【おしゃれな人】第2話:トップスとボトムスのバランスがおしゃれの基本
ライター 一田憲子
おしゃれとは、どんな洋服をどう組み合わせて着る、だけではない。たたずまいや気配が美しい人が、本当のおしゃれさんなのかも……。
そんな仮説とともにウエディングドレスのブランド「ロンブル エ ラ ルミエール」を主宰し、ドレスのデザイン、制作を手がける山室瑠衣さんにお話を伺っています。
前回は、ウェディングドレスのデザイナーになるまでのお話を伺いました。第2話は、そんな山室さんのおしゃれについて聞いてみました。
第1話
あえて自分らしさを消し、仕事の顔へ
▲セットアップは東京目黒にあるオーダースーツの店「ライフスタイルオーダー」で仕立ててもらったもの。また間には、「ditto」のスカールを合わせて
ウェディングドレスのオーダーの相談や、試着にいらしたお客様を迎えるとき、山室さんはオーダーで仕立てたというスーツをピシッと身に纏います。
山室さん:
「目立たず、でもきりっとする感じがいいんです。仕事のときは自分を出さないように、あまり自分の話もしませんね」
好きなものを着て自分らしさを表現するのも、仕事のためにあえて自分らしさを控えめにするのも洋服の力。そこを使い分ける術はさすがです。
▲グレーのセットアップの足元からちらりと見える靴下の黄色がかわいらしい。
そんなスーツに合わせるのは、「チャーチ」のレースアップシューズです。聞けばご主人がピカピカに磨いてくださるのだとか! 合わせた靴下は「ラルフローレン」のもの。よ〜く見ると馬のマークがワンポイントではなく、たくさん散りばめられています。キリッとした装いの中、足下だけに遊び心がのぞく……。そんなところも、山室さんの計算し尽くされたおしゃれ。
コンプレックスをカバーするサイズ感とは
▲「フィリップリム」のトップスは、編み込み模様が気に入って。麻のワイドパンツは「ラルフローレン」。バッグは「PB0110」
山室さんのおしゃれには、ひとつの決まったバランスがあります。それがワイドパンツに、トップスはピタッとフィットしたものを合わせるということ。「基本は上がタイトで、下がボリュームがある感じ。体が薄いので、みすぼらしく見えないように気をつけています」と教えてくれました。
おしゃれな人に共通するのが、自分にあった「サイズ」を知っているということのように思います。誰もが完璧な体型のわけはなく、おしゃれはいつもコンプレックスと背中合わせ。でも、そのマイナスをプラスに変換できるのが、自分らしい体型を活かす「サイズ感」です。
▲お母様が編んでくれたというニットのトップス。
今回、山室さんのお母様が編んでくださったというニットを見せてくださいました。白と黒のノースリーブのニットセーターはそれぞれとてもシンプル。
山室さん:
「子供の頃は痩せすぎていて、服が決まらず、それが悩みの種でした。でも母が作ってくれたニットは体にフィットしてきちっと見えたので、その頃から好きでしたね。今もトップスはニットが中心です。
凹凸のある網目によって立体感ができるので、Tシャツやシャツよりもきれい目に着られて、私にはあっているなと思っています。ニットって見え方に品があるというか……。ちょっとふざけた柄もののパンツを履いても、ニットを合わせると決まるので、すごく便利なアイテムなんです」
▲ヴィンテージ シルクの柄の布で自作したというパンツ。派手な柄でもニットを合わせると上品にまとまる。「パラブーツ」のローファーを合わせて。
「私はこうありたい」と伝える手段が洋服だった
▲シンプルなトップスにスカーフで色をプラス。スカーフをすることでトップスの襟元の汚れを防ぐという効果も。
若い頃には、いろんな服を着てみたことも。
山室さん:
「ヘンな服もいっぱい着たんです。好きで着ていたけれど、全然似合っていなくて(笑)。学生時代、お金がなくて、バイト代も洋服だけには使えませんでした。そんな中で、買えるものが限られているからこそ、だんだん自分のスタイルが決まっていったように思います。
太めのパンツに、きゅっとしたトップス、リーボックのスニーカーでクラブに遊びに行くのが好きで……。『私のことをこう見て欲しい』という思いが強く、それが壊れるのが嫌で、ずっと同じスタイルでした」
どうやら山室さんは若い頃から、「こうありたい」という思いが明確だったよう。
一方で、作り手ならではの目線で、買えないけれど「いいもの」を見ることも大好き。「シャネル」のブティックに行ってみたり、古着屋さんで「オールドエルメス」をじっくり眺めたり。
山室さん:
「今でもマックスマーラなど、イタリア系の素材と仕立てがいいものが好きですね。電車の中で仕立てがいいコートを着ている人を見かけると、じっと見ちゃいます(笑)」
▲かっちりした小ぶりのバッグが好き。ドイツの「PB0110」というブランドのもの。
おしゃれは「誰かと同じ」じゃなくていい
▲ パリジェンヌのような首元がきゅっと詰まったタートルネックが好き。
そんな中で、一度だけ、スタイルをがらりと変えた時期がありました。東京でアトリエを構えた頃、突然ミニスカートが履きたくなったのだと言います。
山室さん:
「ちょっとかわいらしい感じにしたかったのかも。今までやったことがないスタイルを『今やらなきゃ!』って思ったんですよね。ミニスカートはシンプルなものが欲しかったから『ZARA』で買ったりしていました」
そんな時のシルエットの参考にしたのは、なんとアニメのキャラクターだったと聞いてびっくり!
山室さん:
「ドラゴンボールのブルマの服は、ピンクの色合わせがかわいいなあとか、AKIRAの金田のジャケットの短さがいいなあとか(笑)」
私たちによくありがちな、雑誌のコーディネートを真似してみたり、憧れの人の真似をして服を買ったり……ということはほとんどなかったそう。「いくらその人のスタイルが好きでも、体型的にそうはなれないので……。ちぐはぐな自分も恥ずかしいですし」と語ります。
自分の目からインプットしたものを組み合わせ、自分らしさを自分でつくる。それが山室さんのおしゃれの基本のよう。
自分が自分でいられるおしゃれを
▲イヤーカフは「sirisiri」のもの。
こんな風に自分のスタイルが決まってきたのも、仕事を初めてから。
山室さん:
「若い頃は、このチョイスで大丈夫かな?という不安もあったけれど、場数を踏むことで自信って育ってくるものだと思います。少しずつ、自分の発言や選ぶ服によって『私はこういうスタイルが好きです』とか『こういう世界観が好きで、これが大好きという気持ちは負けません』とか……。そう言えるようになってきた気がします」
自分のスタイルをきちんと持った山室さんは、とても伸びやかでラクチンそうに見えました。何を着ようかと悩むこともなく、あっちへこっちへとおしゃれがブレることもない……。そんな姿を見ていると、「おしゃれに見られたい」という願いを手放してもいいのかも……と思えてきます。
まずは、「私はこういう人です」と決めることから。おしゃれの第一歩の踏み出し方を教えていただいた気がします。
次回は、山室さんのメイクについて伺います。
【写真】鈴木静華
もくじ
山室瑠衣
デザイナー、ドレスメーカー。北海道帯広市生まれ。バンタンデザイン研究所ファッション学部で、パターンを学ぶ。2006年、秋田県にウエディングドレスと服飾資材を販売するアトリエ兼店舗「トワル rui」をオープン。2008年より、オーダーメイド専用アトリエ「アトリエトワル rui」とし、予約制のサロンに変更。2011年東京に移転。2014年からプレタポルテライン「ロンブル エ ラ ルミエール」をスタート。シンプルでありながら、美しいフォルムと、他にはない繊細な刺繍をあしらったウエディングドレスは、知る人ぞ知る存在。https://www.l-lumiere.com
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