【57577の宝箱】その星を手にした瞬間無敵になる 私が光るスターを集めて

小説家 土門蘭


わたしは昔から趣味が少ない。

強いて言えば「読書」か「映画鑑賞」だと答えていた。でも、どちらも半分は仕事のようなものだ。アウトプットするにはインプットが必要だから、その時間を取ることはわたしにとって義務でもある。もちろん本も映画も大好きなのだが、それが純粋に趣味なのかと言われると首を傾げてしまう。

そんな話をしていたら、友人から「他に趣味はないの?」と聞かれた。
一所懸命考えてみるのだが、思いつかない。出不精なので旅行も滅多に行かないし、運動しようと通い始めたジムも1年で辞めてしまった。料理も裁縫も園芸も得意じゃないし、大好きなアイドルや役者がいるわけでもない。

そもそもわたしは、何をするにしても面倒くさがりなのだ。何かを始め、続けることは、気力と体力のいることだ。だから仕事にまつわること、つまり義務じゃないと動こうとしないのだと思う。

§

「それでも趣味は欲しい。仕事ばかりしていてはいけないような気がする」
勝手なことを言っているのはわかっている。でも、休みの日も仕事か家事しかしないのは我ながらどうかと思うんだよね。そう言うと、友人はこんなことを教えてくれた。

「趣味って、3つの特徴を兼ね備えているといいらしいよ」
曰く、「1、インプットがある」「2、アウトプットがある」「3、外に出る」、この3つが満遍なく揃うと、リフレッシュできる趣味になりやすいらしい。
「わかりやすいので言うと、スポーツとかそうじゃない? 技術を覚えて、外で体を動かして」
そう話す友人は、最近テニスを始めたのだという。月に一度テニス好きの仲間と集まって、ひたすら打ち合うのが楽しいのだそうだ。

友人の話を聞きながら、なるほどなぁ、と思う。そう言われてみると、冒頭に挙げた「読書」も「映画鑑賞」も、わたしの場合「1、インプットがある」「2、アウトプットがある」の間を往復するだけだった。例えばそこに「3、外に出る」を付け加えると、もっと趣味らしくなるのかもしれない。お気に入りのカフェで読書するとか、映画館に足を運ぶとか。

「そうそう。家の中にばかりいると気が滅入るじゃん」
友人がそう言い、確かにその通りだ、と思う。そうだ、もっと外に出よう。リフレッシュできるような趣味を作ってみよう。長年小さな悩みだった「趣味が少ない」問題に、解決の光が見えたような気がした。

§

とはいえ、何をするにも面倒くさがりなわたしのことである。前もって道具を揃えたり、何か手続きや勉強が必要だったりする事柄には、どうも億劫になってしまう。

それで、簡単に趣味三原則を満たす事柄はないかと考え、ジョギングを思いついた。風景を見て(インプット)、走って(アウトプット)、外に出る。完璧ではないか。思いついてすぐ、靴箱からシューズを引っ張り出し、目覚ましを朝5時半にかけた。

翌朝、眠い目をこすりながら、家族を起こさぬようそっと玄関のドアを開ける。
外に出ると、朝のまだ新しい空気が冷たい。思わずわたしは伸びをし、深呼吸した。身体中を新鮮な空気が満たしていくようで、ものすごく気持ちがいい。

地面を蹴って、走ってみる。財布もスマートフォンも持っていないので、体が軽い。子供のようにその身ひとつで走っていくと、見慣れた風景がどこか遊び場めいて見えた。

§

今回ジョギングを始めるにおいて、決めていたことがある。
それは、無理しないこと。しんどいときは休むこと。目標を立てないこと。

以前通っていたジムでは、「週1は絶対通うぞ」と目標を立てていた。頑張って通っていたのだが、あるとき行けなかったことがあって、それ以来やる気が失せてしまった。自分のペースや気持ちよさをちゃんと把握できていなかったから、続かなかったのだと思う。

それで今回は、「気持ちよければそれでいい」と思うことにした。体力作りやダイエットではなく、これは趣味なのだ。楽しい、嬉しい、気持ちいい。この気持ちを感じるためにわたしはジョギングをする。だから、それが感じられなくなったらすぐにやめよう。

そう思って走り始めたのだが、気づけば今日で10日が経っている。頑張らなくても、気持ちがいいと続くものなのだなと発見だった。のんびり走ったり歩いたりしているわたしの横を何人もジョガーが追い越していくが、それでいい。わたしはわたしの心地いいペースで行けばいい。

朝の光が反射する川の水は綺麗だし、川辺で休む鴨はかわいい。若葉の緑はいい匂いだし、風の中を突っ切っていくのは気持ちいい。楽しい、嬉しい、気持ちいい。そのことをちゃんと味わえているから、それでいい。

日が経つにつれ、毎朝早く起きるのが楽しみになってきた。キラキラ光る朝の数十分を体験した後には、自分もまたキラキラ光っている気がする。すると、「さあ、仕事を頑張ろう」という気になるのだ。嬉しい気持ちになったあとは、素直にエネルギーが湧いてくる。

暑くなったらこの趣味も自然となくなるかもしれない。でも、数日間だけでもこんな気持ちが味わえてよかったなと、のんびり走りながら思う。

「趣味を作ろう」と構えたりせず、こんなふうに気軽に、身軽に、好きなことを増やしていけばいいのだろう。楽しい、嬉しい、気持ちいい一瞬を、自分なりに集めて自分のエネルギーにしていけばいい。それらはきっと、ドアを開けた先にたくさん落ちている。

 

“ その星を手にした瞬間無敵になる私が光るスターを集めて ”

 

1985年広島生まれ。小説家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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