに色が変わるお茶なのよ」と言われたのを思い出す。時間がある時に飲んでみようと思っていたのに、すっかり忘れていた。
いつもはゆっくりお茶を飲む時間もないから、今、私だけの秘密として飲んでみよう。
最初は紫色だったお茶が、いつの間にか薄いグリーンに。
朝日を浴びながら、目も楽しませてくれるお茶を片手に束の間のティータイム。
本棚から学生の頃に読んだ古い本をひっぱり出した。トルーマン・カポーティの「ティファニーで朝食を」。
洒落たニューヨークの街並みと、自由奔放な19歳の女性。彼女の名刺にはこう書いてある。「トラヴェリング(旅行中)」と。
学生の頃はおしゃれなファッションに身を包み、羽が生えたように生きる主人公に憧れていたのに。
今は、そんな彼女を愛情深く見守る主人公や周囲の人々に、自然と心を向けてしまう自分がいた。
さて、マロウブルーの話をもう一度。どうやらレモンを絞るとさらに色が変わるのだそう。それも、びっくりするほど違う色に。
お茶は、みるみるピンク色に変わっていった。
本当に、まるで魔法みたい。子どものように心を弾ませながら、カップを朝日に透かして眺めた。昔憧れた女優のリップのような、どこかヘルシーなピンク色。
そして一口。あたたかな液体が、ゆっくりとお腹に落ちてゆく。
もう一口飲もうと思ったら、一階から目覚まし時計の音。
私がいつも起きている時間が、やってきた。
Photo : Mitsugu Uehara
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