【わたしの味方】第2話:思うように進めないことはあるけれど

編集スタッフ 野村

目の前の何かに頑張りたい時、自信が持てずに少し弱気になった自分を励ましたい時に、いつもお守りのように聴いている音楽があります。それはシンガーソングライター・NakamuraEmi(なかむら えみ)さんの音楽。

そんな彼女自身のお話を伺っている本特集。第1話では、紆余曲折あった20代と、自身の気持ちを救ってくれた友人についてのお話を伺いました。

第2話では、悩み続けていた20代を経て、少しずつその悩みから解放されていった経緯やきっかけになったものについてお聞きします。

第1話を読む

 

他人の目を気にしていた自分を変えたもの

20代後半、自身の気持ちを救ってくれた友人からの一言と合わせて、ヒップホップのミュージシャンとの出会いにも、強く影響を受けたとNakamuraさんは話します。

NakamuraEmiさん:
「ヒップホップをやっているミュージシャンの人たちは、他人からどう思われるなんて気にせず、自分の音楽を自分らしく表現していたんです。

それまでの私は、周りからの評価を気にして人当たりの良い歌詞を書いていました。でもヒップホップに出会って、この人たちのような、嘘のない筋の通った人間に近づきたいなって気持ちが強くなったんです」

NakamuraEmiさん:
「その影響もあって自分が作る曲の歌詞も、自分の感じたことをそのままさらけ出していくようなものに変わっていった気がします。

それから、自分が思ったことや弱音なんかもずっと日記のように書き留めていって。その行為自体が自分の相談相手のようになっていたので、自然とその内容が歌詞にもつながっていきました。

自分らしさをさらけ出した上で、かっこいい音楽になっているヒップホップという音楽の存在が、自分の支えにもなっていたんだなぁと思います」

 

今輝けるかは、自分の気持ち次第

私・野村がNakamuraEmiさんのことを知ったのは2016年の春。当時、就職して新社会人になったばかりの私は、担当した仕事が自分の思い描いたものとなんだか違っていたことにモヤモヤしていました。

第一希望の職種ではないし、もし違う業種の会社に行っていたならもっと生き生きとしていたのだろうか、と目の前のことにも集中できない日々。周りにも、そして自分にも誠実な態度を貫けないことが、なんだか嫌だなと感じていました。

そんなモヤモヤしていた気持ちを抱えていた時に、彼女の『YAMABIKO』という楽曲がラジオから聞こえてきました。

ここから見える場所は私がいた高校だ
「あの時は輝いてた」
「今つまらないのが当たり前」
そんなの自分次第だ
あの時より輝いてたいじゃんか

あの時より あの時より あの時より あの時より

『YAMABIKO』NakamuraEmi より歌詞の一部を抜粋

リズミカルなギターの音色にのせて、次々と歌われる力強い歌詞の数々は、目の前のことに弱気になっていた自分に喝を入れてくれるような、そして何よりそんな自分を励ましてくれるような言葉に満ちていました。

今つまらないのは、自分の気持ち次第。気の持ちようで目の前のことも楽しくできるし、今という時間を大切にできるかもしれないと、この歌に何度も励まされてきました。

この曲にどんな想いを込めていたのでしょうか。

 

日常を暮らしていくのは大変で、すごいこと

NakamuraEmiさん:
「『YAMABIKO』は、2011年の東日本大震災があった後にできた曲で、その時に感じたこと、今まで関わってきたたくさんの人の顔を思い浮かべながら作っていました。

その時自分は、『音楽をやってるなんて、すごいね』と特別に見てもらえることもあったんですが、家族のために会社を40年勤め上げた上司や、工場で黙々とプロ級の仕事をこなす人たち、仕事だけじゃなくて母親としても頑張る親友、それぞれに大変な日常を暮らしている身近な人たちの方が、ずっとずっとすごいし、かっこいいなって感じて。

そんな人たちへの応援や、尊敬の気持ちをぎゅっと詰め込んで、できた曲でしたね」

 

思うように進めないことはあるけれど

NakamuraEmiさん:
「曲の出だしの『歩き出した山道はガラスの破片が多いんだ』って歌詞が、自分の中でも大切な一節なんです。

音楽を始めたけれど、たくさん反対されて一度は音楽をやめたり、でもまた始めたり。仕事やプライベートでもしんどいなぁって感じることが色々あって、『やりたいことに進むのは、なんて難しいことなんだ』と自分自身が何度も実感していたからこそ出てきた歌詞でした」

NakamuraEmiさん:
「曲を作った当時、山登りをよくしていました。ある登山仲間の1人から、山の頂上を目の前にして、体調面から登頂が不可能になって、文字通り泣く泣く下山したんだって話を聞いたんです。

そういう、あとちょっとで目標に届かないこととか、予期せぬことで目標に進めなくなるなんてことは、現実の暮らしの中でも大なり小なりたくさんあるなって感じて。

でも目標に向かって歩んできた努力や気持ちがなくなるわけじゃないし、それでも前を向いて歩いていきたいなって自分自身に訴えかけるためにも、この曲のいろんな歌詞が出来上がっていきました」

***

やりたいことに、やりたいように進むのは難しいことだし、叶わないことだってたくさんある。

Nakamuraさん自身、思い描いた人生を順風満帆に進むことができなかったからこそ、その悩みを素直に言葉にして歌う彼女の姿に共感し、一緒に励まされる気持ちが生まれるんだと感じました。

そんな彼女のその後のメジャーデビューを支えていたものは一体どんなことだったのだろう。第3話ではそんなお話を、そして、彼女自身を支えているある詩についてのお話を伺っていきます。

(つづく)

【写真】神ノ川智早


もくじ

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NakamuraEmi(なかむら えみ)

神奈川県厚木市出身。1982年生まれ。様々な職種を経験する中で、いろいろなジャンルの音楽に出会い、歌とフロウの間を行き来する独特なスタイルを確立。小柄な体からは想像ができないほどパワフルに吐き出されるリリックとメロディーは聴く人の心の奥底に突き刺さる。

2016年1月、日本コロムビアよりメジャーデビューアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST』をリリース。収録楽曲の「YAMABIKO」が全国のCSやFM/AMラジオ52局でパワープレイを獲得。2021年4月から、3ヶ月連続デジタルリリースと題し、デジタルシングル4曲をリリース。7月には、メジャー6枚目のアルバム『Momi』をリリース、9月からはアルバムを携えた全国25公演ツアーを行う。


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